見えない敵
寒いよぉ。
目無しちゃんを狙っていた女を連れだしたウチことアルスタちゃんは、路地裏にて情報を引き出しているところである!まあ、持ってる情報が少なすぎてもう終わったんだけどね。
女はちょっとお金に困っていた一般人で、金払いのいい男に依頼されて目無しちゃんの行動を監視していただけ。なんと先払い!怪しすぎるね。あの店には常連で毎度訪れては店員と世間話をする仲なんだとか。
聞き出せたのはこれだけ。口止めされているわけではなく、質問してはペラペラと話してくれた。
これはアレだね。ウチらの敵が何かを仕掛けてくる計画の第一段階。この女に対してウチらがどういう対処をするかを見たかったのだろう。今もどこかでウチらを見ている。目無しちゃんでも気付けないほどの実力者が。この考えが正しければまた近いうちに何かが起きる。警戒はいつも以上にする必要があるね。そして、間違いなく『アルター』が絡んでる。
何かを待っていては遅い。出遅れたがこれ以上後手に回る気はない。ウチらに喧嘩売ったこと後悔させてやらないとね☆
色々と話してくれた女にこれ以上ウチらに関わらないように忠告をして解放してあげた。帰した後にどうなるかは知らないけど、無事だといいね。
他人を見送り、ウチは目無しちゃんたちのもとへと戻った。
ウチらの活動拠点である宿屋にて、シアリアを招き入れての作戦会議を開催した。
「さて、ウチらの置かれている状況は話した通りなんだけど、質問ある?」
二人とも首を横に振る。理解が早くて助かるよ。
「それじゃあウチらの今後について話し合おうか。目無しちゃんはいつも通りでいいとして、ウチとシアリアが問題なんだよねぇ。ここ最近よく会ってて、何かしらの関係があると相手さんは気付いてるだろうし。」
シアリアは少し考えた後、何かを決心して話し始めた。
「二人は気付いてないかもしれないけど、実は私、諜報部隊の1人なの。」
「知ってる~。」
ウチが相槌をうつと、シアリアは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。シアリアはぶんぶんと首を振り、真剣な顔に戻して話を続ける。
「隊長からは追加情報を与えられていない。というより、組織は今あなたたち掃除屋を疑っている。」
「それは知らない!」
「でしょうね。組織は私以外の部隊および隊員には接触を最小限にするように命令しているから。」
いつからだ!?どうしてそんなことになっている?報告はいつも通りにしてるし、シアリアの監視にだって怪しい行動は見せていないはず。
「だからアルターについての情報が来ないのね。で?シアリアもウチらをまだ疑ってる?」
ウチの問いに対してハァーッと溜息で返された。
そうだ。疑ってたらこんなことウチらに話すはずがない。動揺してこんなことも判断できなくなっているなんて、天才が聞いて呆れる。
「悪い。今の忘れて。それで、今のを踏まえて考え直すと…、もしかして『組織』を疑ってらっしゃる?」
「ええ。私に与えられた任務は掃除屋の監視。そもそもこの任務自体課せられるのがおかしい。あなたたちは組織に雇われた殺し屋。外部のヒトを疑うのもわかるけど、直前に極秘任務を与えたのよ?アルターはずっと前から追ってる敵。やってることの筋が通ってない。」
ハウントの件は極秘だったらしい。極秘の任務をなぜ一隊員のシアリアが知っているのかは置いといて。確かにそんな仕事をやらせておいて敵との繋がりを疑うのもおかしな話かも?そもそもウチらと組織の繋がりって長いのよね。重要そうな依頼もいくつかこなしてきたわけだし。今更疑うのは良くない。今後の関係に影響しますよ?
「つまり、私たちの今後は『敵』と『組織』どちらも相手として動かなければならないということ。そして、私が信用している仲間は掃除屋の2人の他に3人しかいない。今は話せないけど絶対に裏切らないと保証するわ。」
「なるほど。それにプラスで頼れるのは、ウチらの知り合いくらいか。どーすんのこれ。」
『組織』は竜族を除いた種族で構成されている十字大陸全体を裏から監視し守護する機関だ。それにプラスで所属している種族も数もわかっていない『敵』の戦力。確認するまでもなく戦力に差がありすぎる!
「…もしもだよ?敵が組織を操れるほどに侵食していたとして、どこかで大規模な破壊活動が行われたとしたら、ウチらでどうにかできると思う?」
シアリアは静かに首を振った。そして「絶対に」と付け足した。
そう。これはもうウチらだけでどうにかできる規模を超えてしまった。これから起こる惨劇を未然に防ぐことは叶わない。
ウチとシアリアが黙ってしばらく経ったとき、今まで静かにしていた目無しちゃんが手を挙げて聞いてきた。
「あの~。頼れるヒトならもっといますよね?」
「さっき言った通り、信用できる仲間なんて2桁にも―。」
「違います。私が言っているのは、今まで関わって来た皆さん。『一般人』として、『守護対象』として扱ってきたヒトたちのことです!」
ウチが言おうとした言葉を遮り、語気を強くして目無しちゃんは発言した。
「一般人。なんの訓練も受けていないヒトたちを巻き込むって言うの?」
「なにを言っているんですか?まだわからないなんて。やはり天才は自称でしたか。考えが固いですよ。敵との対立なんて戦闘が全てではないでしょう。」
目無しちゃんにそこまで言われてやっと気付いた。目無しちゃんの言いたいことはつまり、一般人に協力してもらって敵の尻尾を掴もうということだ。
「気付かなかった。ありがとう目無しちゃん。」
そうだ!組織が使い物にならないなら、こっちで使えるモノを全部使えばいいんだ!
「見えたよ!アルスタちゃんが天才に返り咲く花道が!待ってなよアルター。いや、待つ暇も与えない!ウチらに喧嘩売ったこと後悔させてやるぜ☆」
「一人で盛り上がるのはいいから、さっさと説明しなさい。私は何をすれば言いの?」
「そう焦るなよ♪まずはキミのお仲間を連れてきてくれ。話はその時にする。集合場所はさっきまでいた喫茶店ね。それじゃあよろしく!」
そう言って部屋からシアリアを強引に追い出し、目無しちゃんと今後について改めて話し合うのだった。
どうも、私です。気付けば年末。筆が遅いのは自覚してはいますが、こんなにも時間の経過が早いと書き終わる頃には何年経っているのでしょうかね。さて、やっと話に動きが出てきましたね。どうなっていくのか楽しみにしてくれている人がいるのかはわかりませんが、今まで通り気長に見守っていてください。次回は来年に投稿となると思いますので、よろしくお願い致します。それでは、よいお年を!




