41話 未然
夜の山は一段と雰囲気が異なる。特にこの山は鬼神のいる山である。恐怖の質が違う。本来であれば、鳥の鳴き声や、獣の音などが暗闇と合わさることで、恐怖を掻き立てるものになるが、この森は、鬼神の圧が常に纏わりつく。
日中であれば、鬼神は多少力を抑えている。しかし、夜は鬼が活発になるため、人が出歩くことは滅多にない。そのため、鬼神も夜には何も気にせず力を放流させてるのである。
「よもや、こんなにも早く来るとはな」
「あぁ、来たぞ! お前、俺の刀について知ってるんだろ! 教えてくれ!」
太郎が一方的に問う。その姿に鬼神は呆れたような態度を取り、口を開く。
「我の山に入り込みその態度か。傲岸不遜だな」
鬼神の言葉には重みがある。感情を多少乗せるだけで押しつぶされそうになるほどである。
しかし、太郎は鬼神の圧が増したことには気づいても、鬼神が少し感情的になったことには気づいてはいない。
「難しい言葉を使われるとなんて言ってるのかわからないぞ!」
「そうか......なら、我と戦い満足させろ。そしたら教えてやる」
太郎の言葉を聞き、鼻で笑うと太郎にとって一番わかりやすい方法を提示する。これは鬼神にとっても至極単純であるため、好都合なものである。
「わかったぞ」
太郎にとって2度目の鬼神との戦いである。負けてすぐであるため、別段強くなっているわけではない。それなのにも関わらず、戦うのは傲岸不遜と言われても仕方ないものである。
「来い」
鬼神にそう言われると低い体勢となり、凄まじい速度で接近する。太郎は別段力が増したわけではない。それでも、刀と向き合い、理解しようと覚悟を決めたのである。その歩みに迷いなど一切ない。
淀みのない太郎の精神状況から放たれる一閃は、今までで一番速い。
太郎と鬼神には身長差がある。低い体勢をとっている太郎の逆袈裟斬りは鬼神にとっては防ぎ難いものであろう。
しかし、驚いたことに鬼神は足で刀を踏み抑える。
「この程度か?」
太郎の今までと異なる点の一つとして、刀への気持ちがある。妖刀は一説によると信頼関係で力を増す。
それを踏まえると、今までで一番速く、鋭い一線となっているのである。
それを足で踏んで抑えているのである。タダで済むはずがない。2枚におろされていてもおかしくないのである。それなのにも関わらず、なんともなっていない。
太郎はそのまま、切先を滑らせ鬼神の足を流し、中段に突きを放つ。
足を振り解かれた鬼神は、体重が前にかかり、少し前屈みの体勢になっていたが、即座に反応し指先で刀を掴む。
「くっ......!! 離れない」
両手で刀を握っている太郎が、指先で掴んでいるだけの鬼神から刀を奪い返せない。
「この程度か? 何も我に傷をつけろと言っているのではない。満足させろと言っているのだ。せめて、鬼の王の手下程度の力は見せろ」
太郎は鬼神の見立てでは鬼の王とその手下には遠く及ばない。この程度では満足できるはずがない。
現に、力んでいるにも関わらず、一切刀を動かすことができない。それを見兼ねた鬼神が手を離すと、太郎は後ろに力がかかり、倒れそうになる。それをなんとか太郎は凄まじい体感で耐えた。
「龍化をすれば、少しはマシになるだろうが、貴様はそれすら扱えない。もう去ね」
「嫌だ!」
「そうか。貴様はこれでないと伝わらないのであったな」
鬼神はそういうと一撃を太郎に加える。ただの中段突きである。だが、それを受けた太郎は反応することすらできず、地面に倒れ込む。あまりの勢いで刀は手から離れ飛んだ。
「ま......待て」
「ほう。意識はあるか。じゃあ助言をくれてやる。山を巡れ。赤雲山のように探せばマシな奴がいる。それを乗り越え我を楽しませろ」
そういうと、鬼神は太郎を刀の近くまで蹴り飛ばす。辛うじて保っていた太郎の意識はそこで途切れた。
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