後に彼是
「サク、ホントにこのオオトカゲ使えるの?」
五天龍(笑)を指差しながら、赤髪の少女に向かって問う。
すると、少し困ったような顔を浮かべながら、少女は口を開いた。
「その子はまだ子供なの。だから弱い。けど、大人になれば女王陛下には届かなくても、私みたいな妖精よりはずっと強くなるわ」
子供ねー。
正直、子育てなんてしている余裕はないのだけど。
「早く大人にする方法はないの?」
純粋に、今は早く戦力が欲しい。
それに、もしこの駄龍が私に逆らえる程の力を持つ危険因子になる可能性があるならば、さっさと殺してしまう方がいいわ。
「できないわけでは無いわ。けど…」
何だ出来るのか。
「ならさっさとその方法を教えて」
鋭く、眼前に立つ妖精に向かって問い詰める。
彼女は、一つ「はぁっ」というため息を吐くと、私と同じように龍に向かって人指し指を立てる。
「実を言うと、龍種…特にこの子みたいに幻想種を得ているのと、私達上魔妖精は似ているの。」
そう言いながら彼女は、《大きくなーれ》の魔法陣を龍に向かって描く。
すると、先程までに比べ倍までとはいかないまでも多少、水翼聖魔龍が大きくなった。
「私の使う魔法はね、単体だとあまり効果がないの。けど、この子は魔力を吸収することによって成長する種類の龍なの。」
そう言いながら、サクは一つ二つと魔法陣を描き、龍に向かって術を行使していく。
「ごめんね、女王陛下。私、もう魔力がなくなってしまったわ。」
《大きくなーれ》の魔法を8回程、龍に向かってかけたところで、サクが突然その場に崩れ落ちる。
「…貴方は消えるの?」
一つ、眼前に伏す妖精に問う。
声色には恐らく感情はなく、表情からも特に表現できることがないほど私の心は無に支配されていることだろう。
しかし、妖精は春の木漏れ日のような暖かい笑みを私に向け、愛おしげに言う。
「いいえ、少し時間はかかるけれどすぐに回復するわ。すぐに完璧な、成龍にすることができなくてごめんなさい。」
妖精の声には、すでに力はなく徐々に意識が遠のきつつあることを物語る。
「なぜ、あんなに言い淀んだの?」
「何が?」
「そこの龍を成龍にするの方法よ。別に、魔力で成長するならあんなに隠そうとする必要はなかったのではなくて?」
妖精は、すでに床に転がるような姿勢で倒れ、声も先程よりもか細く聞こえづらい。
しかし、絶え絶えになりながらも必死に声を紡ごうとしているのだろう。
「それはね……女王陛下はまだ…魔法を……使ったことが……ないでしょう…?それに……龍を成龍にするにはね…とてつもない魔力…を…必要とするの。それ…を…今の貴方が……することは…不可能だと…思って。」
…なんだ、そんなことか。
「もういいわ。貴方の身体は、運んでおいてあげるからゆっくり休みなさい。」
そう言うと、サクは安堵したように瞳を閉じて眠りについた。
さてと、
「水翼聖魔龍…あなたの名前は、今日からサンね。」
いちいち長い名前を呼ぶのが面倒くさいと思い、適当に名付けを行う。
しかし、龍はまるで感極まったかのように瞳に涙を浮かべ、「ありがとうございます!ありがとうございます!」と言い喜びながら、頭を地面に押し付けている。
…さっきの威厳はどこにいったのかしら?
…………まあ、いいわ。
「それと、今からあなたに一つ魔法をかけるわ。」
そう言いながら、一つ二つと魔法陣を重ねていき巨大な魔法陣を形成する。
《魔力波》
攻撃でもなく、支援でもなく、呪術の類いでもないこの魔法は、本来であれば生物には一切の影響を及ぼさない。
なぜなら、ただの魔力の塊を対象に向かいぶつけるだけだから。
しかし、この龍に関しては他にはないほどの意味を持つ。
魔力の塊をぶつければ、この魔力によって成長する龍は、瞬く間に成長することだろう。
…まあ、使ったこともないから、もしかしたらトマトになるかもしれないけれど。
まあ、私が死ぬわけではないからいいわ!
「《魔力波》♪」
辺に、気持ちの悪い空気が流れたような気がした。