40話 覚悟
お花の口から馬面について語られた。
気づいたら馬面が息も絶え絶えで家の前にいたこと、長く共に暮らしていくうちに、馬面だけが料理の腕を上げたこと。そして気がついたら居なくなっていたこと。しかし、料理だけはいまだに作ってくれていること。出会いから別れまで全てが突然であり、お花からすれば夢のようなものであったとそう告げられた。
ぬらりひょんは驚きと共に納得した様子を見せた。それに対して、太郎はあまり見たことのない顔をしていた。
「そうか......。変質する妖怪はいるが、善なる者へと近づくものが存在するとはのぅ」
「妖怪? お馬さんは妖怪なの?」
「あっ......」
ぬらりひょんが罰の悪そうな顔をする。馬面が妖怪なのは一目瞭然なのだが、お花は天然である。妖怪であるということにすら気がついていなかったのである。ぬらりひょんはそれを察してしまった。
「いいのよ。お馬さんが何であれ関係ないもの。それにお馬さんのことを少しでも知れて嬉しいわ!」
「これは、お馬さんが変質するのもわかるわい」
妖怪というものに対して先入観や嫌悪感が少ないのであろう。お花の反応は人間から軽蔑されて生きてきた者であればあるほど、惹かれてしまうものであった。
「太郎くんや? 難しい顔してどうしたんじゃ?」
太郎は普段しない顔......難しい顔をしていた。お花と馬面の話を聞いて、少し情緒が乱れていた。
何か考えさせられる点があったのだ。太郎は強く刀を握っていた。
「俺、あの強いやつに会ってくる!」
「急にどうしたんじゃ......。と言いたいところだが、それよりも気になることがある。強いやつって鬼神のことかい?」
太郎は以前も鬼神のことを強いやつと言っていた。それを聞いていたぬらりひょんはすぐに察した。しかし、どう考えても太郎が勝てる相手ではない。それは太郎が一番理解しているだろう。
太郎の顔を見ると予想通りの険しいものである。何やら決意した顔をしていた。
「そうか......しかし、今は暗い。太陽が昇ってからでも遅くなかろう」
「でも......!!」
太郎の決意は尊重したいが、やはり無謀である。一過性のものであるのならば、時間を置くことで治るであろう。
「そうですよ! 泊まっていきましょう! 最近は静かで寂しいので!」
お花からの助け舟である。お花に何か考えがあってした発言ではない。馬面と出会った時とそれは変わらない。
「ほら、お花さんもこう言っていることだからね」
「そうか。わかった」
一度助けた相手とはいえ、世話になっている家主の発言を無視はできない。それに、ぬらりひょんの説得というのは心の隙間に入り込み、つい受け入れたくなってしまう強力なものである。
そうして、大人しく太郎が寝床についた時刻は、鬼が活発になり始める時間である。だが、百花組の詰所周辺ほど鬼が現れることはない。その上、この周辺は鬼神がいる。並の鬼は存在を維持することができない。
つまり、この時間帯であっても、周辺には鬼神以外の脅威は存在しないということである。
太郎はお花たちが寝たことを確認すると、家を後にしようと静かに起き上がる。
「太郎くんや、帰ってきたら少し話したいことがあるんじゃ。ちゃんと帰ってくるんだぞ」
太郎は皆が寝たことを確認したものの、ぬらりひょん相手では爪が甘い。太郎の行動など読めていた。
「朝餉までには戻るぞ」
ぬらりひょんは鬼神の言いつけ通りに、太郎を保護しておくつもりであった。しかし、太郎の決意は想像以上に固い。これを止めることなんてできるはずがなかった。
「帰って来なかったら迎えに行くからな」
太郎の背につぶやく。その口調は太郎の覚悟同様に固いものであった。
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