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第23話 た

 ネイリが調査班に協力することになってから一年が経った。

 私は8歳になった。

 私は街の端の家に住んでいる。

 家は簡単な申請をすれば、住む許可が下りた。


 前の持ち主はまだ地下にいるか、もしくはもういないか。

 多分、後者の可能性のほうが高いだろう。

 まだ地上の魔力濃度はほぼ変わらない。もう戻らないと思う。

 地下に隠れた普通の人達がみんな無事でいるとは思えないし、まず地下に逃げ籠めているかもわからない。


 それにこれは私の推測でしかないけれど、きっとこの街を仕切っている魔法使い達は、もしも魔力濃度が下がっても、地下から普通の人を出す気はないと思う。みんなもそれに気づいているはず。

 そして、それに反対する人は少ない。普通の人がまた仕切り始めれば、理由もわからない戦争に駆り出される。わざわざそれを望む人は数少ないだろう。


 魔導兵たちをもう見なくてもいい。それは単純にうれしい。

 これからどうなるかはわからないけれど、この一年は一度も彼らは現れなかった。多分、あの魔力が溢れ出る場所を越えることができないのだろう。


 調査班に入ったネイリはいつかあの魔力も調べに行くかもしれないと言っていた。

 たいして私はここで特にすることもなく、ただ日々を過ごしている。

 なにもしていない私には特に援助は贈られてこないけれど、私一人ぐらいならなんとか生活できる。それは私の力ではなくて、彼女のおかげではある。

 別に私は生活をそんなに長く続けるつもりはなかったのだけれど。


「ルミリア、いますか?」


 小さく戸を叩く音がして、重たい体を持ち上げる。


「いらっしゃい、ネイリ。久しぶり」


 ネイリは最低1カ月に一回はここに来る。

 本当はもっと来たいと言っていたけれど、魔法使いの調査は想像以上に難航しているようで、あまり休みは取れないみたい。


「これ、持ってきましたよ。置いときますね」


 そう言って、彼女は小さな箱を置く

 それはいつも通りなら、街の中心部で配布されている携帯食料の詰め合わせのようなもので、ネイリはいつもそれを置いていく。


 そのおかげで私はこんなに長く生活できているわけだけれど、ネイリはそれで大丈夫なのかと不安になる。でも、彼女が言うには調査班の人には多めに食料が配られるから大丈夫なのだそうだ。


「いつもありがとう。でも、無理はしないでね? 私のことは別に気にしなくていいのに」

「大丈夫です! それより、ルミリアはちゃんと食べていますか?」

「食べてるよ。おかげさまでね」


 それから彼女の近況報告を聞きながら、お湯を飲む。

 私の少ない魔力でも、この家の機器はだいたい動かせる。大きいものは難しいけれど、火を出すぐらいなら簡単に。


 調査班は賑やかな場所のようで、楽しく生活できているらしい。

 調査結果に関しては詳しくは話せないようで、どこまで進んでいるかは知らないけれど、声色の感じからすれば、あまり良い結果ではないみたい。


「でも、そろそろ一つの結果が発表できると思います」


 そう言って、彼女はこの家を出た。

 この一年で彼女は変わった。

 考えてみれば、これだけ時間があって、環境も変われば、誰だって変わるものではある。それにネイリはまだ2歳だし。


 私の呼び方も変わったし、髪型も変わった。

 性格は、多分変わってないけれど。


 彼女が帰るころにはもう日は暮れている。

 庭に置いた小さな椅子に腰かけて、夜空を眺める。


 夜空を眺めるたびに思う。

 どうして私はこんな場所にいるんだろうって。

 ここにいるべきなのは確実に私じゃないはずなのに。


 私はただ運が良くて、生き延びてしまっただけだ。

 昔は……戦場にいたときは生き延びたいと願っていたけれど、そんなのなんだか遠い過去のような気がする。ここでは特に命の危険は感じない。


 野に放たれた魔法生物も、防衛線によって、ここまでは来ない。時折空を飛んでいるのは見るけれど、わざわざ空から降りてまで魔法使いを襲うほど彼らも愚かではないし。


 だからだろうか。

 どうして生きたいと願っていたのかを忘れてしまった。

 いや、多分、昔は考える暇がなかっただけなんだろう。

 でも今は。


 いろいろなことが頭をよぎる。

 星明りの下で手のひらを見ても、ここはどこなんだろうって。

 感覚は巡りまわるだけで。


 ラヒーナのことを今でも思い出す。

 もう声は忘れた。声だけじゃない。欠けられた言葉も、笑った顔も朧気。 

 でも、私は彼女のことを忘れられない。


 私を大切だといった彼女を。

 ネイリとは少し違う目をしていた彼女を。

 ラヒーナは私にどんな感情を抱いていたのだろう。


 私の感情よりも大きかったはず。

 私は、ラヒーナをどう思っているのだろう。


 大切だとは、思っている。彼女より付き合いの長い人はいなかった。

 ラヒーナはいつも平然と帰ってきて、彼女がいなくなるなんて想像もしていなかった。


 でも私は薄情だったんじゃないか。

 ラヒーナは私を助けに来てくれたのに、私はいろいろ理由をつけて、その場に立ち止まっていただけ。何もできなかった。


 私の心は、どうしているのだろう。

 私の心は、どこにあるのだろう。


 なんでこんなに心が動かないのだろう。

 ラヒーナも、ネイリも、あんなに大きな感情を私に向けてくれたのに。

 それがどういう感情だったのか、私にはわからない。


 そんな私をどうして彼女達は大切だと言ってくれるのだろう。

 私は、何も返せないのに。

 私の小さな心じゃ何もできないのに。


 何かの間違いなんじゃないかな。

 少し、勘違いしただけなんじゃないかな。


 私はそれが怖い。

 私を大切だと言ってくれることはとてもうれしい。でも、私は何も返せないし、ネイリが自分の言った言葉に縛られてるんじゃないかって。


 ネイリはどんどん変わっていく。

 もう、私のことなんて忘れてしまえばいいのに。

 休みになれば、毎回来てくれてるようだけれど、彼女は向こうで新しい対人関係を身に付けていることはわかっている。近況報告の時にいつも楽しそうに話してくれるから。


 それなら、休みの時も新しい友達と遊べばいいのに、どうして私のところに来るのだろう。本当は彼女も私のところよりも別の友達のほうへ行きたいんじゃないだろうか。

 そして彼女はそれに気づいてないんじゃないだろうか。

 前に私に大切だと言ってしまったせいで、その心が変わってはいけないものだと思っていないかと不安になる。


 きっと、変わってしまった方が良い。

 私よりも、ネイリを大切に思ってくれる人がいるはずだから。


 あの時……ネイリに大切だと言われたとき、彼女の記憶を消してしまうべきだっただろうか。

 私の魔法ならそれができた。私の魔法を記憶を消すために使う。それには魔法の射程距離まで近づかなくてはいけないけれど、ネイリなら怪しまれずに近づけるだろうし。

 この方法は気づいていたけれど、誰にも使ったことはない。ラヒーナにも話したことはない。彼女なら、気づいていただろうけれど。


 自分の記憶も戻せたら、忘れてしまったことを思い出せるのかな。

 今の私のようになれて良かったと昔の私は思うかな。


 戦火から離れて、穏やかな今の生活は、望んだものではなかったのだろうか。

 死から離れて、簡単に生き延びれるようになったはずなのに、生き延びようと積極的に思えない。ネイリが食料をくれなければ、とっくの昔に死んでいた気がする。


 今でも殺されるのは嫌だし、別に死にたいわけじゃない。

 でも、食料を得るためになにかをしようとは思えない。生きるために、食料を集めに行こうとは。けれど、そろそろ何かをしないといけないことはわかっている。


 ネイリにずっと頼りきりになるわけにはいかない。

 もしも私が何もしなければ、彼女はずっと私のところに来てしまうだろう。だから、せめて私だけも生き延びれるように何かしないと。


 そうすれば、彼女も私のことを忘れてもいいと、大切と思わなくていいと、きづいてくれるだろうか。

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