そして今日もまた。
今から30年前、世界に終焉が訪れた。
人類は、地球からの警告を無視し続けた…。
その結果、地球による『救済』が発生した。
序章は、異常気象。
世界の火山の噴火。
それに伴い、世界には…決して晴れることのない雨雲が掛かる。
そして…大地を飲み込まんばかりの大雨が降り、植物は街々を襲い、世界を終焉…地球にとっては『救済』を成し遂げたのだ。
多くの人類が、世界を去った。
他の星に行く者。
この星に残るもの。
人類は、2つの選択を迫られた。
…人間というものは、なぜ過去に縋ろうとするのか…。
結局、この星に残り、故郷とともに最期を迎えようという人間がほとんどだった。
俺には理解ができなかった。
現存する人類を全て他の星へ移住できる技術や、それを叶えられるだけの設備はあった。
(しかし…人類は大半がこの星に残った。)
半分以上の人類がこの星に残り、消えていった。
世界の状況は、今どうなっているのか分からないが、多分人類はもうあと10年でこの星から消えると、誰かが言っていた。
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「……くそっ」
追手だ。
今俺は、やつらに追われている。
ここは、かつて日本の池袋と呼ばれていたところだそうだ。
「---------!」
何か喋っているが俺には分からんし、そんな余裕は毛頭ない。
さっさと切る抜けないと、やつらは増援し始める。
俺は銃を手に構え、次の角を曲がったところで狙撃する。
…よし、1匹に命中し消滅した。
ちなみに俺の銃は『S&W M686』の回転式リボルバー銃だ。
携行性と耐久性に優れており、威力の高い弾丸を安定して撃てる使いやすい銃だ。
(…敵は残り2匹…か。)
銃は持っているものの、弾丸がとにかく貴重だ。
なんせ作れる人間と物資がない。
だから弾丸は今この世界上にあるもののみだ。
無駄撃ちは厳禁だ。
次にいつ見つかるかも分からない。
慎重に判断し、的確に使用しなくてはならない。
「はぁ、はぁ…!」
やつらとの距離をある程度確保できた。
よし、今だ!
ーーバンッ!バンッ!ーー
「------…!!」
声にならない悲鳴だろうか。
何か叫びながら消滅していく。
あれは…あいつらは、魔物だ。
全身植物でできた人間の形をとった魔物、いわば地球の化身とでもいうべきか…。
地球は、人類を完全に消滅させようとしている。
地球という、一つの肉体の中の…細胞、白血球みたいな、何かそういったものかと思った。
「…ようは、俺たち人間はバイ菌ってか…」
実際、そうなんだろうな。
俺は息を整えながら、建物の中に入り身を隠す。
もしやつらが増援を呼んでいたら、追手がまた来てしまう。
それは勘弁だ。
「……くそ。ここも既に誰かに物を回収されちまってるな。」
もう世界に残された物資も数少ない。
特に食糧。
これはもう今地球上にあるのみだった。
自生している野菜や果物なんかもあるが、あれはだめだ。
食えたもんじゃない。
もともと、人間が食べていた野菜や果物は『品種改良』し、人間に合うように作られたもんだ。
今はそれを管理する人間もいない。
たまに食べられるものも生えていたりするが…そんなもんはごくわずか。
それに頼っていけるようなもんじゃない。
「……。」
ここには何にも無い。
既に狩りつくされていた。
ここを出よう、そう思ったとき。
「……また、か。」
それは、いつも唐突に表れる。
「……。」
それは、まるで世界が破れたような現象…。
ブラックホールとでもいうのだろうか。
空間に穴が開いているんだ。
(音はしない…でも。)
一度、この穴に弾丸を撃ち込んだことがある。
興味本位というか、人間ってものは、自分の知らない現象に恐怖する。
ー子供って怖いもの知らずだろ?ー
それってこれは危険なものというのを『知らない』から怖くないんだ。
だが、大人は違う。
知っていることばかり。
だからこそ、恐怖というものに出会う瞬間が少なくなった大人にとって、こういった知らない現象は恐怖だったのだろう。
…俺もまだまだガキだな。
撃ち込んだ結果、『何も起きなかった』。
銃から放たれるという過程を通った弾丸は、『着弾する』という結果を吹っ飛ばして『なにも起こらない』という結果を無理やりこじつけてきやがったんだ。
それ以来、不定期ではあるがこいつを見ることがある。
さわっちゃいけねぇ…そして、こいつも地球による何かのサインなんだろう。
もう…終焉はすぐそこまで迫ってるってか…。
「…さっさと、決着をつける必要があるんかね…。」
そう思い、俺はここを立ち去る。
俺の目的か?
それは……。
「……世界の終焉、かな。」
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新たな土地へ…そしてまた新たな土地へ向かう。
いったい…いつ終わるんだろうな、こんな生活。
「……。」
どこに行っても、今降っているこの雨も降り止まない。
この雨は、本当に嫌いだった。
体温を奪われ、食糧もすぐに腐る。
銃もすぐに錆びてしまう。
「……終わらせないと。」
それだけが俺の生きる目的。
それだけ…なんだよな……。
「……。」
新しい土地についた。
ここは、かつて岡山と呼ばれた土地。
日本の首都だ。
「…ここも、か。」
やはり、既にこの土地も人の気配はない。
建物が荒廃し、既にどこもかしこも植物まみれだ。
蔦をかき分け、屋内へ入る。
ここは岡山駅。
かつての日本で一番といわれる、人の利用が多かった駅だ。
バスやタクシーという、かつての運送車の発着場だろうか。
そういった場所には、車と呼ばれていたものが、恐らく『あの日』のまま残っていた。
この世界でも車はあるが、こういう形のものではなく、どこへでも行けるキャタピラ型の車がほとんどだ。
そして、その車の近くには、カバンや…服だろうか。
いや、これ以上の詮索はよそう…。
俺は早々に立ち去ろうとしていた。
その時だ。
ーキィィィィイイイイイイイイイイ!!!!!ー
突然のブレーキ音。
車なんぞの比ではない。
もっと大きな乗り物だろう。
上の方から聞こえた。
俺はその方向へ急いで向かった。
何か、とても大きなものが動いていた。
そしてここ周辺のどこかに止まったのだ。
音の方向は、駅のホーム方だと直感した。
恐らく、ブレーキ音の正体は『列車』だ。
「……。」
ホームにつき、俺は唖然とした。
これは…俺の知っている列車ではない。
そこには、ひときわ大きな列車があった。
こんな形のものは知らない…。
あとで文献にて知ったことだが、これは『新幹線』という乗り物だという。
そして、人の気配はなかった。
これは自動で動くものなのか?
敵が居るかも知れない。
だが、この列車を手に入れることができればかなり大きなアドバンテージだ。
ー間もなく、列車が発車致します。駆け込み乗車はお控えくださいー
ー♪~♪~ー
これは、もうすぐ発車するというのか?
それに、この音楽…聴いたことがある。
昔…俺のじーさんが好きだった、『あにめ』だとか言う『動く絵』があったそうだ。
それの歌だったような気がする。
(たしか…)
…鉄道…。
思いっだせん。
いや、そんなことより
「乗る…しかないか。」
列車に飛び乗ることにした。
このままどこに行くかは分からないし、果たして線路が続きているのかもわからんが…。
「行けるところまで行ってみよう…。」
この世界にも列車はあるが、原子力による列車、これをこの世界では『原子力機関』と呼び、列車のことは原子力機関者と呼ぶ。
そしてその動力源となる原子力による発電機は、列車の後方に取り付けられているはずだ。
だが、この列車にはなかった。
先頭にあるのかと思い、先頭車両へ向かった。
しかし…そんなものはなかった。
その代わりに…。
「……ふむ。お主は……藤田 光一、じゃな?」
小さな女の子が、運転席らしき場所へ座っていた。
「お前…なぜ俺の名を知っている。」
俺はその運転席に座っている女の子に銃を向ける。
赤髪の女の子は、見た感じかなり幼い容姿をしている。
服装も幼い子が着ていそうな、青いワンピースだ。
だいたい10歳前後だろうか…。
しかし、銃を向けられているにもかかわらず、物怖じ一つ見せない。
それどころか…。
「なんじゃお主、そんなものを向けおって。そんなもん、創造主たるわたしの前ではきかんぞ?」
創造主…?まさか…な。
こんなガキが、この世界を作り出しただと?
「なら、撃ってもいいのか…?」
「おぉ、撃て撃て。どうせ引き金は引けん。そうゆう仕組みに今書き換えた、この世界を」
なんだ…このガキ。
言ってることが分からない。
…引けないというなら…。
天井へ向け弾丸を撃とうとする。
しかし…引き金は少しだけ引けるが、弾丸が発射するまでは引けない…。
硬すぎるんだ…。
「くそっ……。」
なぜ引けないんだ!
今までは撃てていたはずだ。
「言ったじゃろ。無駄じゃ。お主はもうゲームオーバーじゃ」
……ゲームオーバー?
「…どういう事、だ?」
「そのままの意味じゃ。お主にこの世界は救えん」
「おい、救えないって…どういうことだ!?」
頭が真っ白になる。
意味が分からない。
「時間切れ…といったことかのぅ。もう残された時間はない。わたしはたくさんの時間を与えたが、お主はこの世界を終わらせることはできなかった。だから、もうお主はゲームオーバーなんじゃ」
ニコニコとそういう女の子。
なんだ…なんなんだいったい…。
「惜しかったのぅ…。この世界の確信…とまではいかないが、お主は、この世界の仕組みについては、何となく理解しておったじゃろ?」
「仕組み…。」
あの現象のことか…。
あの空間が破れたようになった現象か…。
さしずめそれが意味することは
「やっぱり…この世界は偽物なのか…?」
とても現実的な話ではないが、いわゆるあれはプログラムのバグ的な現象なのだろうと思った。
そう考えれば、何となく理解はできる。
「ふむ、そうじゃ。そこまでの理解はあっぱれじゃ。今までのどの『藤田光一より』健闘した方じゃ。…しかし、残念じゃったが、もう終わりじゃ…」
「…どの『藤田光一』より…?」
どの『俺』よりって…なんだそれ…。
他にも俺がいるってことか?
……まさか!
「…もしかしてこの世界は!?何度も何度も繰り返してー」
ーキィィィィイイイイイイイイイイ!!!!ー
俺の言葉を遮るように列車は急ブレーキをかける。
それは少女が操作していた。
衝撃で、俺の体が前に吹っ飛ばされる。
全てがスローモーションに見えた。
その瞬間、少女は…。
ーーー『次■もっと■■く■■ん■■ぞ…』---
俺の中で世界が暗転した。
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「……くそっ」
追手だ。
今俺は、やつらに追われている。
ここは、かつて日本の池袋と呼ばれていたところだそうだ。
「待てこらぁぁあああ!」
何か喋っているが俺には分からんし、そんな余裕は毛頭ない。
さっさと切る抜けないと、やつらは増援し始める。
俺は銃を手に構え、次の角を曲がったところで狙撃する。
…よし、1匹に命中し消滅した。
ちなみに俺の銃は『S&W M686』の回転式リボルバー銃だ。
携行性と耐久性に優れており、威力の高い弾丸を安定して撃てる使いやすい銃だ。
(…敵は残り2人…か。)
銃は持っているものの、弾丸がとにかく貴重だ。
なんせ作れる物資がない。
だから弾丸は今この世界上にあるもののみだ。
無駄撃ちは厳禁だ。
次にいつ見つかるかも分からない。
慎重に判断し、的確に使用しなくてはならない。
「はぁ、はぁ…!」
やつらとの距離をある程度確保できた。
よし、今だ!
ーーバンッ!バンッ!ーー
「う…う…ぁ…ぁああああ…!!」
声にならない悲鳴だろうか。
何か叫びながら血を流し死んでいく。
あれは…あいつらは、まっとうな『人間』だ。
自然を愛し、世界を愛した存在…いわば地球の『守り人』とでもいうべきか…。
地球は、人類以外を完全に消滅させようとしている。
人間は、地球という一つの肉体の中の…細胞、白血球みたいな、何かそういったものかと思った。
「…ようは、俺たち魔物はバイ菌ってか…」
実際、そうなんだろうな。
俺は息を整えながら、建物の中に入り身を隠す。
もしやつらが増援を呼んでいたら、追手がまた来てしまう。
それは勘弁だ。
「……くそ、ここも既に人間に仲間を始末されちまってるな。」
もう世界に残された仲間も数少ない。
地球はもう、人間に支配されつつあるのかもしれない…。
(俺たちはもう……全滅するのを待つしかないのか……?)
「……。」
ここにはもう…俺たちの知っているものは何にも無い。
既に狩りつくされていた。
ここを出よう、そう思ったとき。
「……また、か。」
それは、いつも唐突に表れる。
「……。」
それは、まるで人間の女の子。
子供…それも10歳ぐらいの赤髪で、青いワンピースを着た女の子。
見た目通りの幼さだ。
(しゃべりはしない…でも)
一度、この少女に語り掛けたことがある。
興味本位というか、人間ってものは、どういう反応をするのか興味があった。
『あんた、なにもんだ?』
しかし少女は少し笑うのみだった。
それ以降、何度か唐突に表れ、こちらを認識しているが、少しにこっと笑って、それからはうつろな目をして終わり。
だからこそ、この少女にますます興味が出たのだろう。
銃で撃ってみようともした。
しかし不思議なことに、引き金が引けないのだ。
「…分からん。」
そう、それに尽きる。
おかしいだろ?
銃の引き金を引くという行動を起こした過程で、本来であれば『弾丸が飛び出す』という結果を吹っ飛ばして『なにも起こらない』という結果を無理やりこじつけてきやがったんだ。
それ以来、不定期ではあるがこいつを見ることがある。
関わっちゃいけねぇ。
それは何となくわかった。
しかし、こいつも地球による何かのサインなんだろう。
もう…終焉はすぐそこまで迫ってるってか…。
そうか…。
「…さっさと、行かないといけないんかね…。」
そう思い、俺はここを立ち去る。
目的?
俺のか?
それは……。
「……世界の救済、かな。」
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新しい土地についた。
ここは、かつて岡山と呼ばれた土地。
日本の首都だ。
「…やっと戻ってこられた。」
これまでの『過程』を全て振り返った時、やはりここがこの世界の座標の『終着地点』なのではないかと思った。
バスやタクシーという、かつての運送車の発着場。
多くのバラバラになった車があちらこちらに点在している。
そして、その車の近くには、カバンや…服など…かつて人間だっと者たちがそこにいた。
「……。」
その者達を横目に、俺は最終地点へ向かう。
駅のホームだ。
そしてホームには『のぞみ22号(N700系)』、「新大阪・東京行き」が止まっていた。
ー間もなく、列車が発車致します。駆け込み乗車はお控えくださいー
ー♪~♪~ー
俺は列車へ飛び乗る。
この音楽…岡山駅の新幹線の発車メロディー、『あの有名な鉄道999のアニメ』の主題歌だ。
(行こう…。)
新幹線は岡山を12時23分に発車した。
最終の東京へは15時36分に着く。
俺は目的の先頭車両へ向かった。
それぞれの車両を通過するごとに、俺の今までの失われたはずの『繰り返されていた時の記憶』が蘇ってきた。
その記憶の中では、全て世界の終焉に失敗してしまっていた。
残った人類で世界大戦の勃発した記憶…。
平和だが、それがゆえに人類は生きることを放棄してしまった記憶…。
あの少女とともに旅をした記憶。
そしてその中には、あの少女と家庭を持った記憶もあった。
「…ははっ…。」
なぜだろう。
涙が止まらない。
俺のために死んでいった仲間。
救えなかった命。
そして…新しい命の誕生。
全て、俺の記憶…紛れもなく…俺が体験した記憶の数々だった。
「……。」
小さな女の子が、運転席らしき場所へ座っていた。
「…ようやく、来たのじゃな」
少女は、笑っていた。
今まで見たことのない…いや、過去の記憶で、俺がこの子と所帯を持った時の記憶にあった笑顔だ。
「……」
それは、屈託のない、紛れもない顔だ。
俺は……。
「やっと…ここまで来た…。」
「そうじゃな。…では聞かせてもらおうかの」
それは『この世界の仕組み』というやつだ。
かつて、俺はあと一歩のところで暴けなかった秘密だ。
それは…。
「お前が作り出した世界…なんだろう?」
女の子…いや、加神 優佳は、ほんの少しだけ笑ったように見えた。
この名前は、かつての記憶の中にあったものだった。
「正解じゃが…それだけではないだろう。なぜこの世界が作り出されたのか、分かっておるじゃろう?」
「それは、この世界の危機…、それに俺は呼応するかのように、この世界とは全く違う世界から呼ばれた…。お前…いや、優佳に。」
優佳は頷くことも、否定することもなく…どうしようかと迷ったように考えている。
しばらくの沈黙のあと、俺が口を開く。
「一つだけ聞きたいことがある。…この世界…は、何故滅んだんだ?それだけ教えてくれ。」
優佳はしばらく沈黙した後、ゆっくりと答える。
「…2038年に、世界中のコンピューターが制御不能に陥る、『2038年問題』というのが起きたのじゃ…」
「……。」
「それを回避するために、当時の世界政府は2000年の過去の世界に、タイムパトロールを送り込んだんじゃ…。そして『IBM5100』という機械を元の世界へ持ち帰り、無事回避には正解した…かに思われたんじゃ…」
「……。」
「しかし…彼の回避した世界は、元の世界ではなく、別の世界の方じゃった。…つまりは、本来はこの世界が救われるはずじゃったんだが、別の世界が救われてしまった。…それはわたしが関わっていた計画で、すべてわたしのミスじゃ…」
「そういう事…だったのか。」
だから、優佳は世界を救おうと、俺をこの世界へ呼び寄せた。
「お主は、かつてお主がいた世界で死んでいる。それが『具現化』という形でこの世界へわたしの願いに引き寄せられたんじゃ。」
「具現化?」
「『何かを思う、誰かの強い思い』を現実化することじゃ。…わたしにとっては、『世界の救済』が、強い思いだった。だからお主はこの世界に来たのじゃ…。全て…私が悪いんじゃ…。」
ーゴゴゴゴゴゴッ!!!!ー
地響きだ。
それは新幹線が脱線とかではなく、この世界の輪郭そのものが歪むような。
「な、なんだ!?」
「もう…終わりなんじゃ…」
優佳はそう言うと、顔を伏せる。
そして再び顔を上げると、大粒の涙をこぼしていた。
「お、お前…。」
「すまなかった…。わたしが呼び寄せてしまって…。こんなことに巻き込んでしまって」
「そ…そんなことより、早く脱出しないと!?」
すると、目の前の空間が破れ、光があふれ出てくる。
「お前はここを通って、元の世界へ戻るんじゃ…。ありがとう…こんなわたしと一緒にいてくれて」
「な…何を言って…お前も一緒に…!」
だめだ…世界が揺れる…!
もう世界は形をとどめていない。
全てが歪み、空間の裂け目から光があふれ俺の体を包み込む…!
「ゆ、優佳ぁあああああ…!!!」
目の前が全て真っ白になる。
俺が最後に聞いた彼女の最後の言葉は…。
「あり…がと……」
一粒の涙が零れ落ちた。
-------------------------------
「当フェリーは、後10分程で才羽島へ到着いたします。繰り返します、当フェリーは--------」
本土からフェリーに揺られて20分ほどで、俺の目的地の島が見えてくる。
「……。」
出航してすぐ、俺は甲板へ出て景色を見るでもなく、ぼーっと手すりにつかまり海を見ていた。
(…あれ、俺…何してたんだっけ?)
変なことを思い出した。
なんか、長い夢だったな。
「あれ…。」
何か、おれ泣いている。
なんでだ…?
-ピンポンパンポーン-
『間もなく、才羽島へ到着いたします。繰り返します、間もなく--------』
まあ、いいや。
もう降りる準備しないと…。
そう思い、リュックを背負いなおし甲板へ向かう。
(そういや…雨やんだな。)
さっきまで降り続いていた、止みそうもない雨も止んだ。
俺を歓迎してくれているのかな、と思った。
さあ、下船だ。
-------------------------------
「……ふむ」
ここは、少しだけずれた座標の世界。
そこでは、彼女が世界を見ている。
「…概念というのも、まったくもって暇じゃのぅ…。」
そして今日もまた、彼女は世界を見続ける。