日々彼是
その日は、今までで最も深く良く眠れた。
生まれてからずっと背負い続けた重荷から、やっと解放されたような気持ちだ。
多少、眠ってしまうことに恐怖はあったが、眠っている間は「罪の茨」が私のことを守ってくれていたらしく、ベッドの周りにミンチ肉が数百グラム出来上がっていた。
「ご飯はどうしようかしら?」
致命的なことを忘れていた。
恐らく、調理師たちはすでに亡命しているか、食材になっているかだ。
こんなことなら、数人はちゃんと生かしておくべきだったかもしれない。
街から拉致るか!
「王女セーー!」
「黙りなさい」
グチャ
コイツも調理師じゃない…
調理師探しを始めて1週間がたった。
どうやら、魔の緑と同化した時点で人間をやめたらしく、飢餓感はない。
けれど、違和感があるからできればそろそろちゃんとした食事がしたいところだ。
しかし、王都の中で加工をしすぎてしまったせいで、元国民たちに警戒されてしまっている。
━そうだ!妖精とやらを出して手伝わせましょう!
アルフレッドのクソを殺した時に、新たな権能を思い出したのだ。
置いてあった薪で火を起こし、一滴血を垂らす。
「来なさい。上魔妖精《原初の火》」
そうして、火に向かって呼びかけてやると、先程まで止まることなく動いていた火が静止し、徐々に球体に変わっていく。
「私のことを産んでくれてありがとう!女王陛下!」
私のことを嬉しそうな目で捉える、人間とそれほど変わらないくらいの赤い髪を持った妖精が産まれた。
妖精の中でも、最上位の存在である上魔妖精も、ティターニアであればいくらでも生み出すことができるのね。
面白い能力だこと。フフフ…
「原初の火。生まれたばかりで申し訳ないのだけど、この街の中から料理ができる人間を探し出して頂戴」
「わかったの!」
元気な返事とともに、掌に魔法陣を描きぶつぶつと何かをつぶやき始める。
「…………!《始まりの火》!!!」
妖精の声に呼応するように、魔法陣に小さな火が生まれる。
しかし、産まれたばかりの火はとても小さく弱々しい。
…期待はずれね。
そう思い茨を動かそうとするが、すぐに止める。
小さな火が徐々に大きくなり、赤々としていたはずの火が青色に変色していくのだ。
「《勢い上げてこ〜》♪、《熱くなれ!熱くなれ!》♬、《大きくなーれ》♫」
不思議な魔法を唱えると、その度に二倍三倍と大きくなっていく。
そしてそれを…
「《選定する、神々の炎》!!」
などと言って、街の中心部に向かって投げ捨てたのだった。