とある猟師の話
寝ているときが一番幸せ。
十字大陸の森には獣族の縄張りを示す印が多く存在する。木に刻まれた爪痕、動物の骨で作られたトーテムなど様々だが、中には変わった方法で縄張りを主張する者もいる。
森の外に看板が1つ設置されている。内容は『この先立ち入り禁止』だけであり、誰が出したものなのか、その先に何があるのか誰も知らない。唯一分かることと言えば、その看板は壊しても翌日には修復されるということのみである。
ある日、子供たちが肝試しにと看板の先に踏み入ったことがあった。森の中は日中でも暗く、目立った道もなかったそうだ。ひたすら奥に進むと人影を1つ視認したという。大人の獣族で種類はわからなかったが男ではあったとか。子供たちはその獣族の後を追うと異様な光景を目にした。その獣族は何かに殴る、蹴る、爪で引き裂くなどをして遊んでいた。その何かとは…。
「ヒトだったのです。」
「…………。」
ベットの上で毛布をかぶりカタカタと震える『目無し』と呼ばれる彼女。それを見て楽しくてニコニコしてしまう語り手のウチことアルスタちゃんは、丸くなった目無しちゃんをツンツンするのだった。
「にゃっはははは。やっぱり怪談は怖がる人がいてこそだねぇ~」
「私は聞かないと言いましたのに!勝手に話し始めるなんて酷いです!」
布団から顔だけ出して膨れっ面してもかわいいだけだよ目無しちゃん。
「そろそろ寝よっか。明日も早いし」
「鬼ですか!…うぅ~、どうしてくれるんですかぁ~」
目見えないのにおばけ怖いのね。…今話したやつおばけじゃないや。あれ?でも何個か話したっけ?まあいいや。
「ウチは鬼ではなくやさし~い吸血族なので、トイレはついてってあげるし一緒に寝ることもできるZE☆」
「……。大丈夫です!」
ガバッとウチと反対側を向いてしまう目無しちゃん。もぉ~なんでこの娘はこんなにかわいいのかしら?この姿を拝めるのがウチだけってのはマジで最の高!
「知ってると思うけど次の仕事はその看板のある森だからね☆おやすみぃ~」
「うぅ~…。」
~例の森の看板前~
「……。」
昨日の怪談のせいかずっと黙っている目無しちゃん。無言で一緒に歩くのは気まずいのよ。
「えーっと、目無しちゃん?もしかしなくても、怒ってる?」
「……。」
あー、やっちゃってるわ。ウチやらかしちゃってるわ。退屈だからって色々やりすぎたかなぁ。この状態での仕事はモチベ下がりっぱなしよ?
ウチと目無しちゃんはとある組織のお抱え掃除人として動いてるコンビなんだけど、ウチはコソコソと裏でサポートするタイプだから、仕事中は基本目無しちゃん1人で動いてもらってるのよね。つまり、ウチが昨日怪談でビックビクにしちゃったせいで仕事にならない可能性があるのだ!
「あれは作り話だから。大丈夫だって!実際にここにいるのは獣族の猟師だって言ってたじゃん」
今回の内容は森にいる組織のメンバーの1人、獣族の猟師ハウントとの連絡が途絶えたため調査せよ!とのこと。正直ウチらには向かない内容だよ。目無しちゃんなんかきっと木の根っこに足引っ掛けて転んじゃうよ。
「……。」
「機嫌直してよぉ。これから仕事だよ?」
「…っは!な、なんですか?」
んー?これって、、
「もしかして、寝てた?」
「すみません。なかなか寝付けなかったので…。」
おおーい!怒ってたんじゃないのかい!今寝てたの?立ったまま?姿勢崩れてなかったよ?首ガクッとかなかったよ?ずっと目閉じてるからわからないって。
「…はぁ。仕事、大丈夫そう?」
「はい。なんとかします」
「今回は口調変えなくていいよ。今までも変えたところで意味はなかったけど」
「なにを言いますか。必要なことです!話し方で気付かれたら大変じゃないですか。でも、今回は猟師さんだけですから大丈夫ですかね」
いや、意味ないって。声だけでバレる時はバレるよ。目無しちゃんの声は一回聞いたら忘れられないくらい透き通ってるから。
「ほんじゃ、いつも通りいきますかね」
「はい。よろしくお願いしますね」
いつもの言葉を口にして霧化するウチと歩き出す目無しちゃん。はたして、この森はウチらを歓迎してくれるのだろうか。
どうも私です。長いこと空いちゃいましたね、すみません。さて、今回から登場しましたアルスタちゃん。この娘のおかげで別作品かなってくらい雰囲気変わってびっくりしてます。(私だけ?)それではまた次回。