5話 百花組
「そう。俺が元墨輝だ」
周りの反応を見てもわかる通り、元墨輝はこの百花組の中でも相当位が高い。
元々は鬼や妖怪は専門外で、人間の相手が専門なのだが、鬼の勢いが増し、このままでは対外的にもまずいということで呼び出された。
戦闘力も非常に高く、百花組内では三本の指に数えられている。
「で、お前はあの日の記憶はあるのか?」
「申し訳ないが、覚えてない!」
これもまた元気に返事をする。
「そうか。でも甘露寺のことは思い出せたんだろう?」
太郎の様子を見る限りまるっきり覚えていないわけではない。そう思い問う。
「うーん? なんとなく、顔を覚えているだけだ」
「そうか。まぁ後々思い出せば良い。それより厚井あれを」
そう元が言うと、そそくさと厚井が何かを出す。それは太郎の家にあった刀だった。
「それ! 俺の!!」
勢いよく言う。
今にも飛びつきそうな勢いだったが、流石に甘露寺、厚井それに元がいるこの状況で、飛びつくなんてことはできない。
「お前。なんであの日飛びかかって来たんだ?」
急にさっきまでの熱気で帯びた部屋とは思えないほど冷たい異様な雰囲気が漂う。
「なんで? ってそりゃうちの家に勝手に入ったからでしょ!!」
しかし、太郎はそんなことを気にしせずに、ただ事実だけを述べる。その発言に元も甘露寺も悪びれた様子を見せた。
「うちの家? あれお前んちだったんか。それはすまねぇ」
「俺からも謝る。申し訳ない」
元に続いて甘露寺まで謝り出す。気がつくと冷たい雰囲気はなくなっている。
「ほれ。その刀は返すよ」
「あっ......ありがとう」
厚井から刀を受け取る。自分の手元に刀が返って来た安堵感を噛み締める。
どうにもこの刀は手に馴染む。
「その刀そんなに大事か?」
百花組にとっての刀は命と同等と言っても良いほどに価値がある。妖刀であれば命よりも価値がある。そんなものなのだから刀の大切さは理解はしているが、物部太郎は百花組ではない。
そんなにも大切にする理由はないのだ。
それなのにも関わらず、元、厚井、甘露寺を前であんなにも勢いよく自分のだと主張した。
そんなこと中々できることではない、それほど大事にする理由が何かある。そう思い元は聞いた。
「いや。わからん」
「わからん?」
「うん。おっかぁがいなくなったと思ったら机の上にこれが置いてあったんだ」
わからん。と言われた時は少し驚いたが、おっかぁがいなくなった時に置いてあった。それを聞き納得した。
いなくなった母の手がかり、そして母がいない今繋がりとなるもの、それが刀というわけだ。
それにしても嫌なタイミングで家に出向いてしまったものだと元は思う。実際は元達が来たからこうなったのだが、知るよしもない。
「てことは、お前はいく当てがなく母親をこれから探すってことか」
「そうだな!」
「そうだなって気楽にいいますね」
流石の太郎の気楽さに甘露寺は驚く。顎に手を当て目を瞑り唸りながら何やら元は考える動作を取る。
そしてほんの少しの時間の後パチっと勢いよく目を開く。
「いく当てがないなら百花組に入らないか?」
「百花組に?」
「あぁ、お前みたいに強いやつなら大歓迎だ。元々強いやつを探して山に行ったしな」
突然の元の提案に甘露寺も厚井も驚かない。それほどに戦力が足りていないのだ。
「うーん」
「悩むか? 母親を探す手掛かりになるかもだぞ?」
「うーーん??」
「仮っていう形で入ってみないか?」
「うーん?? ......うん!わかった入る!!」
太郎は少し悩んだ末に入ると決断する。
「そうか!入ってくれるか!!」
太郎が入ったら戦力になる。同期の中で、ずば抜けて優れていたあの甘露寺といい勝負をしていたのだから。
既に刀を持っているというのも都合がいい。そこまで状況が整っているのなら他の人と同じ状況から始めさせるのは勿体ない。
「よし決めた。太郎は俺の権限で少し段階を飛ばすとしよう」
「飛ばすってどの程度ですか?」
「そうだなぁ。見廻りぐらいか?」
「え!? 見廻りですか?」
見廻りという言葉に甘露寺は驚く。見廻りは、妖刀の帯刀を許可されて初めて行うことができる。
つまり妖刀の帯刀がすでに許可されたということだ。
そんなところまで飛ばすというのは異例だ。甘露寺ですら見廻りはつい最近初めて行った。つまりそれなりに危険も伴う。
そんな危険なところから始めさせられないそう甘露寺は考えた。
ーーしかし
「そうと決まれば飯だな」
「いやっ......まだ話が!!」
甘露寺の小言を避けつつ厚井と太郎を連れて部屋を出る。
○○○○
元についていきご飯を食す。ただそれだけの行為なのに、元、甘露寺、厚井という地位の高いものが集まることにより、ちょっとした騒ぎになってしまったため、そそくさと食べ外に出る。
「いやぁ予想外!」
ガハハハと元が笑う。
元を隊長とし、厚井、甘露寺、ここにはいないが、表の4人はオトギリ隊という隊で活動している。
今回は最後のメンバーの甘露寺の手伝いとして元達は帰って来ていたが、普段は外にいて帰ってくることは少ない。
「自分達の立場を考えてください」
「普段いねぇから忘れてた」
どうにも厚井ですら、騒ぎになることを忘れていたようで、申し訳なさそうにしている。
「そういえば、説明がまだだったな」
騒がしくて説明ができなかった元が話し出す。
「俺たちが帰ってきたのは、甘露寺の見廻りの手伝いのためだ」
元が話すにはこういうことだ。
見習いから始まるのだが、甘露寺は見習い期間を終えていた。しかし、甘露寺は、見廻りを行わずに、そのまま元達の鬼退治に同行したのである。そのため、見廻りをしなければならないのだが、見廻りには妖刀使いの中でも選りすぐりの者もしくは、見回りを既に終えた妖刀使い2人と共にしなければならないのだが、何分人が足りない。
そこで、甘露寺だけが帰還予定であったが、人不足の解消、甘露寺の他の隊への勧誘への牽制の意も込めて元達は帰ってきたのである。
そして、その見廻りのついでに話題に上がっていた太郎のいる山に行ったという。
「ていうことで、物部は甘露寺含むあと二人で見廻りをしろ!」
「見廻りからって本気だったんですか!?」
「おう」
「しかも俺も一緒って、無理ですよ。まだ見廻り明けたばかりですよ!」
「まぁまぁ。俺もついていくから」
焦る甘露寺の言葉を制し、厚井が言う。厚井も妖刀使いの中でも上位の実力者である。見廻りにいく人としては申し分ない。
それに甘露寺は焦っているが、甘露寺の実力も高い。
「まぁ、厚井さんがいるなら」
「じゃあ、あと一人だな。俺が適当に見繕ってやる」
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