2話 消えた母
違和感は加速する。明らかに山の様子がおかしい。普段、強気なクマですら落ち着いていない。
「俺行ってくる!!」
熊や他の動物に告げ走り出す。おっかぁが心配だった。木々の間を慣れた足取りで通り、険しい山道を駆け巡る。
ハァハァ
動揺と緊張で、普段息が切れない距離でも息が切れてしまう。
ハァハァ
より加速する。
ハァハァ ハァハァ
家が見えた。しかし、人の気配が一切ない。
「おっかぁ!!」
ドアを勢いよく荒く開ける。
いない、いない、いない。
どこにもいない。家を探し回るも、姿はどこにも見えない。
「ハッ!!」
母の気配を感じ勢いよく振り返る。しかし、そこには、母の姿はなかった。
「なんだ? これ?」
振り返った先には机があった。ただ机があったわけではない。
そこには、普段神棚にある刀があった。平生であれば、目に留まることもない物であったが、そこには不思議な引力があった。
太郎は、この刀に触れたことなど今までなかった。ただ漠然と存在を認知していただけである。興味を持ったことすらなかったのである。そのことを思い出しながら、刀に手を伸ばした。
太郎が、握るとざらざらとした感触の柄が驚くほど自然と手に収まる。まるで、何度も握ったことで自分の手に合う物になったかのようであった。そして、不思議なことに、母の抱擁を思わせる温かみがあった。
不思議な刀に太郎は驚愕するが、すぐに机に戻す。こんなことをしている場合ではないのだ。すぐさま立ち上がり辺りを見渡そうとする。
瞬間、背中を撫でられたかのような感覚を覚え、鳥肌が立つ。家の付近では、熊のもとで感じた感覚よりも濃い気配が漂っていた。
近い!!
机を一瞥すると、先ほど手を離した刀を咄嗟に持ち、すぐさま、裏口から家を出る。
様子を伺うために息を殺し木々に隠れる。
太郎に鳥肌を立たせた気配がだんだんと家に近づいてきている。こんな山奥にあるのは太郎の家のみである。
家に用があるのか?
○○○○
「おや? あそこに家がありますよ」
熊と比べても見劣りしない筋骨隆々とした人物がそういう。
「ここに鬼が住んでいるんですね!?」
「いや、まだ鬼と決まったわけじゃないだろう」
筋骨隆々とした人物に比べ見劣りはするも、引き締まった肉体の二人組そして......。
「静かにしろ」
「し......失礼しました!!」
二人を一瞬で静める男。外見は二人と大差ないようであるが、内に力を秘めているのであろう。存在感が他の者とは段違いであった。それに刀は圧倒的な雰囲気を発していた。
「では、行くぞ」
僅かな息の音と歩く音そして風の音のみが漂う。
そんな中で、筋骨隆々な男と二人を静めた男からは、息の音どころか歩く音すらしない。
他の二人とはかけ離れた力量だということが、それだけでわかってしまう。
「誰かいるか!!」
家に向かい声をかける。返事はない。
「行くぞ」
返事がないと分かるとそのまま入っていく。しかし家には特段と変わった様子はない。
だが、場数を踏んできた人間は独特な気配と温もりから、すぐに先ほどまで何者かがいたことを察する。
「バレていたか......?」
「どうやらそのようですね。元様」
「チッ......」
つい元様と呼ばれた圧倒的存在感を放つ男の口から舌打ちが出る。
「どうする? 甘露寺?」
「そうですね。襲われることも視野に入れ撤退するべきかと」
「まぁそうだろうな。相手の慣れた土地だからな。迂闊には行けねぇか」
元は少し悩んだ素振りを見せると、すぐに言う。
「おまえら、警戒しつつ撤退だ」
「はい」
依然、物部太郎には気づいていない。
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