疑い
また随分と空いたなぁ。
十字大陸の南端の都カノンから数日かけて北に進んだところにある大きな街、エルノア。大通りから外れた小汚い宿屋の前に、私こと森霊族のシアリアは立っている。人の通りの少ない道にたった一人。ポツンと。なぜかって?目的地が本当にここなのかを疑っているからです!メモに記されている場所は確かに目の前の小汚い宿屋の位置を示して、『安息』って宿名も一致している。ではなぜ中に入らないのか?……はぁ。正直に言いましょう。
「こんな場所に入れるかーーー!!」
そう叫びながらメモを地面に叩きつける。
汚いのよ!見た目が!空気が!さっきちょっと中覗いたけど外見と一緒で汚い!こんな宿で安息など訪れるかぁー!私は汚いのが嫌いなの。この世で!最も!お店で出てきた料理の皿がちょっとヌルっとしているのが耐えられなくて店員に文句を言うくらいに!わかってる、わかってるのよ。おかしいのは私。異常なまでに気にする私が世間一般では通じない存在であることはとっくの昔に気付いていた。だからちょっとの汚れくらいには耐えられるようになった。でも!それでも!目の前の宿屋は…。
「……汚い」
小汚い宿屋『安息』を見上げて涙を流していると後ろから肩を叩かれた。振り返ると笠を被った着物の女性と、その女性の胸当たりに頭頂部が位置する二つ結びの小柄な女の子が立っていた。
「おねぇーさん何してんの?見てて怪しいよ。ウチら入りたいんだけど」
女の子に言われてハッと気づき、叩きつけたメモを拾いながら横にズレる。
「すみません。他の人に気付かないなんて、私ったら…」
拾ったメモを見ながら顔を上げた時、今回この宿を訪れた目的を思い出した。
「あーーー!」
「うわぁなに!?ウチなんかした?」
今回の目的。それは、目の前の二人に会うために私はここに来たのだ。
場所は変わり、とある喫茶店にて。私は目的の二人とお茶をしている。
「なぁ~るほど。そこにタイミングよくウチらが現れたってわけね」
事の経緯を二人に説明し終わる頃、二つ結びの女の子アルスタはテーブルに並んでいたお菓子を平らげていた。
「ごちそぉーさまでした。さて!行こっか」
アルスタが急に立ち上がると、それに合わせて静かにお茶を飲んでいた着物の女性『目無し』も立ち上がる。
「あの、行くってどこへ?」
「どこって、まさかここで仕事の話する気じゃないよね?」
「え、えぇ。それはそうですけど…」
「なら、安息へ向かうがよかろう?」
「ダメです!やめてください」
せっかくあの小汚い宿に入らなくて済んだのに戻るなんてできない。だがこの場ではアルスタの言うように私たちの仕事の話はできない。なにか、なにか別の方法は…。
必死に考えた末に導き出した答え、それは。
「要件はここに全て書いてあります。私はこれで失礼します」
二人への指示を書いたメモの切れ端を渡し、伝票を持って会計に向かう。大丈夫だ、何の問題もない。切れ端を渡したアルスタはポカンとしていたが仕事に影響はない。私は今回の件ではあの二人に直接関わらないのだから。私の仕事は、二人の監視だ。
どれだけ食べたんだあの吸血族…。
どうも皆さん、私です。お久しぶりですねぇ。続きを待っていた方、ありがとうございます!べ、別に待ってねーしという方、ありがとうございます!通りすがりの方、ありがとうございます!私の書いた物語が皆さんの暇つぶしくらいにはなればいいなと思っています。……なに言ってんだろ。それではまた次回!