27話 片鱗
しばらく走るといつもの場所に辿り着く。しかし、そこに見える景色はいつものものとは異なる悍ましい景色であった。
「ナにガ?」
プツンと切れる音がした。
▶︎▶︎▶︎
鬼は民家の方へと歩みを進める。その歩みの先に一昇は落ちていた。
一昇は当然動くことなどできない。踏まれるのを待つだけであった。
「ナにガ?」
太郎の目には、かろうじて一昇と判断できるものが鬼に踏まれようとする瞬間が飛び込んできた。
何がどうなっている? その疑問と抱えきれない怒りが溢れ出す。
鬼へと飛び込み蹴りを放つ。突如のことであったが、上位の鬼は軽くあしらう。
「一般人の次は童か。本当に人員不足のようだな」
怒りに振り切れた太郎は暴走していた。対話などはできない。ただひたすらに、鬼へと向かい攻撃を放ち続ける。
「さっきのやつもそうだが技術のかけらもないな」
鬼が煽るが頭に血の上っている太郎の耳には届かない。
「ハァハァ」
太郎は過度な怒りにより呼吸が荒れていた。
太郎の速度は、対人間や中位の鬼であれば圧倒できるほどであったが、相手は上級の鬼である。
「遅いな」
太郎の殴りかかる手を掌で覆い、力強く引きつけ鳩尾に膝を入れる。
「ガハッ!!」
「雑魚ばかりだな」
圧倒的である。太郎ですら届かない。上級の鬼というだけでこれほど強い。そこに例外はなく、双妹も上級の鬼を相手に苦戦していた。
「これで終いだ」
殺傷力の高いであろう爪を剥き出しにして、太郎の胸を思い切り突く。
しかし、その一撃で太郎の鮮血が見られることはなく、鈍い音が響き、鬼の爪が折れるのみであった。
「なに? 人間ではないのか?」
「ハァハァハァ」
絶え絶えの息をする太郎の上半身は今の一撃で露わになっていたが、そこに肌色のものはなく、赤く...赤い鱗がついていた。
「鬼ではないな......妖刀を使った様子はない。妖か?」
だが、それにしては人間すぎる。一切感じないのだ。人への悪感情を
そんなことがあるのか? 妖怪でも鬼でもない力など...頭を回転させるが、上級の鬼には思い当たるものはない。
だが、頭を回したことにより冷静になる。市場をともに襲った上級の鬼の存在を思い出す。
「そろそろ彼奴も終わる頃か」
そんなぽつりとこぼした独り言に返答が返ってくる。
「いや。まだ終わってないと思うよ」
「誰だ?」
上級の鬼は声の方向を見る。しかし、そこにはいない。
「名も持たない鬼に名乗るのは嫌味っぽくて嫌だけど、一応挨拶といこう。僕は井上光忠だ。でも、くれぐれも名前を呼ばないでくれると嬉しいな」
柔らかい雰囲気のある光忠の言葉に棘がある。鬼への憎悪があるのだろう。それでも、光忠は自身の仕事を全うしている。光忠は一昇と太郎をすでに、少し離れたところに置いていた。
「雑魚どもを救おうとしているのか?」
「君たち鬼のことは殺す予定さ」
鬼の言う雑魚は人間のことであったが、光忠は雑魚を鬼と置き考えていた。
「雑魚? 誰が?」
「特定の誰かのことは言ってないよ。まぁ、君も含まれているけどね」
雑魚と言われた鬼が光忠に襲いかかる。その速度は太郎の比ではない速さである。常人どころか並の組員では、反応することも叶わない速度の突き。
それを、光忠は一歩後ろに下がり避ける。避ける際に、光忠は何やらぶつぶつと唱えていた。
「何を唱えている? 命乞いか?」
「さあ、どうだろうね」
上級の鬼は確信する。自らの方が強い。鬼のその考えは慢心ではない。百花組に所属するどの隊長にも地力では勝てるだろう。現に、今の突きももう一歩踏み込んでいたら、光忠の胸に突き刺さっていた。
「死ね」
光忠に向かい再度突きを放つ。上級の鬼の速度は先ほどよりも早い。だが、光忠に手が届くことはなく、地面へと落ちる。
上級の鬼を上回る速度で、抜刀し切り落としたのである。
「おのれ!!! 何故だ!?」
上級の鬼は切れる。鬼は常に人間への憎悪を持つ。そのため、怒っている方が強い。だが、相手に憎悪を持っているのは光忠も一緒である。
「君は確かに強いかもしれないけどね。僕は百花組の対鬼戦において最強なんだ」
地力であれば上級の鬼はどの隊長にも勝てるだろう。だが、それは光忠以外であればの話である。
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