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妖刀と鬼と......  作者: 上石うらた
一章
19/53

18話 中級の鬼


 山を後にした百花組は街を目指し歩く。行きは、大天狗の妖術で向かったため、大した労力はかからなかったのだが、こうやって歩いてみると意外と距離がある。



「この辺で野宿と行こうか」


 光忠のその声を聞いた途端、皆ため息を漏らす。よほど疲れていたのだろう。


 こんなに疲労しているにも関わらず、眠る際は雨風を凌げるものなどはなく、糧食と共に持ち運んでいた藁で編んだ敷物である筵を敷き眠る。


 疲労困憊で今すぐ寝たいぐらいではあるが、その前に食事である。食事に関しては、行きの分も用意されていたため、充足していた。


「太郎くんと津雲くんはこっちに来てくれるかな?」


 物腰柔らかく二人を呼ぶ。引率者で共に食事をとる。これからの話し合いもあるのだろう。


「おーい、光忠さんが呼んでるぞ」


 そう言いながら、太郎の居る場所へと向かうと、すでに仰向けになって眠っていた。大した敷物があるわけでもなく、お腹が満ちているわけでもない。ただひたすらに疲労のみが睡眠の要因となっていた。


 そんな太郎をみて思うことは一つであった。


「光忠さん、太郎はそのままでいいですかね?」

「うん。いいよ。津雲くんが許すぐらいだもんね」


 普段から太郎に突っかかる津雲という構図は、出会ったばかりである光忠ですら認知していた。


 そんな普段から突っかかっている津雲が太郎の眠りを妨げないということは、天狗による試練がそれほどに過酷なものであったことを示唆していた。


「津雲くんは大丈夫かい?」

「はい。俺は少し眠らされましたからね」

「そうか。それは頼もしいね」


 そう言いながらご飯の準備をする。基本的に、兵糧はおにぎりと塩分を取るための塩などになる。人間同士の争いであれば略奪することで食事を得ることもできるが、今回は妖刀契約が目的であるため、それなりの量を運んできた。


 そもそも人との戦いはもうほとんどないため、略奪行為など最近では行われていない。


 皆も食べ始めたのだろう。あたりから食べ物の香りがする。


 すると突如凄まじい勢いで飛び起きるものがいた。


「太郎!! お前食い意地か?」

「いや、これは違うようだよ。津雲くん」


 嬉しそうにする津雲を傍目に、光忠が揺れ動く刀を抑えながら言う。


 飛び起きた太郎は刀を握り一直線で鬼の元へと向かう。鬼への嗅覚は凄まじい。光忠ですら気づいていない時にすでに知覚していた。


(どんな環境で育ったらこうなんだろうね?)


 光忠が、そう思ってしまうほど異常である。


 太郎が鬼を勢いよく殴りかかる。鬼への打撃、というか素手での攻撃は愚策である。しかし、それも太郎でなければの話だ。


 鬼の形をしっかりと捉え、頬のあたりを殴り吹き飛ばす。


「ウヘッ...ニンゲンダ」


 太郎の一撃を受け、頬を抑えながら軽く起き上がる。


「こいつ喋ったぞ」


 下級の鬼とは違い、黒いモヤのような姿はしておらず、輪郭がはっきりとしている。見た目は、人型であるのは間違いないが、瞼はなく、鋭い歯をしており、角がある。



「こいつは、中級の鬼だね。一人じゃ厳しかろう。津雲くんも行きなさい」

「わかりました」


「ニンゲンダ」


 鬼は津雲に向かって飛び跳ねる。


「妖刀解放ーー付喪」


 凄まじい距離を鬼は軽々と飛んでみせる。


 そんな飛びかかってきた鬼を津雲は一歩下がり、刀を抜き切り付ける。


「イタイ?」


 手応えが薄い。津雲の一撃は鬼に対して、大した傷を与えられていない。


 それでも、津雲の攻撃は当たっていた。それに対して、鬼の攻撃は津雲には届かず軽く避けられていた。


 その理由は、鬼の狙いこそは正確ではあったが、頭が足りていない。相手が動くことを考慮に入れてはいなかったためである。


 津雲が2撃目を放とうと刀を振りかぶるが、流石に鬼は速い。


 地面に手をつけ、両足で津雲の腹を蹴り上げる。


「はやっ...」


 天狗の作った仮面よりも強い。津雲は軽く吹き飛ばされ、地面に落ちる。


「ピョンッ」


 鬼が飛ぶ。相手が動くことなど考慮に入れていない。

だが今回は考慮に入れる必要がない。津雲は動けないのだから


 鬼が津雲の位置に飛び降りると凄まじい砂埃が起きる。

今回は命中した。そう思われたが、この一撃も外れた。


「アレ? イナイ?」


 倒れている津雲を太郎が掬い上げてすでに避難をしていたからである。


「かんいっぱーつ。津雲大丈夫か?」

「全然平気」

 

 明らかに平気ではない津雲がよろよろと起き上がる。


「そうか。今回は俺たちの方が数多いし、協力だ!」


「わかった」


 津雲の強がりを分かった上でそう言う。そこまで付き合いが長いわけではないが、なかなかに良い組み合わせである。


 太郎が挑発をするかのように、鬼の方へ向かい堂々と歩く。


「オマエ、ウザイぃぃ」


 それを見た鬼は、自らの加虐心を妨げられたことにより、キレながらドンドンと音を立てて走る。


 その姿は癇癪を起こした子供のようであった。


「いくぞ」


 そういうと、今度は太郎が飛ぶ。鬼は、目の前から消えた太郎を目で追い睨む。


「トンデモ、アタラナイ」


 自分の2回の経験から、空では方向転換ができないことを学習したのだろう。


 好機に怒りを忘れ、太郎を待つ。ただひたすらに太郎を睨む。鬼と同等か、それ以上に飛んだ太郎はすぐには降りては来ない。


 太郎の跳躍力は凄まじく降りてくるまでに、津雲が距離を詰めることが可能であった。


 ふらふらした足取りではあるが、音を極力殺し近づく。


「ふーー」


 深呼吸をしたのちに刀を抜く。太郎にしか意識のいっていない鬼は津雲に気づくことなく一撃をもらう。


「しゃぁーー!!」


 吹き飛ばされた意趣返し。雄叫びを上げ、強く振り抜き、鬼の体を浮かす。通常刀での一撃を受けたら、切れるものなのだが、この鬼は通常よりも頑丈なようで、軽く飛び、そのまま倒れる。


 そして飛んだ先に太郎が落ちてくる。太郎の膝が鬼の顔に当たると、グシャリという音を立てて、鼻が潰れる。


 見事に太郎と津雲の連携は決まった。


 鬼に跨った状態であった太郎が立ち上がると津雲はトドメを刺そうと鬼に近づく。


 しかし、中々太郎はトドメを刺そうとしなかった。言語を介す鬼に躊躇してしまったのである。


 太郎が、躊躇したことに気付いたのだろう。津雲が鬼の元へ行き、首を落とそうと柄に手をやると、「タスケテ」と鬼がつぶやいた。


 鬼の命乞いである。初めてみる光景に覚悟の決まっていた津雲であったが、一瞬動揺してしまった。


 その瞬間を見計らって鬼の鋭い爪が、津雲の首を狙う。が、それも叶わず腕が落ちる。


「ダメじゃないか。鬼に同情なんかしちゃ」


 井上光忠がそこにはいた。そういう光忠の目には光がなく、鈍い表情をしていた。


 気がつくと鬼の首から上は消えており、少しの間の後、靄になって体も消えていった。


読んでいただきありがとうございます。

次も読んでくれると嬉しいです。

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