精都ネプチューンにて
「あ!ご主人様、起きたのですね!」
目を開くと、青く透き通るような髪を持つ少女の顔が私の目に映った。
なぜ、私は膝枕なんてされているのかしら。
一つの疑問が浮かぶ。
すると、それを察したかのように、青い髪の少女が私の体を起こして立たせると、私に向かって膝をつき頭を垂れる。
「失礼いたしました。ご主人様。私は、ご主人様より魔力をいただき人型を得た、水翼聖魔龍のサンでございます!」
少女は、喜色満面な笑みで私の疑問を知っていたかのように答える。
……まあ、いろいろ言いたいことはあるけれど、ひとまずこれでそれなりの戦力が手に入ったということでいいのかしら?
「ご主人様の命令であれば、いかなるものにも従います!」
またも、眼前に立つ少女は私の考えを知っているかのように答えた。
─もしかして……
この駄龍、心を読んでいるようで気持ち悪いわね。
心の中でつぶやく。
すると、少女は少しうなだれたような姿勢になり、小声で「ご主人様に嫌われちゃう…ヤダ……捨テナイデ…」などと病んだ声でつぶやき顔を青ざめさせている。
なるほど。
「あなた、心が読めるのね。」
その言葉を聞いた瞬間、少女は顔を青どころか白く染め、膝から崩れ落ちる。
「ごめんなさい…ごめんなさい…嫌わないでください……!ヤダ………嫌わ…ないで…!」
…この子は何を言っているのかしら?
「別に嫌わないわよ。あなたが私に従順な戦力である限り。」
そもそも、心が読めるなんて能力、そんな有用なものを持っているのですもの、利用しない手はないに決まっているじゃない。
しかし、私の心を読めるはずの少女は、まるで私のお前を物として利用する発言が聞こえていないかのように、表情を喜色に染める。
「はいっ!ご主人様のためであれば、私は命も惜しくありません!!!」
フフフ、いい戦力が手に入ったわ♪
サンとの話し合い?がひと段落すると、後ろから聞き覚えのある少女の声が聞こえた。
「ん~、ここはどこなの~?」
後ろを振り返れば、そこには原初の火…あらためサクがいた
「あ!女王陛下なの!それじゃあ、もしかしてここが陛下のお城なの!?すごく大きいの~!」
私の存在に気が付いたサクが、走って駆け寄ってくる。
ん?お城?
私なんでこんなところにいるのかしら?
今更ながら、周囲の異常さに気が付く。
私、否、私たちがいる空間は、確かにどこかの国のお城の謁見場かと見紛う程に広い部屋だったのだ。
しかし、夜会や舞踏会を開くことも充分にできるほど広い部屋にも関わらず、装飾は天井から吊り下げられている三つのシャンデリアと、床に敷かれている真紅の布に金色の縁が縫い付けられているカーペットだけと部屋に対してあまりにも質素だ。
そもそも、なぜ私はサンの膝で眠っていたのかしら?
というか、確かに起きた時点ですでに不自然な状況にいた。
なぜ、今まで全く不思議に思わなかったのだろう。
すると、恐らく私の心読んだであろうサンが申し訳なさそうな表情でこちらに向かってくる。
「申し訳ありません…ご主人様。実は、ご主人様が私に魔法をかけてくださった後、すぐに倒られまして…それで、放置するわけにもいかず、ここまでお連れしたのです。」
─なるほどね。
確かに、難しい魔法を使いはしたけれど、まさか一回で魔力を使い切るとは思わなかったわ。
それで、ここはどこなのかしら?
「はい。ここは、水の妖精王様の治められている精都ネプチューンの王城ヴォジャノーイです。」
あら?
つまり、ここはティターン王国ではないの?
「そうであるともいえますし、そうでないとも言えます。」
………どういうことかしら?
サンは、人外らしく、人間とは違う試すような笑顔を顔に張り付かせ言う。
「ここは妖精の国ですから。そもそも、世界が違うわけですし。そこを突き詰めるのは、少々難しいかと。」
「…………」
「あら?ご主人様はもしかして、恐怖されているのですか?」
……ああ。
愉悦といった表情で、目の前のトカゲが私にげ下卑た笑みを向けてくる。
「ふふふ、お可哀そうに…!」
…もういいわ。
「罪の茨、料理してやりなさい。」
しかし、龍は焦るどころか待っていましたと言わんばかりにこちらに向かって突進してくる。
まずい…!
そう思った時には、すでに茨の近くまで接近を許してしまった。
トカゲが口を開く。
「我々の業界ではご褒美です!!!!!!」
なんだ、ただの変態か……。