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「これで邪魔者はいなくなったな」
宇佐義が言った。
えっ?
あかりんは急に恥ずかしくなった。
まさか、わざと変なこと言ってニコルンを怒らせたの。
ってことは、やっぱり、イケメンさん、私と二人っきりになりたかったんだ。
モォー!それならそうと早く言ってよね。
やだ!急に心臓がバクバクしてる。
いきなり壁ドンとかしないでよ。
あかりんは自分の妄想で耳まで真っ赤になっている。
ああ、このまま私、初体験をすましちゃうのかしら。
考えてみると、葉っぱしかまとってないしぃー。
勢いにまかせて……………………。
なんかあっさり終わっちゃいそう。
でもイケメンさん、波動砲を発射するのにずいぶん時間をかけてたしぃー。
だめだ、あかりん、梅酒飲んじゃう。
あかりんは梅酒を三杯、一気に飲み干した。
あかりん、酔っちゃった。
あかりんがふらついて倒れそうになる。
それを支える宇佐義。
やだ!今宇佐義さんの腕の中。
あかりん、幸せ。
あかりんは宇佐義の方を見てられない。
やだ!あかりん、はずかしい。
あかりんは顔を手で隠す。
あかりん、イケメンさんにも酔っちゃいそう。
「おい!宇佐義」と御茶ノ水博士が口をはさんだ。
「ズルっ」とずっこけるあかりん。
あかりんは地面で頭を打った。
なんだ、いたのかあー、ハゲ!
ほんと、このハゲ、ジャマなんですけど……………………。
せっかくのラブラブチャンスなのに。
御茶ノ水博士と宇佐義がじゃれ合っている。
宇佐義が茶柱で御茶ノ水博士の頭を突っついている。
宇佐義が御茶ノ水博士にヘッドロック。
ツルッとスベって宇佐義が前のめりになる。
いいな、あの二人。
仲良くしちゃってさ。
ズルくない。
私だってイケメンさんとじゃれ合いたいのに。
なんだろう、この気持ち。
まさか、私、ハゲてーるに嫉妬してる。
ていうか、イケメンさんを変な道に誘い込まないで。
御茶ノ水博士が宇佐義に指浣腸。
飛び上がる宇佐義。
私の宇佐義さんに何するのよ。
キャラにないことさせないで。
宇佐義はお尻をおさえて笑ってる。
ああ、なんて尊い笑顔。
イケメンさんの笑顔は私の太陽です。
このまま私を照らし続けてください。
宇佐義が御茶ノ水博士に指浣腸。
御茶ノ水博士が飛び上がる。
本当、少年みたい。
そんなイケメンさんがだーい好き。
御茶ノ水博士が報復の指浣腸。
最低。
早く大人になって。
おじさんになって指浣腸なんて、バカじゃ無いの。
宇佐義が茶柱を束ねて御茶ノ水博士の頭皮を叩いてる。
「カテキンで生えてこい」
なんて友達想いのイケメンさん。
「モォー!頭皮が血まみれだよ」
御茶ノ水博士が拒絶する。
最低な大人ね。
イケメンさんの愛が分からないの。
少しでも毛が生えるようにって頭皮を刺激してるのにさあー。
私、そんな優しいイケメンさんのことが大好きです。
「だーいすけ!」
思わずあかりんは叫んでいた。
なんなの、喪服チャンの呪い。
「だいすけって誰?」
御茶ノ水博士が宇佐義に聞いた。
「さあ?」
「彼氏じゃない」
御茶ノ水博士が言った。
「彼氏じゃないわよ」
あかりんが怒る。
ほんと、最低。
イケメンさんが誤解するようなこと言わないで。
あかりんは宇佐義の顔を見る。
「可愛いお嬢さん、だいすけはいないようですよ」
「きゃあー、やっぱり」
あかりんは宙に舞う。
イケメンさんはあかりんのことが好きなんだ。
「あかりんもイケメンさんのことがだいすけ!」
宇佐義が笑ってる。
待って、これってイケメンさんが照れてるだけじゃ無いの。
そうよ、私みたいな可愛い子を前にして、はしゃいでるだけじゃない。
告白したいけど、緊張する。
だから照れ隠しでハゲとじゃれ合ってる。
なるほど……………………。
気が付くとあかりんはパイプをくわえてる。
そう言うことだったんだ。
「謎は解けたよ、ワトソン君」
「ワトソンって誰?」
御茶ノ水博士が辺りを見渡す。
「外人なんかいないよね」
ああ、このハゲ、邪魔。
あなたがいるとイケメンさんが告白できないでしょ。
気を遣いなさいよ。
あかりんは御茶ノ水博士を睨んでる。
二人ってお友達なんでしょ。
ほら、どっかに行って。
今からイケメンさんが私に告白をするんだからね。
「おい、宇佐義。こっちに来てくれ!」
御茶ノ水博士が手招きしてる。
宇佐義は御茶ノ水博士のあとをついていく。
モォー!何、なんなのよ。
せっかくいいとこだったのにぃー。
最悪。
鈍感。
ああ、分かった!
嫉妬してるんだ。
イケメンさんがいつもモテモテだからジャマしてるのね。
意地悪なやつ。
お友達のふりして、イケメンさんが私みたいな可愛い子といちゃいちゃしてると邪魔するんでしょ。
ほんと、陰険なやつ。
そんな性格じゃ、普通にしててもモテないのに、もっとモテなくなるわよ。
まあ、ハゲてる時点で詰んでるけどね。
ああ、そうやってイケメンさんの邪魔をしてうさを晴らしてるのね、最低男。
「どう思う」と御茶ノ水博士が地面を指差している。
そこには足跡。
「どう思うも何も、このゲソ痕は間違いなくまりこさんのゲソ痕じゃないか」
「やっぱりそうかあー」
「ああ、やっと科捜研から逃げ出せたのに」
宇佐義が肩を落としてる。
「まりこさんからは逃げられないようだね」
「いや、諦めたら試合終了だ」
宇佐義は土を採取する。
「まりこさんから逃げられるわけ無いだろう」
「でもまだ捕まってない」
「無駄だと思うよ」
「もう嫌なんだ。残業、残業の毎日」
「科捜研の鬼ババアからは逃げられないよ」
「いや、せっかくのチャンスなんだぞ」
「まりこさんはハンターなんだぞ」
「嫌だ、嫌だ」
宇佐義が狂ったように土を掘り返す。
「逃げるだけ無駄だよ」
「強制労働が待ってるんだぞ」
「シベリアに行ったと思って諦めろ」
「嫌だ、嫌だ。君みたいにハゲたらどうするんだ」
「確かに」
「毛根が元気をなくしたら地獄だ」
「そう、ぼくみたいにハゲたら地獄だね……………………」
御茶ノ水博士が頭をさすっている。
「とにかく逃げなくちゃ」
「どこに逃げるんだよ」
「まりこさんがいかなそうな場所だよ」
二人は黙りこんだ。
「無いな、そんな場所。この地上にはね」
御茶ノ水博士は苦笑い。