天才の作戦
息抜きで書いてるんですけど、最近その息抜きすら難しくなってきましたねぇ。
敵にいる吸血族が問題だと話した猟師ハウントと情報を共有していく。
予測される敵の数、こちらが使える戦力、ウチらのターゲットの男、敵の拠点、目無しちゃんの実力。
「いい?基本的に男女の差はどの種族も変わらない。つまり、ウチがその男に力で勝てる可能性は極めて低い。でも種族が違えばその関係は崩れるの」
「あの目無しならば勝てると?だが彼女は人間族だ。身体能力は奴の方が上だぞ」
「それは、単純なパゥワーの話でしょ?それに、ウチら吸血族はそいつの影に入らないと支配できないのよ。そして、影は光源がないと作られない。だから上手いこと同じ土俵に立てればウチらの勝ち」
納得できないという表情をする猟師ハウントに最後まで聞けと手で制止する。
「わかるよ。そうなるまでどうやって持っていくかってことでしょ?そこをどーにかしちゃうのが天才アルスタちゃんの腕の見せ所よ!」
パンッと袖をまくった腕を叩く。勢いつけすぎて痛い。
敵の性格も拠点の状況も細かいところまではわからないから予想でしか作戦は立てられないけど、可能性をできる限り潰していけば失敗する確率は低くなる。実は今までウチが立てた作戦で失敗したことなんてないんだZE☆
「にゃっはははは。だぁ~いじょぶだって。不安要素は潰してってあげるよ」
そうしてウチと猟師ハウントとの作戦会議は日が暮れても続いていった。ちゃっちゃと終わらせて早く寝たいにゃぁ。
翌日。日が最も高く上る時間。敵の移動先の拠点の近くの茂みに隠れるウチら3人。
「あそこかにゃ?」
ひそひそと猟師ハウントに確認すると間違いないと静かに頷く。敵の拠点は猟師ハウントの縄張りからも表の道からも外れた洞窟に作られていた。おそらく中を掘り進めて逃げ道を確保しているはずだ。
「近くにある抜け穴は見張らせている。今回は逃がさないさ」
猟師ハウントと長い間行動を共にしてきた仲間か。
「よぉ~し、始めますかね。行け!目無しちゃん!」
ビシッ!と洞窟の方を指さしながら目無しちゃんの影に沈む。作戦はこう!道に迷った目無しちゃんが洞窟の見張りに近づき注意を引く。その隙にウチが見張りの影に入って気絶させる。洞窟の入り口には見張りが二人。片方は目無しちゃんに任せるZE☆
杖で足元を確認しながら歩く目無しちゃん。コンコンという杖の音に気付き見張りの1人が歩み寄ってくる。
「おい、止まれ!ここでなにしてる!」
「はて、ここはどこなのでしょう?街に向かっていたはずなのですが」
あらら、見張りに距離ができちゃったねぇ。
『目無しちゃん、こっちの見張りやっちゃって。ウチは奥の見張りをやるわ』
『わかりました』
吸血族は影に入るとその者の五感を共有できるのだが、目無しちゃんは視覚がない。影から見えないように頭を出し距離を確認する。うーん、低すぎて見にくい。ま、出ればわかるか。
『じゃいくよー!3,2,1…GO!」
目無しちゃんは素早く背後に回り首を絞める。同時にウチは影から飛び出し全力でもう一人の見張りに向けて走っていく。そして勢いを殺さないように踏み込み跳躍!
「くらえ!必殺・アルスタちゃんドロップキーーーック!」
「ぐはぁっ!」
蹴り飛ばされた見張りは洞窟横の岩壁に打ち付けられた。そして!アルスタちゃんは後方に飛び華麗に着地。
「ぐえっ!」
できなかった。なにやっているんだ、と呆れながら近づいてくる猟師ハウント。目無しちゃんはうまく気絶させたみたいね。
「大声を出したら気付かれるだろうが」
「技名を叫ばないと威力出ないんだよぅ!」
ぎゃいぎゃいと言い合うウチらの所に遅れて目無しちゃんがやってくる。
「ま、遅かれ早かれ気付かれるんだし良いっしょ。さ、行くよ!」
話を途中で切られ不服そうな顔をする猟師ハウント。ウチはそれを無視して目無しちゃんと洞窟の中に入っていった。
洞窟に入ってすぐに分かれ道が出現した。
「これは、はぁ…。面倒だねぇ。ハウント右ね、ウチらは左に行く」
「な、そんな簡単に決めるな!右に吸血族がいたら前回と同じことになるぞ」
「ならないしさせないから安心して進むがよい!それに、獣族ならわかるでしょ?そっちにはいないよ」
猟師ハウントは獣族だ。他の種族に比べて五感のいずれかが優れる。種類によるが猟師ハウントは嗅覚が優れる種だ。一度会ったヤツの匂いくらい覚えられる。その証拠にハウントは反論をやめている。ちなみにウチは同族から匂う血の香りで判断した。
「わかったならさっさと進むんだな。ウチらといるよりやりやすいでしょ?」
「一人も逃がすなよ?」
「そっちこそ。あ、生け捕り?」
「どちらでも構わん」
「りょーかーい♪」
猟師ハウントとの会話を終え、それぞれが分岐を進み始める。と、目無しちゃんが付いてこない。
「目無しちゃん?どったの?」
「…はっ、いえ!なんでもありません!」
慌ててウチについてくる目無しちゃん。
「血の臭いは嫌いかにゃ?」
「そう…ですね。」
「くっさいもんねぇ~。にゃははは」
ケラケラと笑ってみせるも目無しちゃんの反応は良くならなかった。
分かれ道を進むと微かに話し声が聞こえ歩みを止めた。そこからはゆっくりと進み様子を伺う。どうやら少し進んだ先に広い空間があるらしい。気付かれないようにひそひそと目無しちゃんに話しかける。
「恐らく入口手前に1人。声が反響してるから中は結構広いかもね。明かりが漏れてるから影もできるし注意が必要。ま、ウチがサポートするから吸血族は心配しなくていいよ。それから…。」
「大丈夫です。アルスタちゃんは敵の数のカウントと吸血族対策をお願いします。それ以外は私が引き受けます」
頼もしいねぇこの娘は。まあ、憶測で立てた作戦なんてほぼ意味ないし、目無しちゃんの出たとこ勝負なところ嫌いじゃないよ。
各々の役割を確認するとウチは目無しちゃんの影に入っていく。そして、目無しちゃんは杖でわざとコンコンと音を大きく立てて歩みを進め始めた。当然敵は警戒態勢に入っているだろう。
入口が見えてくる頃、目無しちゃんは敵の1人を捉えた。
「侵入者だー!」
と男が仲間に知らせながら目無しちゃんに向けて武器を構える。洞窟での戦闘を考慮したリーチの短い刃物だ。構わずゆっくりと進む目無しちゃん。堂々としているためか、男は一定の距離を保って後退している。後ろ足が入口に入りかけた時、男は姿勢を低くし突進してきた。目無しちゃんは未だに杖から刀を抜こうとしない。
「おらぁぁあああ!」
叫びながら武器を振りかぶる男。目無しちゃんとの戦闘において声を出すと確実に負ける。組織で彼女に稽古をつけてもらった者たちが最初に学ぶことだ。目無しちゃんは杖の持ち手の先端に左手を添え、中心部を右手で持ち、相手の喉笛に向けて突き出す。男は突進してきた勢いのまま喉笛を抉られ呻きながら倒れた。
『ひと~つ』
目無しちゃんはすぐに体勢を戻し、ウチがカウントをするのと同時に飛んできた矢を数本弾く。歩みを進め入口を抜けてすぐ、息を殺していた者が棍棒を振り下ろそうとするが鳩尾に突きを入れられダウン。
『ふた~つ』
再び矢が飛んでくるがこれも難なく弾き落とす。ここでウチが少しだけ頭を出して人数を確認する。
『残り5人。どれが吸血族かわからないけど、弓持ちが2人。正面に剣士が1人。あとはなんか動き回ってる』
「ありがとうございます」
ゆっくりと正面の剣士に向けて進んでいく目無しちゃん。剣士は目無しちゃんの出方を見ている。途中何度も矢が飛来するが全て弾いている。先ほどの様子を見ていたからか、剣士は一言もしゃべらない。ある程度進みおよそ中央に位置した時、目無しちゃんはカツンッ!と杖を縦にして強く鳴らした。いつも戦闘の時に目無しちゃんがとる行動。彼女曰く、気持ちの切り替えと敵の位置の把握をしているのだそうだ。これだけでわかるとはウチには思えないね。でも、まるで全てが見えているかのように動き回るんだなぁこれが。
目無しちゃんの行動の意味が分からず動きを一瞬止めた剣士は、次の瞬間には首が切り落とされていた。
『みーっつ』
対角線にならないように、かつ離れて弓を構えていた2人は目無しちゃんを見失っていた。姿を探しているうちに両腕を落とされる。
『よっつ、いつつ』
2人の絶叫により敵の位置が不確かになっていると思われるが、さすが目無しちゃん。すぐに残り2人の方向に身体を向ける。捉えられた内の1人は腰を抜かし尻もちをつきながらも出口に向けて移動している。だが、もう1人の男によってそれは阻止された。仲間であるはずの男が首元に噛みついたのだ。
『仕事が楽になるかね?むっつ。残り1人』
「だと良いのですけれど…」
刀の血を払い構えなおす目無しちゃん。最後の1人。吸血族は血を得た瞬間が一番強いと言われている。単純な力比べでは目無しちゃんに勝ち目はない。こっから先は、ウチの出番ですにゃ~。
ウチはズズズ…と影から出ていき目無しちゃんの首元を噛む。そして少量の血を吸う。
「…プッハァー!やっぱ美人の血は最高だねぇ」
「次はもっと優しくお願いします、ね!」
先に動いたのは目無しちゃん。男を影に入らせないためだ。その隙にウチは影から複数のカラスを生み出す。ウチに気付いたのか、男は目無しちゃんの攻撃を避けながらカラスを生み出していく。だが、数はウチの方が多い!影の遣いが対消滅していく中で一羽だけ突破し男の周囲を飛び回る。吸血族の霧化は風が強いと制御が効かなくなり危険なのだ。これでヤツの霧化は封じた。
「クソッ!」
霧化で目無しちゃんの刀を避けようとしていたため片腕が切り落とされる。だがその一振りの隙に目無しちゃんの影に沈み込んでしまった。人間族と吸血族の差で影に入られては体を乗っ取られ、最悪殺される。しかし、今回の対象は目無しちゃんだ。言っちゃ悪いが普通の人とは感覚が違う。ウチでもまだ慣れないんだ。できるはずがない。
「何なんだこいつは!」
ほら出てきた。そして、予測していた目無しちゃんの刀が男を捉える。ズブリと心臓を一刺し。貫かれた男は腹から口から血を流しその場に崩れた。目無しちゃんは終わった、と刀の血を払い杖に刀身を収めていく。
「ななつ!お掃除完了であります!」
言いながら目無しちゃんに駆け寄る。
「ごめんねぇ。いきなり吸って痛かったでしょ?次はうまくやるZE☆」
「期待はしませんよ。それより、ハウントさんの方の確認を…」
「だぁいじょぶだって。ウチらは生きてるヤツを縛ってこの先の出口にいればオッケー!目無しちゃんは先に行ってていいよ、ウチがやっとく」
「そうですか。では、よろしくお願いしますね」
「任せとけぃ!」
目無しちゃんとの会話もほどほどに入口の気絶してる二人を影に仕舞う。それにしても、どうやったら視覚情報なしであんなに動けるのかねぇ。
出口を出るとそこには狼とじゃれる複数の子供と猟師ハウントの姿があった。
「早いじゃん」
「今終わったところだ」
「で?その子たちは?」
「攫われていた子供たちだろう。どうやらここは主に倉庫として使われていたらしい」
「そっか。じゃあウチらの報告ね。道中の敵は片付けて、2人生け捕り。よっと、こいつらね」
と言いながら影から生け捕りにした男2人を取り出す。
「後の処理は任せるよ。じゃ、ウチらは帰るから。報酬忘れんなよぉ~」
ひらひらと手を振りながら猟師ハウントに背を向けて歩き出す。
「お疲れさまでした。失礼します」
と言って目無しちゃんもウチについてくる。猟師ハウントがどんな顔してるのかは知らないけど、気にもならないけど。嘘、ちょっと気になる。でもぉ?カッコつけちゃったし?今更振り返ってなんか言うのも変じゃん?
頭の中であーだこーだ言っていると近づいてきた目無しちゃんが耳元で口を開く。
「そーいえば、今回はどこまでが天才アルスタちゃんの作戦通りだったのでしょうか?」
そう言われて猟師ハウントと話し合った作戦の数々を思い返していく。するとだんだん顔が熱くなり言い表せない感覚が身体の内から込み上げてきた。
「もー!忘れて!てか目無しちゃん起きてたの!?い~じゃん、無事に終わったんだからぁ!」
「痛い痛い。やめてください。痛いですって」
目無しちゃんに忘れろ忘れろ!っとポカポカ頭を叩く。ウチらのやり取りを後方でクスリと笑われたような気がした。
どうも私です。書いてて思ったんですけど、1話前と話がズレてたら怖いなぁと思いました。なるべくそーゆーのがないようにしてるんですけど、あったらすみません。今回は短めです!終わり!また次回。