表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編とかその他

振り返らずに逃げ続ける男

作者: リィズ・ブランディシュカ



 俺は逃げている。


 家に帰るために。


 生きるために。


 安全な場所へ逃げ込むために。


 何の変哲もないこの道を一心不乱にかけて、逃げ続けている。


 背後からせまってくる存在をひしひしと感じる。


 あれに捕まってしまったら、きっと問答無用でこの命は終わってしまうだろう。


 そうはなりたくない。


 まだ、死にたくない。


 だからこそ、死に物狂いで逃げている。


 力尽きそうになっても、呼吸が途切れそうになっても。


 足を止める事だけはしてはいけない。


 理屈ではない。


 本能が訴えかけてくるのだ。


 止まったら、そこで終わる。


 そこで死ぬと。






 息が、酸素がほしい。


 休みが、体力がほしい。


 救いの手がほしい。


 この場に誰かいてくれれば、こんなにも孤独に頑張る事もなかっただろうに。


 けれど、不幸にもこの道を歩くのは、自分一人だけだった。


 これからも自分一人だけだろうから。


 自分一人でこれをなんとかしなければならないのだろう。


 奴の正体がわかれば、何か対策がとれるかもしれない。


 しかし、分かるなんてしてはいけないと思った。


 だって、本能が、背後にいるやつの危険性をこれでもかというほどつきつけてくる。


 認識は。


――何かが追いかけてくる。


 それでいいのだ。


 そのままでいいのだ。


 それ以上分かってしまってはいけない。


 正体を探っては、理解してはいけない。


 分かっている事実が、それ以上であってはいけない。


 何かがどうしてか、この道で俺を捕まえようとしている。


 分かっている事は、それだけでいいのだ。


 分かっている事実を、それ以上にしてはいけない。


 振り返って確かめてみれば、それの正体が分かるのだろうが。


――けれど、決して振り返ってはいけない。


 分かってしまう事が怖い。


 分からないから怖いけれど、分からないからまだ平静を保てている。


 分かってしまったら、それの形がおぞましさが、恐ろしさが、確定してしまうから。


 きっとその姿を見た瞬間、気が狂ってしまう。


 だから、ふりかえらずに逃げるのだ。


 分からない事で怖くあっても。


 怖いままで、ましなままで、まだとどめておくために。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ