26話 玩具
上級の鬼を莉子と双妹に任せた太郎は走っていた。向かう先は、一昇との待ち合わせ場所である。
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「こりゃまずいな、殺気が肌を刺しやがる」
一昇が目の前の鬼を睨みつつ言う。
「うむ? 百花組ではないように思えるが、なぜ我の前に立つ?」
そう言う鬼は青い肌、白い髪であり、身長は高く、一昇が見上げるほどであり、気配だけではなく、その姿も人間離れしていた。
「なぜって? これがあっしの仕事ですぜ」
「こんなのが前線に出るとは...なるほど、人間の絶滅は近いということか」
一昇は戦闘技術は百花組を目指してただけはあり高い。だが、それでも場数を踏んでいるわけではない。
いくら強がろうと声は震え、全身に余計な力が入って強張ってしまう。
強く握られた棒は小刻みに震えていた。
「震えてるではないか? 人間らしく逃げたらどうだ?」
気分が良いのか鬼はやたらと喋る。一昇からしても時間が稼げるため、ありがたい。
「心遣いはありがたいですけどね。人間は逃げる生き物じゃねーんですわ」
草食動物と肉食動物なんて優しい差ではない。そんな、圧倒的な差でも逃げないのは、人間の愚かさであり、強さである。
そもそも、逃げようとしても、逃してはくれないだろう。一昇は鬼を見てそう考える。
「ふむ。少し遊んでやるか」
お腹に響く低い声で鬼が言う。一昇は鬼の一挙手一投足を逃さないように見ていた。
「カハっ...!!」
しかし、腹に強烈な一撃が加えられる。視界の中に常に鬼はいた。それなのにも関わらず、反応をすることすらできなかった。
地面を4回転ほどしたのちに、一昇は体の芯が折れてしまったかのように、真っ直ぐと立つことができず蹲る。
強烈な一撃をもらった一昇はそれでも鬼から目を逸らさない。そんな一昇を見て鬼は下卑た笑みを浮かべる。
「どうやら、我を視界に収めないと落ち着かないようだったからな。あまり動かないでやったぞ」
一昇が視線を逸らさないのは恐怖からである。そう鬼が遠回しに告げる。
そんなことはない。そう否定しようと、立ち上がろうにも力は入らず、声を出そうにもあまりの痛みに過呼吸となってしまい、声が出ない。
「ヒっ...ハァ......ハァハァハァ」
それでもまだ一昇の心は折れていない。手に握る棒を使いなんとか立ち上がる。
「頭を下げてるようだが、礼なんてしてどうした?」
立ち上がったのは良いが、顔を上げる力などはなく目線を向けるだけで精一杯である。そんな様を見て鬼は笑う。
そのまま、ゆっくりと鬼が近づいてきたかと思うと強烈な痛みが走る。それと同時に視界から鬼が消えた。一昇は気がつくと地面に横たわっていたのである。
「蹴られたぐらいで視線を逸らすとは情けない」
鬼は一昇の上に跨りそう言いいながら、頬を力強く掴む。その姿はまさに鬼である。
一昇は息もまともにできない。しかし、この距離なら攻撃が届く。
一昇は乱雑に棒を振るいはじめる。技術などはない。考える脳などもう残っていないのだ。
そしてその様子を鬼は止めることもなく楽しそうに見ている。
いくら殴ったところで鬼は痛くも痒くもない。
「弱いな」
いくら棒を振るったところで意味などなかった。一昇の手に握られた棒は気がつくと、折れている。
振るう棒は鬼には届かず、体はもう動けない。
鬼は動かなくなった一昇を見ると、飽きたように投げ飛ばす。
投げ飛ばされた一昇はおもちゃのようになんの反応もしなかった。
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