30話 蛹
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光忠と対峙する上級の鬼は腕を生やそうとするが、生やすことができずにいた。
「なぜだ?」
「なぜって? 僕の刀に斬られたものが再生するわけないじゃないか」
光忠の刀はそんじょそこらの代物ではない。斬られた鬼の一部は消え、繋げることも再生することも叶わない。
「我が苦戦するほどのやつがいるとはな」
思わず弱音をこぼす。
鬼の強みである体の再生ができない。上級の鬼は苦戦なんてものではないほどに追い詰められている。
例え、ここで光忠を倒すことができても傷を治すことは永遠に叶わない。
上級の鬼は何とかこの場を離脱する手段を考える。明らかに、この男。井上光忠は強すぎた。
すると、どうしようもないと考えていた上級の鬼にとって都合の良い声が上がる。
「俺にやらしてくれ!!」
太郎である。先ほど、圧倒して見せた童だ。
「太郎くん。意識が戻ったんだね」
「うん...今は元気だ」
確かに、太郎は無傷であり、疲れた様子は一切ない。その様子を光忠は確認すると刀を納め、すぐに口を開く。
「そうだね。ここは君に任せよう。ただし、何かあってはいけないから、僕も見ておこう」
太郎の強さでは先ほどまでの上級の鬼には勝てないであろう。しかし、今の上級の鬼には腕が一本ない。それに、太郎の強さの片鱗を見たい気持ちが光忠にはあった。
「妖刀解放ーー妖虫」
光忠が妖刀を解放する。先の双姉を運んだ時と同様に、妖怪の長時間の具現化である。先ほどまでとの違いを挙げるとしたら、今の方が調子が良い。
この人を頼むよ。そう光忠が虫に命令をするとそそくさと百花組の詰所へと向かう。
「ありがとう、光忠さん」
「礼には及ばないよ。でも僕はこれでしばらくは妖刀が使えないから頑張ってね」
軽く言い放ったその言葉を上級の鬼は聞き逃さなかった。ニヤッと歪な笑顔を浮かべると、光忠へと迫る。
「死ね」
短くそれだけを言い、迫る上級の鬼の腕を太郎は掴むとそのまま投げ飛ばす。片手である上級の鬼は受け身を取ることを許されない。
「カハッ」
「一昇をあんなふうにしたお前を俺は、逃がさない」
地についた上級の鬼に対して、攻撃を緩めることはない。一撃一撃が人間に対してだと必殺になる太郎の拳が鬼を撃ち抜く。
「くそがっ...!!」
上級の鬼は足掻くが、太郎相手に片腕がない人型が叶うはずがない。抵抗をしようにも抵抗できず一方的に殴られ続ける。
しかし、太郎の力を上級の鬼は上回っているため、この攻撃で死ぬことはない。だが、永遠に殴られ続けるのは、この鬼にとっては何よりも屈辱であった。
「我は...俺は蹴散らされるだけの雑魚どもとは違う!!」
段々と化けの皮が剥がれてきた上級の鬼だったが、ついに変わった。辺りに下級の鬼が発生する時に生まれる靄が漂う。そして、上位の鬼が吠えた。
その異様な様子に思わず光忠は声を荒げる。
「太郎くん引きなさい!!」
その言葉と同時に太郎は飛び退く。光忠の刀同様、太郎も野生の感で変化には気づいた。
一瞬であたりを黒い靄が包む。少しでも遅かったら、太郎は上級の鬼とともに黒い靄に包まれていただろう。
先ほどまでにいた場所を見ると、黒い靄が上級の鬼を包み、蛹のようになっていた。
「これ触っても大丈夫か?」
「わかりません...石でも投げてみますか?」
前例のないことに光忠も対応を取りあぐねている。
「よいしょっっっと......!!」
凄まじい速度で岩を投げる。
「ちょっ...それ石じゃない」
「あっごめん...止まらん」
光忠の静止は間に合わず、太郎の投げた岩は靄の塊に勢いよくぶつかる。すると黒い靄はあたりに分散し消えていった。
「なんかなくなったぞ、終わりか?」
「太郎くんよくみてください。上級の鬼は消えていません」
靄が消えた中心には体のところどころに靄がまとわりついた鬼がいる。その姿は上級の鬼のようであり、下級の鬼のようでもある。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
そこから現れた鬼は先ほどまでの尊大な態度とは違う。ただただ憎悪に満ちていた。
「ふむ。上級の鬼自身が憎悪に飲まれるとこうなるんですかね?」
あまりにも異様な姿ではあるが、冷静に光忠は分析していた。しかし、そんなに余裕ぶってはいられない。当然怒りで我を忘れた上級の鬼は攻撃を仕掛けてくる。
「死ね」
上級の鬼の片腕は失われたままである。しかし、そんなことは関係ない。欠損した腕の前に黒い靄が集まり光忠に向かい伸びる。
「光忠!!」
光忠を執拗に鬼は狙っていた。
「仕方ない。我に力を貸したまえ」
ーー神刀解放 神虫
そう光忠が言うと上級の鬼の放った黒い靄がたちまち消えた。先ほども上級の鬼の腕を消す際に使った光忠の本気である。
「太郎くん行けますか?」
「うん、あいつは俺が倒す」
しかし、あくまで身を守るために使っただけである。戦うのは太郎である。
読んでいただきありがとうございました。
光忠の神刀の種明かしはまだ先のつもりだったのに、はやまっちゃった。
次も読んでくれると嬉しいです。




