21話 定期市
月に3回、市が行われる。そのうちの1回が今日である。行われる場所は百花組の詰所がある所から、少し歩いたところに存在する神社前である。
「ほら、ここよ」
そこにはずらっと店が並んでおり、客が数多くいた。魚や農作物などの食材や、下駄や笠など種類は千差万別である。
特に農作物は様々なものがある。これには理由がある。それは、双姉が言うには、鬼の存在と帝の存在によるものが大きい。
鬼が現れてから、人間同士のゴタゴタが少ない。
そのため、農民は農業に集中できるようになった。特産物は増え、農民自身の力も増してきたのである。
帝の力は誰よりも強力で...
「すごいな、食べ物がいっぱいだ!」
太郎の目はすでに食べ物に向いている。
「太郎、説明、もう聞いてない」
「本当ね。まぁ、仕方ないわね。説明は後にするわ」
双姉、双妹は急いで太郎についていく。太郎は現金を持っていない。この現金は帝の保有する金と同等の通貨が流通している金本位制が用いられている。
これは全国で使えるわけではないが、帝の手の届く範囲であれば使うことができる。しかし、いまだに現物での取引も行われているし、給料は米で支払われたりもしている。
「これもらっていいか?」
太郎が肉串を指さして尋ねる。今は、食べ物のことで頭がいっぱいであるが、平生であってもお金なんてものは知らない。
「あいよ、8銭ね」
「これでいいかしら」
追いついた双姉がお金を取り出す。いざ肉串を前にすると、芳しい香りがあたりに広がっており、食指が動く。それは双姉、双妹両方ともである。自分の分もちゃっかりと購入していた。
「お、何か交換でもらうんだな。ありがとう」
太郎はものをそこまで知らないが、お礼などはちゃんということができる。
「太郎ちゃん? 勝手に行っちゃだめよ。合わせたい人もいるんだから」
太郎は肉串を手渡される目を輝かせながら返事をした。
「はーい」
兄弟ほどの年齢の差しかないはずなのだが、その姿は親子のように見える。無邪気に歩き回る太郎を放置すると、勝手に動き回るということを理解した双姉が太郎の手を握る。
「後でまた通るから、その時見ましょうね」
「うん」
そのまましばらく歩き続け、市場の一番端まで歩く。そこには笠を被った一人の男がいた。
「おお、もしや百花組の方では?」
その笠を被った男は齢30ほどだろうか、無精髭が生えていて、あまり覇気がないような印象を受ける。しかし、何やら百花組に対する憧憬の気持ちがあるのだろう。その見た目に反し、目は輝いており、口調は明るいものであった。
「えぇ、そうです。今回はこの子の教育に手を貸して欲しくて、こちらに顔を出したんですよ」
そう聞くと驚いた男が不思議そうな顔をする。
「この男の子にですかい?」
目の前にいる男の子は、見た目では何ら特別なところはない。元気そうではあるが、それだけだ。強いて特別なところをあげるのなら、浮世離れした様子であることだけである。
「この子最近百花組に入隊したのよ。それも特別待遇で」
その言葉に男は驚く。眉間に皺を寄せたり、疑った様子は見せず、気持ち良いぐらいに、ただひたすらに驚いてみせた。
「ほんとですかい? それなら喜んで引き受けますよ。そんな御仁に物を教えられるなんて嬉しい限りですぜ」
「ありがとう。太郎くん、この方がこれから、一般的なことを教えてくれるわ」
双姉は自分が一般的な知識を与えるよりも、他のものが教えるべきだと考えたのだろう。
「そうか。ありがと」
男に太郎がお礼を言う。
「おう。俺は一昇だ。おめぇさんは?」
「俺は太郎だ。よろしくな」
元気の良い挨拶である。
「おう。いい挨拶だな」
これから太郎は一昇に一般的な知識、双子に対鬼の知識を教わる生活が始まる。
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