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暗い世界で何を見る  作者: ぬるま湯
組織と敵、掃除屋と客
16/17

セルシュという男

暑い!遅い!ごめん!

 シアリアの連れてきた3人との会談を終え、夜も遅くそろそろ寝るかと作業を中断しようとした時。影の遣いから報告が入った。送り主はセルシュという男の家に置いてきた猫からだった。

 未だに手紙の執筆作業が終わらないウチことアルスタちゃんは、目無しちゃんにお願いしてセルシュの依頼を聞いて来てもらうようにお願いした。

 そして、目無しちゃんが宿を出てしばらく経った頃、再び猫から信号が送られてきた。今度は目無しちゃんが触っているようで、今すぐ感覚をリンクしろという。目無しちゃんの言うとおりにすると、ちょうどセルシュが依頼を話し始めるところだった。一通り聞き終わると、目無しちゃんは依頼を受け、しばらくして宿屋へと戻って来たのだった。


「ただいま戻りました。」

「おっかえりぃ~。」

 扉を開く音と共に目無しちゃんが挨拶をしながら部屋に入ってくる。

 ウチは姿勢を変えずに返事をして、何を言うでもなく、ただひたすらに手紙を書き続けている。

 帰宅早々、目無しちゃんは就寝モードへと移行していく。刀と三味線の手入れは外出前にしていたから、あとは寝るだけだったのだ。

「まだ書き続けるのですか?」

「うん。あともうちょっとで全部だから、ラストスパート!ってかんじ。」

「あまり無理はしないでくださいね。アルちゃんが倒れてしまっては、私は行動できませんから。」

「わかってるよ。ウチがいないと目無しちゃんはなぁ~んにもできないからね。」

 ウチがふざけて言うと、目無しちゃんは「そこまでは言っていません!」と少し頬をムッとさせる。その後は、特に何も話すことはなく各々のやることを済ませ、ウチが手紙を書き終える頃には目無しちゃんはベッドで静かに眠っていた。



 翌日の夜。と言っても昨日セルシュに呼び出された時間より少し前。

 依頼を受けるにあたって確認しなければならないことがいくつかあり、セルシュの家の前で帰りを待っているところだ。

 何分待ったかはわからないが、考え事をしているとあっという間だ。暗い夜道を細いシルエットの男がふらふらと歩いているのが見えた。

「おーい!セルシュくんおつかれ~ぃ。」

 人がいると思っていなかったのか、呼ばれたセルシュはビクッと身体をはねさせ、ウチを見つけてほっとしている。

「こ、こんばんは。……あの、依頼…の件、ですよね。どうぞ。上がって下さい。」

 そう言うとセルシュは家の鍵を開けて中へと案内する。セルシュは水の入ったコップを2つテーブルに置き、ウチに座るように促してくる。

「ありがと。今日はねぇ。依頼を受けるのに聞かなきゃならないことがあって来たんだ。」

 対面に座るセルシュは、何でも聞いてくださいと受け答えをする姿勢をとった。

「じゃあさっそく1つ目。妹さんの病気って詳しく知ってる?」

「心臓の病気だ、と言っていました。他にも…いくつかあるみたいで、説明は受けたのですが…、ぼくの頭が悪くてあまり理解はできていません。…幸いにも治療法はあるみたいで、お金さえ払えれば直してくれると。治療に時間がかかるのはわかります。…でも、もう何年も続けているのに、回復に向かっている様子がなくて……、本当に治るのかって、医者を疑ってしまうんです。」

 妹のことになるとオドオドしなくなるんだなぁ。それは置いといて。

 治療法はあり借金をしてでも医者には金を払った。しかし、妹さんの体調は改善することはなく、今も薬やら入院費やらで借金の返済どころではないと。確かに医者を怪しむのもわかる。

「つまり、その医者を中心に色々調べて欲しいってことだね。」

 ウチが聞くと彼は冷静になったのか、小さく「はい。」と答えた。

「おっけー。じゃあ2つ目。借金の取り立てってあのチンピラくんたち?毎回違う?」

「大きな身体のヒトは変わらなくて、周りの何人かは何度か違うヒトでした。」

 あー、あの時話しかけた男かぁ。あの場ではリーダーっぽかったけど、仕切ってるのは別だよね。なんてゆーか、頭良さそうには見えなかったんだよねぇ。

「次に会う予定は?」

「えっと、今日は…もう終わるか。だったら、2週間後…ですね。」

 彼はカレンダーを確認しながら予定を伝えてくれる。見せてもらうとその日に返済という字に〇をして書いてあった。

「なるほど。その日の返済額はウチが出すから。あ、勘違いしないでね。調査に必要なことで代わりに払ってあげるわけじゃないから。」

「は、はい。」

 ウチの言葉を理解しているのかいないのか、きょとんとして返事をしている。

 その後、いくつか質問をしていき、気付けば1時間程経っていた。

「と、こんなところかな。明日から色々調べてみるけど、1ヶ月は覚悟して欲しいかな。」

「わかりました。よろしくお願いします。」

 初めて会った時より随分と話しやすくなったじゃないか。ウチに慣れてきて少しは気を許せるようになったのかな?

 そろそろ帰ろうと席を立ち、玄関へ向かおうとした時、スッとセルシュの家に置いていた猫が前を横切った。そして、まだ一つ質問が残っていたことを思い出した。

「あーそうそう。最後に1つ大事なことを聞くのを忘れてた。」

「な、なんでしょうか。」

 その場にしゃがみ、横切る猫を捕まえ、撫でながらあえてセルシュを見ずに質問をする。

「もし、この調査で医者がキミを騙していたとわかって。なんなら借金先と手を組んでいたとする。その時、セルシュくん。キミはそいつらをどうしたいと思うかな?」

 ウチにとっては簡単な質問。でも、彼にとっては難しい質問。

 あり得るかもしれない未来の話。何度も見てきた、よくある話。

 彼を襲っていた理不尽が、自分の手で、目の前で崩壊させられるとしたら。

 しばらくの沈黙の後、彼は口を開いた。

「わからない、です。」

「それは、何をするのが正しいかがわからない。ということ?」

「いえ。アルスタさんがしているのは可能性の話、ですよね。どれだけ考えても、その時にならないと自分が何をするかなんて、わからないじゃないですか。」

 そう。自分を抑えて、ただただ耐え続けて、今にも弾けてしまいそうなほどに溜まった感情は、ときに予想を超えたことをする。

「きっと、怒っているんじゃないですかね。なんでぼくたちだったんだって。もしかしたら、手や足が出ているかも。」

 檻から出された獣のように、理性を失った狂人のように。目につくものすべてを傷つけようとする。

「ぼく、こんなに細いから、殴ったらぼくの方が怪我してそうですよね。」

 そして気が付いた時には、周囲はボロボロで、自分もボロボロで、誰もいなくて、静かで。

「だからですかね。」

 いつの間にか近くに寄ってきていたセルシュは猫をひょいと持ち上げる。

 つられて目線を上げると、ぎこちなく笑う顔があった。

「殺したいほど憎んだとしても、殺している姿は…想像できないですね。」

 彼に抱えられた猫に顔はないはずなのだが、その腕の中ですごく気持ち良さそうな顔をしているように見えた。

「そっか。ごめんねぇ~。変なこと聞いちゃって。」

 ウチはいつものようにヘラヘラと笑って、再び玄関へと歩き出す。

「その猫はこれからも置いとくから、何かあったらまた撫でてやって。それじゃ。」

「はい。よろしくお願いします。」

 彼の返事を聞き、玄関の扉を開けて出ていく。

 

 小柄で二つ結びの吸血族の女は、小さく何かを呟くと、夜の闇へと溶け込んでいった。


ふと思った事。初見で読んでくれた人って、「なんでこの人、毎話の後書きで挨拶書いてるんだろう。」って思うんじゃないか?(気分で書いてる・趣味なのでどうしても時間がかかるんです。)どうも、私です。最近というか今年?めっちゃ暑くないですか!?熱中症には気を付けてくださいね。さて、何ヶ月ぶりの投稿ですかね。このペースで行くと今年のうちに書き終わらないんですよね。(呆れ)待ってくれてる皆さんが作品の存在を忘れるレベルで遅いですね。すみません。残念ながらこの先も変わらないと思います。そんな私の作品ですが、これからもよろしくお願いします。それではまた次回。

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