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異世界を知った少年が全てを失った事はこの世界の誰も知らない

作者: まる

初めて異世界物を描きました。

背の高い木々に囲まれた獣道を脇目もふらずに走る人が一人。十代半ばほどの黒髪の少年。Tシャツやズボンの裾がら覗く手足は細く色も白くて何処か不健康そうに見える少年は鬱蒼とした自然のなかではやけに不自然だ。

「クソ!何でいきなりこんな森のなかに、」

少し息を切らせチラリと後ろを振り返る。まるで何かが追って来ていないかを確認するように。何もいないのを確認すると膝に手をつき、呼吸を整えた。そして今一度なぜここにいるのか、ここは何処なのかを思考を巡らせた。

目が覚めるまでは何もかもが通常通りの日常だった。学校へ行って普通に過ごし、うちに帰ってからも夕飯を食べてゲームして風呂にはいって本を読んで寝て、普段と何も変わらない日常だったはずだ。何処かに移動した記憶もない。なのに、目が覚めると自分は森のなかで草の上に横たわっていた。普通に夢だと思ったが、起き上がる時に草で切った指の痛みに恐怖を覚えた。ぷくっと円上に出来る血にジワジワとにぶい痛みが広がる。夢じゃないぞと言っているかのようだった。更に少年を不安にさせたのはガサガサと草木を揺らしながら自分へと近づく気配を感じたからだ。野生動物かもしれないし、もし人間だとしても必ずしも安全な人だとは限らない。こんなわけもわからないところで丸腰で犯罪にでも巻き込まれたらたまらない。出来うる限りの全速力でその場を離れた。

「それにしても、見たことない植物ばかりだ。シダ植物やのツル植物にも見えるけど、」

ジャンルを問わず本を読むことが趣味だったため広く浅く知識はある方だと過信していたがその知識が余計に己を不安にさせた。自分が見たことがない自然植物ということは自分の住んでいた地域から遠くはなれていることを意味するからだ。全く知らない間に睡眠薬でも盛られて南国に拉致でもされたのだろうか?だがそんなことをして何の意味があるのだろう?それに、もしその仮説が正しいとして家族は、同じ家に住んでいた父と母、兄はいったいどうなったのだろうか?黙々と獣道を進む。幸い大きな獣のものと見られる糞はない。大きさからして狐や狸くらいのものだろう。それらの動物であれば人里の近くに下りることもある。その人里がきちんと機能している町なら警察や役所もあるはずだからそこを目指そうと足を進めた。ここに来て唯一よかったことは靴を履いていたことだ。

「でも小説とかだと突然の異邦人に村人が混乱、とか次々に起こる事件に巻き込まれたりひょんなことから冒険なんてことが起こるんだよな。まぁ現実でそんなこと起こるはずないんだけど。」

幼い頃は本のなかに出てくる勇者や魔法使いに憧れもしたし今でもそんなジャンルの本を読んだりもするがしょせんフィクションだ。実際戦争のない平和な日本でぬくぬく育ってきた自分にとって縁もゆかりもない物語のなかだけの世界。こんな非日常な森のなかにはいるがこれも何かしらの事件やテレビのどっきりなどではあり得ないことでもない。目が覚めたら急に知らない場所にいるからといって物語の中や異世界に入り込んだのではないかと考える方がナンセンスだ。

「お、道が見えてきた。」

どのくらい歩いたかは分からないが車輪が通って出来た道までたどり着いた。辺りはまだ木に囲まれてはいるが道があるということは辿っていけば人里に着くということだ。ここでの問題は左右どちらに進めばより早く近くの人里へたどり着けるかだ。ずっと歩き通していたため喉も乾いている。脱水や熱中症になってしまうのは不味い。

「自動販売機でもあればなぁ。」

そう呟いてため息をついたとき、少年の右手側の道からガタガタと何かが近づいてくる音が聞こえた。

「車か?大丈夫そうな人だったらヒッチハイクして電話貸してもらえたら一番いいんだけど。」

少し様子をうかがうため近くの茂みに身を隠し車が目視出来るくらいになると自分の想定していた車との違いに違和感を感じた。

「今時馬車?・・・・いや馬じゃない!あれは、」

車を引く生き物の姿に驚き尻餅をつきジリジリと交代した。

「ディノニクス?いや、まさかそんなわけ・・・。」

獣脚類を思わせる細長い肢体に2足歩行で長く鋭い爪、長い尻尾に鋭い牙、恐竜図鑑に乗っていたその狂暴な肉食獣が4匹繋がれ荷台を引いている。

「恐竜は一億三千万年前には絶滅してる。あり得ない。夢だ!もしくはテーマパークで見たことのあるリアルな恐竜のロボットに決まってる!」

頭を両手で抱え込み、固く目をつむった。早くこの夢から覚めるように。

荷台を引いていた恐竜が足を止め、鼻をひくひくと動かし辺りを見回した。

「?どうかしたのか?」

荷台から声が聞こえる。急に止まった事に疑問を感じているのだろう。ひくひくと草むらを向き鼻を動かすのを確認し、荷台から下りて足を向けた。

ドクドクと心臓がなる。早く逃げなければと思うのに驚きと疲れから足がすくんで動けない。

「おや、珍しい。ホモサピエンスかい?」

大きな鼻と白く長い顎髭を蓄えた黒のローブ姿の男が少年を見下ろした。水面に映る月のようにすんだ瞳はとても穏やかで優しい色をしていた。

「え?に、ほんご?」

「にほんご?それは君の名前かい?」

「あ、いや日本語は僕の国の言葉で名前はルイです。西野類。貴方は?」

「私はヴァイゼ。ホモサピエンスが来るのは久しい。長く旅をしていて退屈なんだ少し話し相手になってくれないか?」

「え、でも。」

「見たところ手荷物も何もないようだし君もこの状況を整理するには話をして落ち着いた方がいいだろう。さぁ乗って。」

普段なら絶対に乗ることはないが疲れと喉の乾きと本のわずかな好奇心から荷台へ乗り込んだ。ヴァイゼが革で出来た水筒を取りだし、先に口にして見せてからルイに渡した。恐る恐る口につけたが相当のどが渇いていたのだろう少し温めのその水をごくごくと勢いよく飲んだ。一息着くと先ほどから疑問に感じていたことを口にした。

「あの、先ほどから僕のことをホモサピエンスって言ってましたけどなぜです?人類は皆ホモサピエンスですよね?それに、この車を引いているのって恐竜ですよね?ロボットえーっと作り物ですか?」

「ハハッ少し元気になったみたいだな。彼らは作り物ではなくちゃんとした生き物だよ。我々はディノゾールと呼んでる。とても賢く、力も強くて足も速い。君の事をホモサピエンスと言ったのは君たちと私たちでは祖先が違うからさ。君たちの祖先はクロマニヨン人を主に持つホモサピエンス、そして私たちの祖先はネアンデルタール人だからね。」

「じょ、冗談ですよね?そんなわけ、それに先ほどからずっと流暢な日本語で話されてますし、何かのどっきりとかなんですよね?」

「にほんごというのがよく分からないが、我々は言葉を音としてとらえ伝えたい事を回りの空気を震わせて相手に伝えているため特定の言語は存在しないんだ。だからどんな相手とも共通の言語認識でのやり取りが出来る。」

「そんな、超能力みたいなこと。」

「過去に何度か色々なホモサピエンスがここに来たが皆信じられないと酷く暴れたといわれている。君はどうかな?」

そう試すように見つめてくる視線に目をそらしたくなったがじっとこらえ見つめ返した。

「暴れるなんて非合理的なことはしません。ただ家に帰りたいだけです。僕の知っている世界と違うというのならそれをきちんと立証出来るところへ連れていっていただけませんか?」

この男が嘘をいっているようには見えないが、あまりにも内容が突拍子も無さすぎる。話の内容を確信するためにはもっと確固たる証拠がほしい。

「・・・・君は若いのになかなか冷静なようだ。いいところに連れていってあげよう。町に行く前にはこれを身に付けておくといい。」

渡されたのは濃茶色のマントと革の手袋だった。

「気づかないものの方が多いとは思うが、骨格や頭部の違いから気づくものがいるかもしれない。用心に越したことはないだろう。」

用心とは何を用心するのかと聞きたかったが自分の目で見てたしかめた方が早いし納得が出来ると思いそれらを身に付けた。古いものなので臭うかと覚悟をしたが臭くはなくむしろ白檀のような優しく落ち着く匂いがした。



ガタガタとした振動が止み下りるよう促された。荷台から下りて顔を上げるとギリシャ神殿のような建物が目の前にあった。

「行こう。」

と言って建物へと進んでいくヴァイゼの後を建物の壮大さに見とれていたルイは慌てて追いかけた。

中は博物館のようになっていて歴史的な装飾品や動物の剥製などが置かれていた。ピラミッドの模型やオーパーツのようなものもあり立ち止まってじっくりとみたい欲にかられるが早足であるくヴァイゼの後をついて行った。

「ここだ。」

たどり着いた先にはいくつもの透明な球体が並べられていた。

「これは何ですか?」

「我々の祖先がずっと記録してきたものだ。」

そう言ってヴァイゼが球体にふれると声が頭のなかに響いてきた。優しく、眠る前の子供に物語を語り掛けるような声だ。

その内容はネアンデルタール人の歴史だった。姿は似ていても知性が高く温厚なネアンデルタール人と知性はネアンデルタール人に近いくらいの高さを持つが狂暴性を持つクロマニヨン人。それぞれ別の人類として生まれ、中には交配して二つの種族が混ざったものもいたがクロマニヨン人は次第に武力で格差をつけ、強いたげるようになってきたためネアンデルタール人はクロマニヨン人とは離れ別の世界で生きてきたという。そとの世界で進化の過程でいきることが難しくなってきた生物も共に。そとの世界にいる子孫に手助けが出来ればと何度か交流を図ったが、その能力を讃えられ恐れられた。ホモサピエンスの行動言動パターンと地層学天文学生物学の天から想定したこと全てがほとんど現実のものとなっている。外の世界との往復から時空が歪み時折外のホモサピエンスが来たときどれだけ丁寧に説明しても彼らは混乱し、泣き叫び、怒り時には暴力にはしる者もいた。やはり種族の違うもの同士合間見えることはできないのであろうか。その後の歴史では安全のためこちらに来たホモサピエンスは専用の棟へ隔離し記憶を消せる装置を開発後は記憶消失を行い帰すようにしたというものだった。

「そんな、まさか、」

そう言った瞬間突然のめまいに襲われルイは意識を失いその場に倒れこんだ。そして部屋の奥にある扉から白いローブに身を包んだ数名の男女が現れた。

「ご苦労様でしたヴァイゼさん。」

「想定されていたゲートから移動していたときは正直焦りました。」

「やれやれ、少年を騙すようで心が痛む。」

「仕方ありませんよ。これまでの彼らの歴史を考えると。かわいそうですけどね。」

「いつかホモサピエンスとも共存できる世界になるといいんですけど。」

「彼らの遺伝子の中の狂暴性が失くなればな。」

「そう、その遺伝子にのみ反応して睡眠効果を与える水!すごいですよね。」

「未だに全ての生物の上に立とうとして同じホモサピエンス同士で争いあっているので共存することが出来る世界になるにはまだまだ難しそうですね。」

「まぁ、とにかくこの子は記憶消去を行って外の世界に帰して上げなさい。たしか『にほん』と言っていたからそこに帰して上げることは出来るかな?」

「うーん。詳しい場所指定はまだ改良中なので難しいですね。」

「そうか、仕方ないな。」

「その代わりきちんとついた場所の言語を理解できるようにしておきますから。」





______


__________



「ルイ、まだ自分のこと思い出せないのか?」

コーヒーの入ったマグカップをコトリと机の上に置いて白髪にメガネ、青みがかった瞳の男性が訪ねた。

「ありがとうございますパーキンソン先生。はい全く。」

ルイと呼ばれた青年はコーヒーにくちをつけた。スッキリとした苦味と柔らかな酸味が口一杯に広がる。ブルーマウンテンだ。

白髪のパーキンソンと呼ばれた男性がルイと言う記憶喪失の少年の身元受取人となったのは雪の降り積もった早朝だった。冬のキンと冷えた朝の空気が好きでよく散歩をしていたパーキンソンはいつもの公園まで来るとベンチにぼんやりと腰かける東洋人の少年を見つけた。こんなにも寒い日に薄いTシャツ1枚、だが身なりは清潔な彼に違和感を覚えた。違和感の正体を確かめたくてサクサクと音を鳴らしながらベンチに近づいたところで違和感の正体に気づいた。ベンチの回りには足跡がひとつもないのだ。雪の降っている間に来たのだとしてもずっと同じ姿勢で座っておくことは難しい。雪は深夜0時には止んでいる。今の時刻は午前6時30分足の回りですら雪が乱れていない。6時間以上も同じ姿勢で微動だにせず座り続けるなんてほぼ不可能だしあの薄着では低体温症になり凍死してしまう。

「こんなに朝早くからどうしたんだい?ずっとここにいては体が凍ってしまうよ。」

パーキンソンが声をかけると少年は朦朧とした瞳で見上げた。

「どうして、でしょう。僕は、どうしてここに?」

その回答に目を見開いた。記憶喪失の少年とは何かあったに違いない。

「すぐに警察を呼ぼう!君、名前は分かるかい?」

「・・・・・なまえ、名前はルイ。」

覚えていることは自分のファーストネームのみという少年だがしっかりと言葉を理解し流暢なイングランド語を話、文字の理解もあるため学のある一般家庭の子供であれば捜索願も出されているだろうと誰もが思ったが彼の特徴にあった捜索願は見つからなかった。記憶を失ったことに関係しそうな傷もないためいつまでも病院に居るわけにもいかず施設への入居になるはずであったが彼を最初に見つけたパーキンソンが彼を気の毒に思い考古学の助手として彼の身元受取人になったのだ。

予想外に彼は素晴らしく優秀でいい助手になった。考古学に関心を示し知識も豊富で機転もきき話も合って本当の息子か親友のように感じられた。こんなにも考古学に強い関心を示しているのならもしかしたら考古学のなかにルイの記憶を取り戻す鍵があるのではないかと思ったが記憶が戻る様子は全くなかった。

だがある日ソファでうたた寝をしているルイにブランケットをかけようと近寄るとぶつぶつと寝言を言っていた。もしかしたら記憶に繋がるかもとメモをとったがなんとも突拍子もないような出来事ばかりであった。何度かメモを取る日が続き、何気なくテレビのニュース番組をみてハッとした。本の散乱した机の中からメモを取り出すとニュースで起こった事件が記されていたからだ。気になったパーキンソンはインターネットを使い類似した事件や事故、災害が起こっていないか調べてみるとどれもルイが寝言で発した後にそれらのことが起きていた。これは偶然なのか、はたまた彼は予言者か未来から来た未来人なのかと頭をよぎったが小さく首を振った。

「ルイが何者だってどこから来たのかだって関係ないさ。ルイはルイで私の家族で助手で親友で私の一番の理解者だ。」

しかし、これが本当に未来に起こりえることならばしらせれば未然に防ぐことが出来るかもしれない。だがルイにたどり着くようなことがあってはいけない。そう考えたパーキンソンは偽名で送信者を辿れないようにしこれから起こりうる出来事を記し送信した。



_____



_________



数年後未来人からのメッセージと呼ばれる予言がほとんど当たっていると世間を賑わせたが、ルイとパーキンソン2人の男性の存在を知っている者は世界には誰一人としていなかった。



自己満足だらけの文を読んでくださりありがとうございました。

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