8話 異端な鬼
3回目の見回りの時間がやってきた。いつもと変わらず門の周りに集まる。
「よし。今日も広と太郎、俺と篤人で分かれて回る」
「はい!」
3人の声がハモる。これも見慣れてきた光景だ。
「じゃ何かあれば呼べよ」
鬼火を持って回る。火は値段が高く消えてしまうことがある。しかし、鬼火は消えない。
本当に便利だ。
そんな鬼火を持ちしばらく歩き回る。まだ鬼が出やすい時間ではないため、あまり鬼が出現しない。そのため、なかなか集中力が持続しない。特に太郎のような人間には無理だろう。
太郎にとってこの時間はとても苦痛だった。
2時になれば下級の鬼が出やすいため暇になることはない。現に太郎も何度か下級の鬼をその時間帯に殴り倒している。
そしてそんな暇を潰せる時間が近づいてきていた。だが、暇を潰せる時間が近づいてきても太郎の機嫌は上がらない。
「そろそろ2時です。気をつけなさい」
「はい」
甘露寺の言葉に返事をする。その太郎の声には少しの違和感を覚えさせられた。
「物部さんどうかしました?」
「......うん? 何か違和感を感じて」
「そうですか。......っ!?」
甘露寺も遅れて気づく。目の前で蠢く影の異端な気配を
それは、下級の鬼が現れる時と変わりは一見ない。しかし、雰囲気が違う。甘露寺が一度も相対したことがない気配。
「物部さん。厚井さんを呼んできてください」
「はい!」
冷静に下された命令に太郎は返事をすると走り出す。その速度は凄まじい。
「さて行きましたか。時間稼ぎを頑張るとしますかね?」
異様な雰囲気を纏う者に対して、甘露寺は少し動きを見せる。
「妖刀解放ー鎌鼬ー」
黒く蠢く影に向かい鎌鼬を放つ。放たれた鎌鼬の狙いは正確であり、確かに影に当たっている。それを表すかのようにスパッと影も二つに分かれた。
しかし、全く手応えはなく、相手は一切動じていなかった。それを見た甘露寺は、警戒しつつ少しずつ後ろに下がる。
未知の鬼を相手に近づくのは危険すぎる。相手から目を離さず少しずつ離れる。
ーーだが
「なっ......」
凄まじい速度で下級の鬼が距離を詰める。目を離していなかったにもかかわらず虚をつかれる。
「ギシャァァ?」
鬼が爪を横に振り払う。
その一撃はなんとか紙一重で甘露寺は避けるが、黒いモヤがお腹を切り裂く。
下級の鬼は黒いモヤを纏った攻撃を何度も放つ。隙を与えないつもりなのだろう。
すごい速度だった。
(それはもう物部さんで体験済みなんですよ!!)
だがこの程度の速度なら太郎で経験している。一番の好機を探し出す。
「鎌鼬」
この距離で外すことはない。鬼の振り払った腕に目掛けて放つ。
「グシャアァァァ」
痛みからなのかはわからないが悲鳴をあげる。通常下級の鬼には意思がない。痛みだとしたらおかしなことだ。
苦痛そうに叫ぶ鬼を冷ややかな目で見つつ太郎を待つ。この優勢の状況になっても太郎を持つのには理由があった。
それは単純な理由である。実の所甘露寺も追い詰められていた。この橋を渡らせてしまったら人に被害がいく可能性が高くなる。
自分の立場を考慮するとこれ以上下がれない。やるなら、ここで終わらせる必要があった。
「これ以上は引けないようですね」
腹を決めてこの鬼をここでやる覚悟を決める。あの鬼の腕を切り落とすことができたのなら、少しは勝つ見込みも出るだろう。
「鎌鼬」
狙い通り鋭い音を放ちまっすぐ鬼の腕を切り落とす。渾身の鎌鼬を受けたのだから腕が落ちるのは当然である。
だが、普通の下級の鬼は一撃目の鎌鼬で息絶えるはずなのだ。
まだ下級の鬼は片腕しか失っていない。
(個体差でもあるのか?)
甘露寺は経験が浅いそのため鬼についてはそこまで詳しくない。
その分疑問が溢れてくる。
(考えていても仕方ないですね)
覚悟を決めてトドメを刺そうとする。
「鎌いた......」
鎌鼬
そう最後まで言い切れずに終わる。
鎌鼬を撃つまでもなく鬼が倒れたわけではない。逃げられたのだ。
これは甘露寺のミスだった。
通常下級の鬼は意志を持たない。
そのため逃げ出したりはしないのだが、この鬼は感情を持っている可能性があることを示唆する場面があった。
実践経験の足りなさがここで出てしまった。
「物部さんを待ちますかね」
それから数分して厚井を連れた物部が来た。最初の場所からだいぶ離れてしまって探すのに苦労したのだろう。
それにこの時間は鬼が比較的によく出るのだから仕方がない。
「何があった!?」
厚井さんの声が聞こえる。
頼りになる先輩の声に安心したのだろう。甘露寺は地面に力無く座り込んだ。
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