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妖刀と鬼と......  作者: 上石うらた
二章
35/53

32話 就任

お久しぶりです。遅くなって申し訳ないです。


 一昇が死んだ上級の鬼の襲撃から幾許かの時が流れた。


 今回、上級の鬼の襲来で、一番の問題となった点は、市場まで侵入していた上級の鬼の存在を察知することができなかったということである。なぜなら、よそから侵入してきた鬼は、本来であれば帝の力により察知できるためである。しかし、今回上級の鬼が侵入したというお達しは来ていないのである。


 つまり、市場を襲った上級の鬼は範囲外から侵入した鬼ではなく、市場のあった場所周辺で生まれた野良の鬼ということになる。


 上級の鬼がどのような経緯で発生し、現れるのかは現状不明であるが、これは異常である。


 薄々、鬼の勢いが強まっていることは察していたが、想定以上にその速度は凄まじく深刻であった。異端の鬼から始まり、異常事態が続いている。


 この異常事態を百花組組長も遠方より感じ取っていたのであろう。この事態に対応するべく百花組組長は元墨輝に命令を出していた。


 それは、可能な限りの隊長の招集である。


「というわけで、オトギリ隊含めた四隊をここ詰所に招集することになった」


 執務室に元墨輝の声が響き渡る。


 ここ執務室には、元墨輝から集められた錚々たる者が揃っていた。



 オトギリ隊全隊員に、井上光忠に、双妹...

そして太郎である。


 そんな面々が揃っている中、唯一太郎が見かけたことのない男が口を開く。



「なぁ、隊長さんよぉ、俺たちオトギリ隊が集まるのは分かるしよ、そこの双妹ちゃんが呼ばれるのはわかるが、他のやつは何で呼ばれたんだ?」


 以前太郎がオトギリ隊と遭遇した際、唯一居なかったもの表俊忠である。その男は、髪が刈り上げられているなど、風変わりな髪型をしていた。


 そして、そんな男が抱いた疑問は当然のものであった。


 隊に所属する人間であるオトギリ隊や女性の実力者で構成されたカエデ隊の双妹が呼ばれるのは理解できる。しかし、どこの隊にも所属していない光忠と、そもそも未知である太郎が呼ばれるのは解せない。


「うむ。簡単な問いだな。光忠と太郎という戦力を泳がすのは惜しい。だからな。こいつらには隊長をやってもらうことにした」


「はぁ?」


 表が思わず声を上げる。声を上げなかった者も内心は同じように動揺したであろう。光忠はまだしも、太郎に至っては新人である。隊長を任せることのできる器ではない。


「人手が足りなくてな。まぁ、太郎と光忠には事前に打診して、一回断れちまったんだけどな」


「じゃあ、隊長になるのはおかしいだろ?」


 表が至極真っ当な疑問を投げかける。


「いや、お前らには言ってなかったが、帝のもとから坂東和権左部郎が派遣された。そんな状況で、光忠や太郎を遊ばせる余裕はない。だから条件付きでやらせる。これは同意をとってある」


 元の言う坂東和権左部郎は当代一の天才との呼び声も高い人間である。また、契約する妖怪も河童という大妖怪であり、知名度が高い。


 坂東和権左部郎。その名だけでも効力があるほどの傑物である。


「それほどか」


 無論、表もその人物を把握している。特に、刀一振りで上級の鬼を切り伏せたと言う伝説は有名であり、何度も耳にした。


「それで条件だが......皆にも一応伝えておくか。まず、太郎だが、太郎には仲間探しをしてもらうことになる。その代わりにある程度の自由を保証するという条件だ。次に、光忠は光忠に戦闘を一任するというただ一つの条件だ」


 太郎と光忠に対して条件を設けてまで隊長に任命したい理由。それは、外に置いておく戦力の補充である。既存戦力には集合命令をかけているため、外に存在する戦力が減少する。それを考え、太郎と光忠という規格外の人間を外に出す。そのためにも、隊長という肩書きが必要であった。


「とりあえず僕は、鬼を率いるものが現れたと噂の場所へと向かう。太郎くんは、山へ行くんだっけ?」

「そうだ! おっかぁを探す! あと、鬼を倒す!」


 

 太郎の本来の目的である母親探索。手がかりらしいものは一切ないため、大天狗の入れ知恵により、山へと向かうことになった。


 鬼退治に関しては、もともと太郎は乗り気ではなかったものの、市場での凄惨な現場を見てしまってから火がついていた。


 太郎は、鬼という存在を座学により知識を多少は得ていたが、それでも経験が不足している。そのことに上級の鬼と対峙してやっと気づいたのである。



「チッ...特別扱いじゃねーのかそれ? まぁいいけどよぉー」


 表は悪態をつく。表も今の状況は理解しているため、大人しく従うが、それでも心のどこかに不満は残る。しかし、それでも従うのは、元の言葉であるということが大きい。なぜならば、元の言葉は組長の言葉と言っても過言ではないからである。


「すまないな。次は、カエデ隊の話だ」



 表の心情を察し、軽い謝罪を済ませ、次の話へと移る。カエデ隊の話や、引き継ぎの話など様々な話題があるが、当然太郎は上の空である。



「よし。解散だ」


 元がそう言う。皆部屋を後にしようと動き始めるのだが、太郎は一向に反応がない。


「太郎くん。終わったよ」

「おっ、終わったのか」


 光忠が、太郎の顔の前で手を何度も振り、さらに、声をかけやっと気づく。


「じゃあ帰るか!」


 元の部屋を後にする。


 太郎が向かう先は山である。元からは行ってはいけない場所の指定はされたが、行く場所の指定はされていない。自由である。ただ、隊長になったことによる様々な手続きがあるため、一週間ほど旅までに時間を要する。


 その間に太郎は特に何もすることがない。何故ならば、太郎の手続きを行うのは太郎自身ではなく、元であるからである。


 一週間ほどの暇ができた太郎は、とりあえず詰所の睡眠ができる場所へと向かう。


「暇だなぁーー」


 暇だなぁなどと大きな独り言を太郎がこぼす。すると、その言葉に反応するかのように、聞き覚えのある声が返ってきた。


「あれ、太郎ちゃんじゃない?」

「そうかも」


読んでいただきありがとうございます。

今日もう1話上げる予定なので、読んでいただけると幸いです。

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