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エピローグ

「……それでライノア。長年の宿願を遂げた心境はどうだ?」


 国王の執務室に入るなり、ニヤニヤといけすかない表情を浮かべているこの国の王であり友でもあるウルリックに対し、普段の私なら溜息を漏らし苦言の一つや二つは呈していた事だろう。


 ただ、今の私はすこぶる気分が良いのだ。揶揄うつもりであろうにやけ顔の友人など、この世の何よりも愛おしい彼女に比べれば他の全てはその辺に生えている雑草のように瑣末なことにすぎないのだから。


「そんなもの聞かなくとも解っているでしょう。今なら貴方のつまらない冗談にも大笑いできるくらい世界が輝いて見えますよ」

「つまらない冗談とは失礼な奴だな!」


 私がにっこりと笑みを浮かべれば、彼は私の言葉が気に食わなかったのか、むすっとした様子ではあったもののどこか安堵しているようでもあった。


「……まぁ見るからに幸せいっぱいなようで安心したよ。プリーメル卿にとってはお前のような男に捕まって良かったのかどうかは全く解らんが」

「寝言は寝てから仰ってください。私はアレッサを愛していますし、彼女も私の事を愛しているのですから、幸せに決まっています」

()()()、ねぇ……」


 何か言いたげな顔で私を見てくる彼をじろりと睨め付ければ、彼はわざとらしく大仰な溜息を漏らした。


「だってお前とプリーメル卿の愛の重さは全然違うだろ。お前の言うその愛とやらがいかに重くてねちねちと執念深いのか、オレはよぉぉぉぉく知ってるんだからな……!」

「そんな事、貴方に言われなくとも知っています。私が何年アレッサだけを見てきたと思っているのですか」


 アレッサへ抱き続けてきた私のこの醜悪で救いようもない想いが、彼女が私に向ける純粋で美しい想いと同じ訳がない。そんな事は私が誰よりも知っているのだから。


 何を当然な事を言っているのかと真顔でいれば、ウルリックはがしがしと無造作に自分の髪を掻き上げた。


「ほら、そういう所だよ。本当にお前はプリーメル卿に関わる事だけはやる事が極端すぎる……いいか、普通は恋人でもなんでもない相手に毎日こっそりと古代魔術をかけ続けるってのは異常だし、かけられた方だって普通に意味が解らなくて気持ち悪い事なんだからな!?」

「それは確かに私では力不足だったと痛感していますよ……私の心許ない魔力量のせいで、彼女に振り掛かる全ての災厄から護る事が出来なかったのですから」


 古語まで学んで辿り着いた、彼女を影ながら護る古代魔術。古代魔術は毎日かけ続けるなどの制約は多いものの、その分必要とされる魔力量は然程多くない。


 理論や術式は完璧でも、私に圧倒的に足りないのが魔力量だ。こればかりは先天的な才能であり、努力だけではどうにもならず、騎士を志している彼女の身を護るために何かしたくても、現代魔術では私の魔力量で望む効果を得られるものを見つけだす事は叶わなかったのだ。


 あらゆる書庫の書物という書物を読み漁り、ようやく辿り着いたのが対象者が命の危機だと感じた時に発動する防御と反転の古代魔術だ。


 効果はかけ続けた日数によって増していくというのは、毎日彼女に会う理由にもなる。しかも相手との触れ合いの度合いによっては、毎日という日数の間隔の猶予も長くなり、効果はより高まるというのだ。


 かつては戦に送り出す夫や妻、恋人を護るための魔術だったという事もあり、その前日に唇や体を重ねていれば会えない間もそれだけ長く相手を護ってくれるという訳なのだが、これは騎士団の任務で長く王都を離れる事もある彼女の為にはうってつけの魔術だと言えるだろう。


 今回は彼女が求婚されたと聞いて、嫉妬任せに彼女の同意も得ずに唇を奪ってしまった事が幸いしたが、これまでは彼女が遠征の時には転移魔術が得意なリーヴェスに協力を頼んでいた。彼の良い所は、私の目的を知っても揶揄う事はなく、良い酒さえ渡しておけば気前よく応じてくれる所だ。


 まぁそれも、今後は必要がなくなるだろうが。


 そう考えた所で、私は小さく溜息を漏らす。一番の問題は、アレッサ自身にあるのだ。


「アレッサにとっては脇腹を切り裂かれるくらいでは命の危機といえないのが問題なのです。彼女の柔らかくて美しい髪が焼かれるのも、です」

「そりゃお前……騎士なら致命傷でもない限り、ある程度は耐えるように訓練してるだろ。彼女に剣を教えたのは、他でもないガーラン騎士団長だぞ」

「こうなると、もっと強力な守護の魔術を探さなくてはなりません。あんな心臓が潰れるくらいの恐ろしさを味わうのは、二度と御免ですからね」


 彼女にとって、騎士という生き方は全てであり誇りだ。彼女が傷付く事は望んでいないが、その生き方を否定する事は出来よう筈もない。


 それならば、その誇りごと護れるよう密かに手を尽くすまでだ。


 そう思うのは当然の事だと思うのだが、ウルリックにしてみれば、その考えこそが重いらしい。全く意味は解らないのだが。


「流石にあんな災厄級の変異種はそうそう現れないだろ。地質や気候にまで影響を与える程だなんて、お前の10年分の重い執着レベルでないと太刀打ちできん」


 がしがしと頭をかくウルリックは、そう言うと大きな溜息を漏らす。


 古代魔術の発動で火蜥蜴(サラマンダー)の群れと変異種は消滅したが、程なくしてあれだけ高かった気温は例年通りに落ち着き、ずっと降っていなかった雨も降り出した。


 ロイエの森を調査してみれば、あの辺り一帯が火山性の地質に完全に変化しており、それは火蜥蜴が消滅してからも変わりはないそうだ。


 実に逞しいのは、ハラグの商人達はその事を逆手にとり、今は温泉事業の開発を急いでいるという。


「今回は幸い騎士団に死者は出ませんでしたが、調査の結果、それ以前に山に入ったと思われる民間人が数名犠牲になっていたのが確認されています。魔獣が現れた原因を探る為にも、今後も詳しい調査が必要でしょう」

「他の場所でも、いつ何が起こるか解らんからな……はぁぁぁぁ……エルリカが心配すぎる……オレがこうしてる間に、エルリカに何かあったらどうするんだよ!?」


 両手で頭を抱え、ちらちらと言外にエルリカ王妃殿下の元へ行きたいという訴えをするウルリックに対し、私は冷めた目を向ける。


 本当にこの男は、やろうと思えばやれる男だというのに、この逃げ癖だけはどうにかならないものだろうか。


「そのエルリカ王妃殿下から、くれぐれも貴方が政務を放り出さないように見張れと言われております。また逃げ出そうなどとはゆめゆめ思いませんよう」

「うぅ……お前はいいよな!帰ったらプリーメル卿が待ってるんだろ!?」

「えぇ、その通りです。ですのでさっさと仕事をして、私をアレッサの元に帰して頂きたいものですね」

「くそぉぉぉぉ」


 窓の外を見やれば、戻ってきた穏やかな気候の中、開放されている庭園には人々の笑顔が戻っている。この笑顔がアレッサの護ったものだと思えば、実に誇らしく、彼女の隣に立ち続ける為にもまだまだ努力し続けなくてはならないと身が引き締まる思いだ。


 そうして今日中に国王の決裁が必要な書類を分類していたその時だった。


「ここにおったのか!この顔だけ腹黒宰相!!」


 ノックもなしにいきなり扉を開けてやってきたのは、私の事を一方的に敵視しているライナ王女殿下だ。


 ウルリックにそっくりな金の巻き毛を逆立てている様子は、威嚇している仔猫のようにも見える。この手の相手は慣れたもので、私はふっと口の端を上げると、恭しく礼をとった。


「これはこれは、ライナ王女殿下ではありませんか。本日もご機嫌がよろしいようで」

「元凶のくせによくも抜け抜けと!()()()()()アレッサを早く返さぬか!!」


 こうして彼女は事あるごとに、アレッサは自分のものだと主張する。


 これまではそれに反論するには、私とアレッサの関係は確かなものではなかった。だが、それも昨日までの話だ。つい笑みが溢れてしまうのは隠しようもなく、それが癇に障ったのか彼女は更に眉尻を吊り上げた。


()()アレッサです。正確には()()アレッサのものなのですよ。何せ本日よりライノア・()()()()()となりましたから」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 一際大きな声が響く中、目をこれでもかというくらい見開いて震えている彼女に対し、私はにっこりと笑みを向ける。


「う、嘘じゃ……わたくしのアレッサが、よりによってこんな腹黒執着男を婿にしただなどと、わたくしは信じぬぞ!」

「そう言われましても、貴女様の兄君様の承認も得ておりますから正式なものですよ。ちなみにガーラン騎士団長の許可も頂いています」


 アレッサの父君であり、今日からは私にとっても義父となったガーラン騎士団長には、かなり前からアレッサへの求婚の申し込みをさせて頂いていた。


 ただ、私の立場がキルシュ公爵家の嫡子というのが何よりの問題で、しかもガーラン騎士団長には既にアレッサの結婚相手として考えている男が他にいるというのだ。


 それが彼女の親友でもあるクレー卿だというのは、家柄や彼の治癒術という能力からも明らかだった。


 アレッサは全く自覚がないようなのだが、凛とした炎のような美しさは男だけでなくライナ王女殿下のように女達も魅了する。だからこそ彼女に好意を抱いた男達は、裏から手を回して彼女への求婚を阻止していたものの、クレー卿だけはそういう訳にはいかなかった。


 彼は彼女にとって大切な幼馴染であり親友だ。彼に何かすれば、いくら私を好きだと言ってくれていても、最悪私の方が嫌われかねない。


 クレー卿は明らかにアレッサを意識していたが、アレッサにとっての彼は家族にも似た存在に見えた事だけがせめてもの救いではあったものの、いつだって当然のように彼女の傍にいる彼に嫉妬しない訳がない。


 彼女が微笑みかけて、髪に触れる。そんな姿が羨ましくて妬ましくて、いつだって私の中には醜悪な感情が渦巻いていた。


 おそらく、彼女に初めて求婚したというのもクレー卿なのだろう。幼馴染という心地良い関係を、彼は自ら崩したりはしないだろうと踏んでいたのだがとんだ誤算だった。


 両親を納得させる為にも、歳の離れた弟を次期公爵として申し分のない程度に様々な知識を教え込み、嫡子の立場を弟に譲る。それが出来て始めて求婚が許される私とは雲泥の差だ。


 その後は、予定よりも少し早くはあったが、暫くは私が補佐をするという条件で両親には嫡子から外れる事を認めさせ、その旨を含めてガーラン騎士団長へ何度目かも解らないアレッサへの求婚状を送っていればあの事態だ。


 結局のところ、ガーラン騎士団長は『アレッサが心から望む相手を婿に迎える』という姿勢だった事が本当に幸いだった。それに、今はガーラン騎士団長がされているプリーメル伯爵家の領地の管理など、騎士団に関わる仕事以外の全てを私が引き受けるとお伝えした所、泣いて喜ばれていたのでそれも決め手ではあったのだろう。


 元々プリーメル伯爵家は武門の名家だ。それ故に、代々優れた多くの騎士が国に仕えてきたものの、その能力が剣術の才に突出しすぎた反動からなのか座学にも秀でた者は非常に稀であり、ガーラン騎士団長も才女で有名だったプリーメル伯爵夫人が病で亡くなられてからは苦労されてきたらしい。


 これからも騎士としての道を邁進していく親娘を、何より愛おしいアレッサの隣で支えられるこれからの日々を思えば、醜悪な私の心も救われるようだ。


 そんな感慨に耽っていれば、ライナ王女殿下が物凄い形相でウルリックに掴みかかる所だった。


「兄様!?」

「い、いや……そんな目で見られても……こればっかりは当人同士の問題なんだよ、ライナ」

「婚約をすっ飛ばしていきなり結婚なんじゃぞ!?しかもこの男はハラグから戻るなりアレッサを邸に監禁した不届き者だというに……!」

「監禁とは人聞きの悪い事を仰らないで下さい。プリーメル伯爵家の邸に私が押しかけているのですから、アレッサはただ自分の邸に居るだけです」


 これまではライナ王女殿下の護衛の為に王城内にある騎士宿舎で寝泊まりする事が多かったアレッサだが、今は王都にあるプリーメル伯爵家で過ごしている。


 それをこのように監禁だなどとあらぬ疑いで批難されるいわれもない。そもそもライナ王女殿下はこれまで専属護衛騎士としてアレッサを独占していたといっても過言ではないのだから、少しくらい私が彼女を独り占めしても構わないだろうに。


 そう思うのだが、納得できない様子の王女殿下はきっと私を睨みつけた。


「そのアレッサが!!あれから数週間も経つというに、一度も王城に来ておらんのじゃぞ!!この性悪男が監禁しておる以外に考えられんではないか!!」


 ライナ王女殿下の叫びが部屋にこだまし、何かを察したらしいウルリックが目を丸くし、信じられないものを見るような目でこちらを見てくる。自分の事は棚に上げて失礼な奴だ。


「…………ライノア、お前……マジか……」

「なんですか、その顔は。言っておきますが、私は無理矢理なんてしていませんよ。全て合意の上です」


 彼女に一度触れてしまえば、こうなるだろう事は解っていた。


 触れるたびに愛おしさは増すばかりで、もっと触れたい、悦ばせたい。その欲望は際限なく溢れていくばかりで、もっと深い所で繋がる幸福を知ってしまった今、あの温もりのない夜をどう過ごしていたのか思い出せない程だ。


 だからこそ私自身の欲望から彼女を護るために、アカデミーの頃は距離を取ったのだから。


「いや、でもお前……プリーメル卿はめちゃくちゃ鍛えまくった騎士だろ!?これだから初恋を拗らせたヤツは……」

「そもそもアレッサには休養が必要なんです。火蜥蜴の群れ相手に奮戦した後なんですから。まだひと月くらいは寝台から出なくてもいいと思っていますよ。私が食事も着替えも、全てしてさしあげたいのですから」

「うわー……重っ……本気でプリーメル卿に同情するよ」


 自分だってエルリカ王妃殿下を溺愛しているくせに、どの口が言っているのか。そう思ったものの、話をしている暇があればさっさと手を動かして早くアレッサの元へと帰りたい。


 私が溜息を漏らしてウルリックとの会話を切り上げれば、またいつもの兄妹喧嘩が始まっていた。それを横目に見ながら、私は黙々と書類を捌いていく。


 全てはアレッサに早く会いたい。その一心だった。






「アレッサ、今帰りましたよ。調子はいかがですか?」


 予定よりも早く帰ってきてみれば、彼女は未だ微睡(まどろみ)の中にいた。


 昨夜も朝まで無理をさせてしまった自覚があるだけに、体をしっかり休められるよう、紅茶に少し薬草を混ぜてはいたものの、眠そうな瞳で私を見上げるその表情があまりに可愛らしく、啄ばむように唇を重ねる。


 まだぼんやりとした意識の中でも私の唇を受け入れる彼女に、どうしようもなく胸が高鳴った。


「ん……ライノア様?え、待ってください、今何時ですか!?」

「もう夕刻です。貴女はまだ体が辛いでしょう?食事はここに運ぶように伝えていますから、安心してくださいね」

「い、いえ……!こんな怠けてばかりでは体が鈍るばかりではないですか!」


 慌てて身を起こそうとする彼女を押し留めると、また一つ口付けを落とした。


「運動なら十分にしているではありませんか」

「わぁぁぁ!?そ、そういう事ではありませんっ!!毎日剣を持たないと感覚が鈍るのに、もう何日も部屋から出てないだなんて、こんな事今までなかったのに……それにライナ王女殿下の元へも行けていません!」


 顔を真っ赤に染めている彼女は、騎士然として凛々しい姿とはあまりにかけ離れていて、こんな愛らしい姿を見られる幸福に笑みが溢れた。


「1ヶ月の特別休暇届を出しておきましたから、安心してください。何せ明日からはハネムーンですから」

「え」

「寝台に一日中居た所で、誰に咎められる事もありませんよ」

「あ、あの、どうして上着を脱がれて――」


 脱いだ文官の制服を寝台横にある椅子にかけると、未だに照れた様子で視線を泳がせている彼女の頬に優しく指を添えた。


「それはもちろん、今夜が本当の結婚初夜ですから。貴女を幸せで満たして差し上げようかと」

「うぅっ……よろしく、お願い致します」


 恥ずかしそうに視線を伏せながら、おずおずと躊躇いがちにされる彼女からの口付けは、甘い疼きと共に私の心を満たしていった。






 もう何度目だろうか。意識を手放した彼女は、すやすやと規則的な寝息をたてている。肩口で綺麗に揃えられた髪は、私の記憶の中に今も鮮やかに残る少女の面影のままだ。


「アレッサ、貴女は覚えていないでしょうけれど、私達が初めて出会ったのはアカデミーではないのですよ」


 公爵家嫡子という身分とこの外見のせいで、幼い頃は誘拐の危機に晒される事は日常茶飯事の事で、まだ何の力も無かった私は、少しでも顔が隠れるように伸ばした前髪で顔を隠し、人目を避けて本ばかり読んでいるという暗い少年だったのだ。


 そんなある日、同じ歳だという理由でウルリックの遊び相手に選ばれた私は、剣の稽古をするという彼に連れられて騎士団の訓練場に初めて足を踏み入れる事になる。


 ウルリックの剣の師匠だというガーラン騎士団長は、燃える様な赤毛が眩しい偉丈夫だった。彼とウルリックが剣を合わせているのを遠巻きに見ていた私の目に、突然飛び込んできたのは、彼と同じく目が眩むような炎の髪をした少女だ。


 彼女は大人達に混ざりながら、全く怯むことなく相手に立ち向かっていく。素人目に見ても子供らしからぬ強さだ。


 全身で剣術が好きなのだと訴えているような、そんな強烈な輝きは、あまりに眩しくて、格好良くて、一瞬で魅せられてしまったのだ。


「ウルリック王子殿下、あの子はどなたですか?」

「ん?あぁ、あの子はガーラン騎士団長のお嬢さんだよ。確かアレッサって言ったかな」

「アレッサ……」

「というかお前、しゃべれたんだな!全然しゃべんないから心配してたんだよ」


 ウルリックが何か言っていたが、私にはアレッサだけしか目に入らず、気がついた時には彼女の目の前に立っていた。きょとんとした様子でこちらを見ている彼女に対し、私は結局緊張して何も話せず無様にも固まってしまったのだ。


「……?どうしたの、だいじょうぶ?」

「っ…………!」


 心配そうに覗き込む彼女の瞳は綺羅綺羅と輝いていて、泣きそうなくらいに綺麗だった。これ程に美しいものが世の中にはあったというのに、前髪に隠れ、怯えていた自分があまりに恥ずかしくて、私はその場から逃げ出してしまっていた。


 それからというもの、私はいつか彼女と堂々と会話できるようになる為に、伸ばしていた前髪を切り、世界と向き合う覚悟を決めたのだ。


 ガーラン騎士団長に彼女が好きな絵本を聞いた時には、ワーレン様のような美しい男が好きなのだと知り、暫くワーレン様の観察に励んだものの、彼には散々揶揄われて大嫌いになっただけだった。


 けれど彼女が好きなものが美しいものというのは確かな事で、私は日々自分磨きに励み、彼女が理想とする美しさを目指しながら、座学や魔術といった知識を蓄えていく。剣術の才能に関してはは全くなかったものの、彼女を支えられる程度の体力作りには必死に励んでいた。


 そう、あの時からずっと、私の全ては彼女のものなのだ。それはこれからも、永遠に変わる事はないのだろう。


 何も知らず、寝息をたてている彼女の頬へとそっと口付ける。この奇跡のような幸福がずっと続くよう、願いを込めながら。






これにて完結となります。

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!


作者のやる気に繋がりますので、面白かったと思って頂けたら下にある☆を押して評価やブクマを宜しくお願いします!

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