猟師の悩み
お疲れ様です!季節の変わり目、体調管理をしっかりとしていきましょう。
ウチと目無しちゃんが森に入ってから数十分くらい経過した。
道という道はなく、木の根や背の高い雑草が茂っているところをかき分けて進んでいる。全部切って進もうかと思ったけど、猟師のハウントに怒られるらしいので仕方なくそのまま進んでいるのだ。
「大丈夫かい?足下気を付けてね」
「はい。ありがとうございます」
霧化を解除してかき分ける役を担ったウチは目無しちゃんの安全を確保しながら進むのだ。目無しちゃんは目が見えないために杖で足元を確認しながら歩かなければならない。静かな森の中に響く杖の音、ウォーンという動物の鳴き声……鳴き声?これは、狼あたりだろうか。だとすると複数いるはず。
「目無しちゃん!周囲警戒!」
「わかってます!」
ウチはすぐに霧化し高所から周囲を見渡す。だが森の中は木々が多く死角が多数存在する。視認できれば目無しちゃんに伝えられるのに!
「ごめん!ウチからじゃなんも見えない!」
「では木々の間隔が広い場所に誘導してください!」
「りょーかい!っと、今の目無しちゃんから10時の方向に13歩前進!そこなら動ける」
「ありがとうございます!」
指示通りの場所に素早く移動する目無しちゃん。走ることはなく、確認→歩くの動作を最速で行っている。やはり経験と慣れなのか躓くことはない。だがそれ以上に驚いたのは敵が移動中に襲っては来なかったこと。仕掛けるタイミングがおかしい。動物の狩りに詳しくはないが、目無しちゃんの移動は無防備に見えたはずだ。群れの長の知能が高い?それとも…。などと考えていると不意に目無しちゃんが警戒を解く。
「目無しちゃん!?」
慌てて霧化を解き目無しちゃんに駆け寄る。
「大丈夫です。理由はわかりませんが、脅威は去りました。が、別の方がいらっしゃったようです」
そう言う目無しちゃんの見る先にはゆっくりとこちらに近づいてくる1つの影が見えた。そのシルエットはヒトに獣の耳を生やしたもの。つまり獣族であった。顔もはっきりと見える距離になって、ウチが男だと認識した時に目無しちゃんが呼びかける。
「あなたが、猟師のハウントさんですね?」
「……。」
そう呼ばれた獣族の男は、一瞬眉をピクッとさせ答えずに頭を下げた。そうしてすぐにこう言った。
「見逃してくれ」
「ちょちょ、ちょっと待った!話が見えてこないよ?どうしてこうなった?とりあえず頭上げよっか?ね?」
ウチの言葉を聞いて顔を上げる獣族の男。彼は違うのか?というように眉をひそめる。
「とりあえず状況を整理させて。あなたは猟師のハウント。OK?」
彼は黙ってうなずく。
「ウチらは組織の者。これはお分かり?」
「……。」
彼は黙ったままだが眉をピクリと動かし首を横に振る。
「うーん。じゃあ、あなたの今の家に案内してもらってそこで話そっか。ウチら慣れない道?を歩いたから疲れちゃったのよ」
彼からの返事はないがすぐに体の向きを変えて歩き始めた。
「待って待って、もっとゆっくり!こっちは女の子なんだから合わせなさい!あと目無しちゃんは目見えないから気を遣うこと!わかった?」
返事をせずにゆっくりと歩くハウント。今まで色んなヒトを見てきたけど、これはトップクラスでムカつくわ。
ハウントに嫌味を言いながらついていくと1つの小屋が見えた。
「もしかして、アレに住んでるの?」
「ああ…」
小っさ!なにあれ物置?寝るしかできなくない?
「気持ちはわかりますが猟師さんの仕事を考えると仕方がないように思います」
と目無しちゃんが言ってくる。そう言われて組織から渡された資料を思い出す。
猟師ハウント。表では猟師だが、裏では集団を相手にした殺しの依頼を受けている組織の一員。裏が意味する集団は広く活動していることが特徴で情報交換が盛んに行われている。故に長期に渡って活動しているハウントは有名人なのだ。今回は何者かの襲撃を受けている可能性がある。
一か所に留まれないし、痕跡も残せない…か。
「ウチの価値観で判断してた。ごめん」
「謝らなくていい。狭いのは事実。そこの倒木に腰かけるといい。汚れが気になるならそこに干してある布を使ってもらって構わない」
お言葉に甘えて倒木に布を敷いてウチと目無しちゃんの二人で並んで腰かける。しばらく休んでいると、ハウントがさてっと話を始める。
「どこから話せばいいか。簡単に言うと、仕事に失敗した。ターゲットの罠にはまり数人逃してしまった。顔は割れた。もう仕事は続けられないだろう。組織との連絡をとれば追跡され拠点に攻め込まれる可能性がある。ならば、迷惑をかけるが組織に探させる方が安心だ。尾行にも気付き対応できる者が派遣されるはずだからな。そして、君たちが来た」
な~るほど。話の内容もウチらを信用してないのもだぁ~いたいわかった。その辺アルスタちゃんは敏感に感じ取るよ。聞いた上で答えよう。ウチらがとる行動は…。
「自分のケツくらい自分で拭きな。ウチらは関係ない。逃したじゃないよ。追うんだよ。あんたこの道何年やってんの?組織に迷惑かけないように何があっても完遂するんだよバァーカ!」
「まあまあ、落ち着いてくださいアルちゃん」
「目無しちゃんは黙ってて。今回こいつがやったことは大きすぎるんだよ。組織がそんな簡単にやられるとは思わないけど、予測できる程度でも被害は大きいでしょうね。何が起きるかわかってるじゃん。だったらどんな理由でもやり遂げるか、最悪自害する。それが裏で動く組織ってもんでしょ?」
ウチからの言葉を全て目を逸らさず受け止めたハウントは何も言わず、ただじっとウチの目を見ている。お互いに黙っている中で口を開いたのは目無しちゃんだった。
「アルちゃんの言うことは私も正しいと思います。でも、ハウントさんは仕事を諦めたわけではありませんよね?自分では対処できないイレギュラーが発生し、応援を呼ぼうにも呼べない状況であった。違いますか?」
「……すごいな。これからその話をしようとしていたところだ」
は?なに?わかってないのウチだけ?えーなになに恥ずかし!頭に血のぼらせて説教とか恥ずかしすぎるんですけど!はぁ~。穴があったら入りたい。
「まさか、ここまでやってきて叱られるとはな。ありがとう、改めてこの身に刻んでおこう」
そのフォローいらないです!早く話を進めてください!ウチは羞恥に耐え切れず目無しちゃんの影に沈み込む。それを見てハウントは食い気味に声を発する。
「それだ!吸血族の有する能力。今回の問題はその能力なんだ!」
ハウントの発言に真剣な顔になる目無しちゃん。
「続けて下さい」
「今回の集団の中に吸血族の男がいた。数人逃したというのは、影に入られ身体の自由を奪われたからなのだ。力が上回れば縛られないそうだが、奴の方が上だったらしい。だから君たちが来てくれて安心した。同じ吸血族なら戦えるだろう?」
うーん、難しい仕事を追加で依頼されそうだね。ウチはそこまで強くないんだが…。
「では、その吸血族を私たちがなんとかすれば仕事を完遂できると?」
「その通り。そして、この仕事が片付けばすぐに情報の伝達を阻止できる。それだけの力がある。信じろとは言わない。君たちに依頼という形で受けてもらいたい。もちろん相応の報酬を用意する」
目無しちゃんはしばらく考えウチの方を見る。目無しちゃんがこういう時どうしたいのか、ウチはよく知っている。
「受けようじゃないか。というわけで作戦会議と報酬の相談に入ろう。目無しちゃんはゆっくり休んでていいよ。この天才アルスタちゃんがいれば、なんとかなるからね☆」
と言いながら影から出ていく。さて、いくら稼がせてもらおうかね。
どうも、私です。前回の投稿からまた間隔が空いちゃいました。すみません。今回から出てきた猟師ハウントですが、年齢も見た目も決めてないんですよね。人物描写はしっかりしないとって考えて、結果書きませんでした。皆さんのお好きなように想像してみてください。たぶん明確にはしないと思うので。おっと長くなってしまった。今回も読んでいただきありがとうございました。気に入っていただけたら幸いです。それではまた次回。