44話 道
ぬらりひょん。妖怪の中でも一目置かれる存在であり、百鬼夜行において先導するものとして、総大将とまで担ぎ上げられた経験を持つ妖怪である。そんな妖怪である、ぬらりひょんは、太郎に話したいことがあった。
「太郎くんは強いのぅ。どうやったらそんなに強くなれるんじゃ?」
「俺か? そんなに強くないぞ! 今も負けたしなぁ」
確かに太郎が負けたのは事実である。しかし、相手は最強の存在である。負けて当然である。
「そりゃ、強さは上を見ればたくさんおるじゃろう。しかし、お主は勝てぬ敵にも向かっていく勇気がある。それがワシには羨ましい」
「そうか? おじちゃんにはないのか?」
「わしはのぅ」
妖怪の総大将とまで持ち上げられたぬらりひょんであるが、これはぬらりひょんの能力によるものである。決して強さや人望、勇気が認められたわけではない。ただ、相手を錯覚させることができるだけである。
勇気などないのである。部下の手綱を引けず、勝手に行動され、太郎を陥れようとする始末。そしてそんな行動すら咎める事のできない自分。なんとも情けない話である。
「そうなのか。......でも、俺を迎えに来ただろう? それならじいちゃんは強いんじゃないか?」
「それはお主のことを知りたくて、感化されただけじゃ」
「それで十分じゃないのか? 俺は勇気を出さなくてもできるからな。それなら、じいちゃんの方がすごいぞ!」
何事においても人によって尺度は異なる。同じ行動を取ったとしても、同じ行動動機とは限らないし、同じ行動動機だとしても、その強さが等しいとは限らない。他者のことなどわかるはずがないのだ。
「そうか。そりゃ、そうじゃな。やはり、太郎くんはすごい......。ワシはお主を目指して頑張るわい」
「えー。俺よりもじいちゃんの方がすごいって」
わからないからこそ、他者を尊敬することができる。ぬらりひょんは考えることで自身の正しさを見つけ出そうとしたが、どうやら太郎は考えずとも何か行動基準を持っているようであった。
「ぬらりひょんさん、太郎さん。ご飯ですよ!」
「はーい」
すでに、お花にはここを発つことを告げている。この朝餉を最後に、ぬらりひょんと太郎はそれぞれの道へと進む。
「それにしても昨日は申し訳なかった」
「本当にごめんな!」
ぬらりひょんと太郎2人してお花に謝った。昨日。鬼神に会いに夜家を飛び出た日の次の日のことである。朝餉までに帰ってくると言う約束自体は、ぬらりひょんが迎えに来たことで、守ることができたが、太郎は昨日、丸一日眠っていた。
かなりお花さんの家にお邪魔になってしまっているのである。
太郎が眠っている分も、ぬらりひょんがお花さんの手伝いを行なっていたが、それでも迷惑をかけている割合の方が大きい。
「大丈夫ですよ〜。それと、ほら、おにぎりとお団子を用意したんです!」
そう言うお花の手には不恰好なおにぎりと綺麗に作られたお団子があった。
「おお!! ありがとな!」
「どういたしまして。お団子はお馬さんが作ってくれたので、日持ちするはず...!!」
お花は少しぶっきらぼうにそう言った。これは自身の作ったおにぎりがうまくいかなかったのを気にしていたのであろう。
「おにぎりと団子両方嬉しいぞ!」
しかし、太郎は両方嬉しいと言い、笑顔で受け取った。食べることが大好きで、野生児な太郎にとっては見た目など特に気にするものではない。不恰好であっても嬉しいものであるので当然であるが、それがお花を喜ばせた。
「そ、そう? じゃあ、これとこれとこれもあげる!」
大量のおにぎりの失敗作を太郎に渡す。食糧は帝の力を持ってしてもいまだに貴重である。それも帝の手が届かない範囲だったら、それより一層貴重であろう。それなのにも関わらずこの対応である。
「ありがとう!!」
「次寄る時はお土産を持ってかんといかんな」
朝餉を食し、お花の家を後にする。お別れの際はそれは盛大に見送られた。お花さんは別れ慣れしているのだろう。湿っぽい雰囲気は無しで笑顔で別れた。
「太郎くんはこれからどうするんだい」
「俺はこのまま次の山に向かうぞ!」
次の山。鬼神の助言を聞き、山巡りをすることに太郎は決めていた。
「そうかい。じゃあワシらもここでお別れじゃ」
「そうか。じゃあな!」
太郎を見て何かを感じ取ったぬらりょんと太郎は進む先が異なろうと、またどこかで、交わるだろう。




