42話 落下
人を遥かに上回る生き物が多く存在した時代。その中でも秀でた生物がいた。その生物はとても強く、鬼と呼ばれ恐れられてきた。
個でも強い存在である鬼であったが、それをまとめる者が現れるようになった。
「ここが鬼の王がいると噂の場所ですか」
「はい。光忠様」
鬼をまとめる者が現れたという噂を掴んでいた百花組の命令により、その鬼の元へ向かった光忠であったが、その旅はそれなりに険しいものであった。
光忠自身が望んだことではあるが、戦闘要員は光忠のみであり、その他の人間は訓練を積んではいるものの妖刀契約も行っていないものたちである。
太郎が神穢山に辿り着くまでに要した時間は丸一日ほどであったが、光忠たちのそれは一週間ほどかかっている。帝の手から離れた土地は整備などが行われていないこともあり、苦労が絶えない。さらに、最近は冷え込むため、荷物が嵩んで仕方なかった。
「ここまでは順調に進んだけど、この先は何があるかわからない。気をつけて行くよ」
「はいっ!」
光忠の言葉に皆が声をそろえて返事をする。今までの道のりは大変ではあったが、鬼の出現数自体は少なかった。しかし、ここは異常である。この土地に一歩踏み入れた瞬間から光忠の刀が反応していた。
まるで今まで鬼がいなかったのには原因があるかの様である。
「下がって」
光忠の眼前には人間によく似た鬼が三匹いる。この姿をとっているということはまず間違いなく、上級の鬼である。
「待っていたぞ。井上光忠」
右側に立っている肌が青く、体は細く、髪は長い。そして、身長の高い上級の鬼が光忠の名を呼ぶ。
これはおかしなことである。まるで、光忠が来るのを知っていたかのようである。
「なぜ僕の名前を知っているんだい?」
「我らが王が、お前の到着を予言できぬわけがあるまい」
王という言葉に光忠が反応をする。百花組で手に入れていた鬼を束ねるものの存在はまず間違いなく正しい。さらに、王と呼ばれる存在であるというのは、これ以上にないほど嬉しい情報である。
「なぁなぁなぁ。話してねーで戦わね〜? 強いんだろ? こいつ?」
「まぁ、待ちなさい。我らが王の命令を」
「僕としてもさっさと終わらせたいな」
左右にいる上級の鬼の話に光忠は割って入る。それが鬼の矜持を刺激した。
「あぁ? 人間ふぜーが何割り込んでるんだよ!!!」
「ちょっと待ちなさい」
「良い」
真ん中にいる鬼が初めて口を開いた。ただ一言であったが、威厳を感じるものであり、その風格は王と呼ばれるに申し分ないものであった。
「ハハァッ!!」
勢いよく近づく上級の鬼は、青い鬼とは対照的に、体が赤く、身長は低い。
「ーー妖刀解放 妖虫」
光忠が刀を抜き、鬼の一撃を受け止める。身長からは想像できないほどの威力である。
「受け止めやがった!! 人間がよ!!」
「驚きですね。本当に鬼と戦える人間がいるとは」
単純な攻撃力では、青い鬼を赤い鬼が上回っている。それを受け止めたというのは、この二匹にとって驚きの光景である。
「妖虫!!」
光忠がそういうと、上級の鬼の体勢が崩れる。数多の虫関係の妖を扱うことのできる特殊な妖刀を持つ光忠の手数は、百花組の中でも上位に位置する。
「私も加勢します」
「チ......しゃらくせぇ!!」
赤と青の鬼の連携である。一撃一撃が重い赤と、動きの速い青の相性は抜群である。
「妖虫顕現」
殴りかかる赤の目の前に突如昆虫の形をした虫が現れる。その虫は驚くべきことに赤い鬼の一撃を受け止めた。
「かたっ!!!」
虫を力一杯殴った鬼の口から思わずこぼれる。たかが、虫ではあるその肉体は上級の鬼の攻撃を一度防ぐことができる。
「我に力を貸したまえ」
ーー神刀解放 神虫
そして、光忠は妖虫によって作られた隙を逃すほど甘くはない。
神刀の解放により、光忠の刀の気配が突如変わる。その変化は凄まじいものであった。
突然の変化に、赤い鬼はそれを知覚する事も叶わず、首と胴が離れた。
「なっ......!! よくも!!」
「待て!!」
青い鬼が感情に駆られて井上光忠に攻撃を行おうとしたため、真ん中にいた鬼が止めようとしたが、それは叶わなかった。
青い鬼の速度は凄まじかったが、その動きは動揺や怒りにより読みやすいものになっていた。鬼が現れるとわかっているところに目掛けて、刀を振る簡単なことである。
「あとは君だけだよ」
「これほどとは思わんかった」
残った鬼は、素直に井上光忠の力を認める。この鬼は紫色の肌をしているが、左右の鬼と比べてもさらに人間に近い見た目をしていた。
「これほどまでとは思わなかったが、貴様の対策はこれだけではない」
上級の鬼の言葉を聞くと、光忠は迷うことなく、仲間へ逃亡を促す。
「逃げろ!!!」
光忠自身は一歩引き、鬼を一堂に相手取る体制に入る。しかし、神虫の反応は止まっている。これは、上級の鬼という極上の餌を喰らった後に、下位の鬼などを食したくないという意思表示である。
「よもや苦労して集めた上級の鬼よりも、そこらにいる鬼の方が役に立つとはな」
非戦闘要員を庇いつつ、神虫の使用はできない。井上光忠は大立ち回りを見せ、必死に鬼を引きつけるが、なんとも難しい戦いである。
「いかに恐ろしき刀であっても、使用者は所詮人間だ。もう会うことはないだろうな。さらばだ」
上級の鬼はそういうと身を翻す。そこらにいる鬼の数はパッと見ても50近くはいる。
恐ろしきは物量差であった。井上光忠は、鬼の流れにのまれ、崖下へ落ちて行くのであった。
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