3話 切れた太郎
太郎は生まれてから山で暮らしてきた。もちろん人間との関わりは少ない。そのため、人間の悪意や害意などから来るストレスとは無縁だった。
あいつらは誰だ?
なぜうちの家に入ってきた?
家の前に来るだけならまだ我慢できた。しかし、家に入ってきたのだ。
太郎の縄張り意識を刺激してしまった。
プチっそんな音が聞こえるかの如く明確に太郎の様子が変化した。
息を止め、呼吸を消していたが、極度のストレスで呼吸が漏れる。
「ハァハァ」
地面を思い切り蹴る。
人間では到底出せない。さらには先程までの太郎では出せなかっただろう速度で走る。
前にいる4人組目掛けて一瞬で間合いを詰める。
気づかれるよりも早く近づく。その距離は50センチもない。元と甘露寺はギリギリ気づいたようだったが、残りの2人も同じように気づけるわけではない。
バンッ
凄まじい音で顔を蹴り飛ばす。
立て続けに反応したもう1人も蹴り飛ばす。
ギリギリのところで腕を用いられ蹴りを抑えられたが、反動で動けなくなった隙に鳩尾を殴る。
「グハッ」
一瞬
凄まじい速度で2人を制する。攻撃を喰らった2人のうち1人は意識はなく、もう1人も立ち上がることができない。
そのままの勢いで、3人目の甘露寺に攻撃を仕掛けるも鞘に収められた刀で軽くあしらわれる。
「アァッ」
太郎はとても理性のある生き物とは思えない声をあげる。
「上級の鬼ですか!?」
「いや、まだわからない。だが、とても人間とは思えないな」
「ともかく沈静化しますよ」
太郎の動きに合わせ甘露寺も動き出す。
「アァッ」
太郎の蹴りを避けると同時に刀で殴る。いくら鞘から抜いてはいないとはいえ、鈍器で殴っているようなものなのだから痛いに決まってる。
しかし一切動じない。まるで痛みを感じていないかのようだった。痛みであれば、上級の鬼などの人間に近い鬼であれば感じるだろう。
だが、それを感じた様子を見せない。
「厄介ですね」
こうは言うが、甘露寺は攻撃を一度も喰らっていない。
鬼と戦うのが目的の集団に対し、鬼並みの身体能力があるとはいえ、知性が全くない生き物など敵ではない。
先の2人は見習いの中でも下の方で妖刀の帯刀を許可されていないが、甘露寺は妖刀を帯刀することが許可されている。正真正銘の鬼切集団の一員なのだ。
蹴りを殴りをその全てを躱し、軽くあしらい隙あれば一撃を入れる。
そうすれば、理性のない太郎でも違和感を覚え、もどかしさを感じる。
「アァ?」
こうなれば後は容易い。さらにわかりやすく大きくなった一撃を避けるだけだ。
「アァ!!」
しかし、太郎の攻撃は予想されていた攻撃とは違う。
意思のある攻撃だった。
「なっ......!!」
太郎がさらに雄叫びをあげると動きが変わる。
家に置いてあった刀を見様見真似で振るい始める。甘露寺の真似をしてるため、鞘に収めたままだが太郎の間合いが変わる。
「クッ、厄介ですね」
太郎の刀の扱いはとてもじゃないが褒められたものではない。
それでも圧倒的な速度、力で振るわれると恐ろしい。
太郎は鬼並みの身体能力を持っている。そんな身体能力で武器を使われたら並の鬼を上回る。
(鬼が武器を使うなんて、お話とかでしか聞いたことがないですよ!?)
太郎は甘露寺の真似をしても仕方ないと思ったのか、刀を三本目の足かのように扱い始める。
刀で地面を突き甘露寺に向かい飛びつく。奇を衒ったかのような攻撃すら甘露寺は避ける。
しかし、甘露寺も奇怪な動きと、凄まじい身体能力を前にしては、なかなか攻撃に回れない。
時間をかければ甘露寺が勝つだろうが、そんなにかけている時間もない。
「こりゃ、なかなか終わらないな」
ーー瞬間太郎と甘露寺の間に元が現れる。
「うおっ!! 強烈だな」
片手だけで太郎の蹴りを抑えようとするが、足りない。
甘露寺を抑える手段がなくなるが両手で太郎の蹴りを抑え、思いっきり下に叩きつける。
「消耗していてこれか。本当に人間か疑わしいな。なっ甘露寺」
「そんな余裕ぶってますけど、俺が止まれなかったら元様は俺にやられてますからね?」
確かに急に割って入ってきた元に甘露寺が止まれなかったら、太郎の蹴りと甘露寺の攻撃を直に喰らうことになっていただろう。
「ふん!! お前はこの小僧を持て、後の2人は俺が持つ」
まるで甘露寺の小言が聞こえないような態度をとり、太郎を甘露寺に向かい投げる。
「はい」
筋骨隆々の甘露寺は軽く投げられた太郎をキャッチする。
大の大人2人を軽く持つ元もなかなかの怪力である。
「それじゃあ帰るか」
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