表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

スーパーマーケット

 グッと痛いやつであるこれは。尾を引くやつの予感がする。

 オレはお腹が弱い。


 基本引きこもりであるのだが、お金がないと死んでしまうため、バイトをしている。バイト先から外へ出るとき、痛みがお腹を蹴った。

 その日はしれっと滞納していた(ごめんなさい)ガス代と水道代を納める必要があったので、すぐに家には帰れない。口座振替にする手続きが億劫なため、直接銀行に払いに行くというさらに億劫な行為に勤しむ毎月末。滞納しているのだから勤しんでないだろうと言われれば、勤しんでいない。

 家に帰れないことと腹痛は深く関わる。オレは家以外のトイレ、すなわちアウェートイレでの排便をひどく嫌っている。緊張するからだ。いろんな穴がキュッてなる。結果出ない。スポーツでも排便でも、アウェーの洗礼は厳しい。

 一人で銀行まで散歩するのも淋しい。アウェーでの戦いは避け、この痛みを連れたまま、コイツと一緒に歩もうと決めた。


 散歩は好きである。大体下を向きながら歩く。視界の上から下に流れるアスファルト。頭の中はくだらないことや情けないことで溢れ、意識がそっちへ集中する。部屋にいるときよりもさらに、一人の世界に入るのだ。ハッと意識が頭から解放されると、街の音が体を襲う。ブーンと車が通れば、背後からサーッと風が吹く。2,3人で話すおばさまが笑えば、犬が鳴く。気付けば腹痛はどこかに行ったようだ。


 納金を終え銀行を出てから、ふと目に入ったスーパーに入った。散歩では、知らない道や施設へ積極的に足を運ぶようにしている。人と関わりそうな可能性のある場所はちゃんと避ける。スーパーは安全。ホームだ。

 子供の頃からスーパーマーケットが大好きだった。友達と遊ぶなどしなかったので、週末はいつも父か母にスーパーへ連れて行ってもらった。はいった瞬間の野菜コーナーがカラフルなことに、心を癒やしていた。

 今回のスーパーも、なかなかの仕上がりである。この色とりどりさがよい。

 と思うと同時、また痛みがお腹を蹴り出した。すんごく痛い。ああっつ。なんとかパスタコーナーへ。乳製品コーナーが視界にあったときはなぜかそこにあるヨーグルトや牛乳を食べ飲んだ気になって、もうギュルンギュルンであった。レジの店員さんは予想以上の丁寧さ。その分バーコードをピッピピッピするスピードがスロー。それに反してお腹はハイテンポでギュルン。いてえ。


 スーパーから出ると、知らない道なため、帰路が曖昧である。お腹は明確に痛い。

 まあまあ太道を跨ぐ横断歩道。目の前で信号がここは渡れませんって顔を赤くした時は絶望であった。すごく痛い。なんとか気を紛らわせよう。スマホを手に取り、インスタのストーリーでも見てみる。

 

 何人かが楽しそうに旅行に行っているストーリーが流れる。楽しそうだ。楽しそう。

 視線を上げると、公園で子供たちが思い思いに遊んでいる。道ばたでは主婦の皆さんが談笑。スーツ姿の彼はかっこいい。教習所の車が、若い人を乗せて目の前を通り過ぎた。免許をとるため頑張っている。


 オレは一人、スーパーのレジ袋片手に腹痛と戦っている。これが孤独だと思う。これが情けなさだと思う。

 無事、帰った。ただいまと言っても淋しいだけなので、無言でホームトイレに入った。


 世界はスーパーのようにカラフルである。でもそれは、孤独とトイレに籠るオレではなく、オレの周りを行き交う人々のおかげである。自分はお客様のまま、カラフルな世界を見て、ただ品定めをしていた。


 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ