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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世界の平和を守るより地球を征服するより友達がほしい

作者:

第三回書き出し祭りに投稿した話です

 石の切り出し場のような草木がない山の中腹。そこに蟻のような姿をした怪人と、倒れている戦士がいた。


「害虫四天王最強のヒアリィ様にかかれば、こんなもんよ!」


「くっ、くそぉ」


 悔しそうな声と共に戦士が顔を上げる。蜘蛛の顔をモチーフにしたような仮面を頭に被り、全身はゴテゴテとした鎧を着ていた。


「とどめだ!」


 怪人が意気揚々と茶色の手を振り上げると、遮るように可愛らしい声が響いた。


『待ちなさい!』


 怪人と戦士が見上げると、崖の上に戦士と似たデザインの鎧を身につけた戦士がいた。ちなみにモチーフは蝶のようだ。


 トゥ! という掛け声が聞こえてきそうな勢いで崖の上にいた戦士が飛ぶ。そのまま倒れている戦士のところに着地するのかと思いきや、いきなり必殺技のポーズになった。


『蝶のように舞い、蜂のように刺すキィーック!』


「いや! ちょっ! 段取りってもんがっ!?」


 完全に油断していた怪人にクリーンヒットする。蝶の戦士が着地すると同時に背後で爆発が起きた。


「今回も助けられたな、ありがとう」


 蝶の戦士の前に蜘蛛の戦士が手を差し出して立っている。先ほどまで顔をあげるのもやっとの様子だったのに、なぜそんなに早く回復したのか。

 そんな蜘蛛の戦士の手を蝶の戦士が無視した。


『あとはゴッキー大王だけよ。今日みたいな無様な戦いはしないことね!』


 蝶の戦士が捨て台詞のように言うと、いつの間にか置いてあったバイクに当然のように乗って走り去った。


 その後ろ姿を見ながら蜘蛛の戦士が変身を解く。黒髪を茶髪に染めた爽やかな好青年だ。腰に付けている巨大なベルトから大きな蜘蛛が這いあがってくる。


『なんで毎回、やられたフリをするんだ?』


「ピンチにならないと、あの子は来ないだろ?」


『そんなに会いたいのか? 素顔も見たことないのに』


「あの声にあのスタイル。顔も好みに決まっている」


『けどゴッキー大王を倒したら会うことはなくなるぞ』


 青年が茶髪をかき上げて爽やかに笑った。


「あの子の行動パターンは把握した。ゴッキー大王を倒したら、蜘蛛の糸に絡めて僕だけの虫籠に……」


 不敵に笑う青年の肩の上で蜘蛛がため息を吐いた。





 人気がない廃屋のビルの裏でバイクを止めると蝶の戦士は変身を解いた。腰につけているベルトから蝶が飛び立つ。


『やっぱり、あいつやられたフリをしていたのね! ミコトに近づこうとする下心がみえみえなのよ!』


 蝶が怒りに任せて怒鳴るが声が可愛らしいので威力は半減だ。


『こうなったらゴッキー大王と同時にあいつも倒さないと! いいわね? ミコト!』


 突然、話をふられて無造作に伸びた黒髪が戸惑うように揺れる。


「え? ……でも」


『でもも、ヘチマもなし!』


 一方的に決められつつもモゴモゴと口を動かす。


「ともだち……なれないか」


『なれない! むしろ、アレは友達になったら駄目よ!』


 蝶がヒラリと眼前を舞う。


『いい? ミコトはずっとジャングルにいたから人間の友達が欲しい気持ちはよく分かるわ。だからこそ! 友達はゆっくりしっかり時間をかけて吟味しないと駄目よ! でないと大変なことになるんだから!』


「う、うん」


 コクリと頷くと、爆風とともに何かが飛んでいく光景が見えた。


※※


「きゃぁぁぁ!」


 どこか幼さが残る少女の叫び声が響く。レースとフリルで作られたミニスカートを翻しながら少女が宙を舞う。そのまま地面に叩きつけられる! というところで黒い影が少女を抱きとめた。


『大丈夫かい?』


「はい!」


 吹き飛ばされていたとは思えないほど威勢がいい返事。黒く大きな瞳を輝かせて抱きとめてくれた人を見つめる。

 長身で執事服を着こなし、顔全体を白い仮面で隠している。身のこなしは優雅で、いつもピンチの時に助けに来る謎の人。この人が現れるだけで少女のテンションはマックスになり、秘めていた力が引き出される。


『さあ、囚われた人を助けてくるんだ』


「はい!」


 少女がゾンビの前に立ち、七色に輝く木魚を振り上げる。


「南無阿弥陀仏に南無妙法蓮華経、南無三退散!」


 木魚から写経された文字があふれ出しゾンビを包む。


「おら、キリストきょ…… じょわわわぁーん」


 ゾンビが浄化され、とり憑かれていた人が倒れる。その様子を黙って見ていた執事服の人が立ち去ろうとしたところで少女が声をかけた。


「あの! ありがとうございました!」


『私はいつも頑張っている女の子の味方だよ』


「はい!」


『アデュー』


 執事服の人の姿が消える。少女は変身を解いて学校の制服姿に戻った。


「はぁ…… カッコいい……」


 うっとりとしている少女に空飛ぶカピパラのぬいぐるみが近づいてきた。


『吊り橋効果なだけじゃないパ?』


「うっさいわね! 艶やかな黒髪に仮面の下から微かに見える碧い瞳! 絶対、イケメンハーフよ! それより髪の毛は?」


『飛ばされて、やっと戻ってきたところパ! 取ってる時間ないパ!』


「役に立たないわね! 執事仮面様の髪の毛がないと占いに使えないじゃない!」


『毛根についてる遺伝子から相性を調べようとしている時点で占いじゃない気がするパ』


「何か言った?」


『なんでもないパ!』


 空に浮かんだカピパラのぬいぐるみは小さくため息を吐いた。





 薄暗い裏路地に入ったところで執事服が輝き、普通の服に戻る。そこに、はりねずみのぬいぐるみが懐から這い出てきた。


『お疲れ様、ミコト。やっぱり尼チュアンには君の助けが必要なようだ』


 その言葉に無造作に伸びた黒髪の下にある碧い瞳が輝く。


「なら、ともだち……」


『それはやめたほうがいい』


 速攻で却下され明らかに落ち込む。はりねずみのぬいぐるみは申し訳なさそうに言った。


『君が友達を欲していることは重々知っている。だが、尼チュアンはダメだ。アレは深く関わってはいけない人種だ』


「どうして?」


『……ミコトがもう少しいろんな人と関わるようになれば分かるよ。さあ、学校に行かないと遅刻するよ』


 はりねずみのぬいぐるみに促されて歩き出した。


※※


 大学に行くためいつもの道を歩いていると、人々の叫び声が響いた。


「オラ! オラ! しけた色してんなぁ!」


 複数の手下を連れた怪人が目からビームを発射して白いビルをパステルピンクやイエローに塗りつぶしていく。

 周囲にいる人が逃げていく中で、取り残されたように立っている人がいた。無造作に伸びた黒い髪の隙間から碧い瞳がボーと怪人の行動を眺めている。

 そこに二本足で歩く着物を着たキツネがやってきた。


「大変ですなぁ」


 着物を着て二本足で歩くキツネがいるほうが大変な気もするが、話しかけられた人は無反応だ。


「なんとかしたいと思いませんか?」


 キツネが腕輪を取り出す。


「これを装着すれば和色戦隊に変身してカラー怪人を倒すことができます」


『ちょっと待ちなさい!』


 可愛らしい声がキツネの上から降ってくる。


『ミコトはゴッキー大王との最終決戦があるんだから! こんなところで戦って怪我でもしたらどうするの!』


 空から降りて来た蝶に賛同して、鞄の中から出てきたハリネズミのぬいぐるみが叫ぶ。


『それを言ったらミコトはアマゾネス戦士、尼チュアンを影から助けるという使命もあるんだよ! これ以上、仕事を増やさないでくれ!』


 二匹? の言い分にキツネが肩をすくめる。


「こちらは仲間が十人いますからね。そんなに出番はありませんよ」


 仲間という言葉にミコトが反応する。


「なか…… ま? ともだち、できる?」


『ミコト! 騙されちゃダメよ! 友達が出来るって言われてガラケーとスマホを何台、買ったと思ってるの!?』


『私が言うのもなんだけど、ミコトはなんでも引き受けすぎだ! 新聞の契約だって何社としている!?』


 二匹の抗議を無視してキツネが素早くミコトに腕輪を装着した。


「腕輪にむかって変身と言えば変身します」


 キツネの変身という言葉に反応して腕輪が光る。


『これ不良品じゃない! 本人以外が変身って言って変身したら……』


 蝶の声が途切れる。目の前には茶色の仮面を頭から被り、茶色の全身タイツの上に作務衣を着たミコトが立っていた。


『なんで茶色なのよ! ミコトなら黒か紫でしょ! それに何よ、その服! せっかくのミコトの肉体美が隠れて見れないじゃない!』


『何故、作務衣を着ているんだ?』


 二匹の疑問にキツネが答える。


「茶色ではない。鳶色だよ。全身タイツは体型がモロバレするから嫌だ、というクレームがきてね。上から作務衣を着て体型を隠すことにしたんだ。とりあえず、行っておいで。仲間の誰かが来ていると思うから」


「なかま…… ともだち!」


 変身したままミコトは走って怪人の前に出て行った。


 怪人たちと対立するように青年が一人立っていたが、ミコトの姿を見て笑いかけてきた。


「お、新入りさん? ちょうど良かった」


 玩具のミニカーをバラバラと渡されてミコトが反射的に受け取る。


「赤の二人は社畜と苦学生、緑はバイト、黄はひきこもり、紫は産休、黒と白は夜の仕事で今は寝てる、金と銀は行方不明。で、青のオレはこれからデートで、みんな来れないんだ! あとよろしく!」


 手を挙げて立ち去ろうした青年は思い出したように振り返った。


「怪人を倒すと巨大化するから。そうなったら、適当にそのミニカーを投げて。そうしたらミニカーが大きくなって勝手に合体して巨大ロボになるよ。あ、そうそう。ミニカーが大きくなった時に上手く赤いのに乗り込んで。でないと、巨大化したあとでロボに乗り込むのは結構大変だから」


 じゃあな! と青年は手を振って走り去っていった。


「話は済んだか?」


 律儀に待っていてくれた怪人&手下たち。この間に人々は避難したらしく人の姿はない。


「さあ! 一人でこの数を相手にどこまでやれるかな!?」


 手下に周囲を囲まれて逃げる隙間もない。ミコトは腕の中を見たあと、適当にミニカーを撒いた。すると青年が言った通りミニカーが巨大化して手下を踏み潰していく。その中の一台が怪人の真上で巨大化した。


「な!? やめっ!?」


 怪人の悲鳴の後、プチッと音がしたがミコトは気にすることなく怪人を潰した赤い車に乗り込んだ。そこで巨大化したミニカーは合体して巨大ロボへと変形した。


『なんて卑きょ……』


 怪人が巨大化しながら叫ぶが、巨大化しきる前に巨大ロボが持っている剣が突き刺さる。


『そん……』


 ほとんど台詞を言うことなく怪人は爆発して終わった。

 その光景を見ていたキツネが満足そうに頷く。


「私の目に狂いはありませんでしたね」


 そう言ってキツネは姿を消した。


 ミコトが巨大ロボから降りると、茶色の全身タイツの変身が解けて、巨大ロボがミニカーへと戻った。


『ミコト! 大丈夫?』


『怪我はないかい?』


 蝶とハリネズミのぬいぐるみが飛んでくる。そこに二つの影が近づいてきた。その姿に蝶とハリネズミのぬいぐるみが叫ぶ。


『ゴッキー大王!』


『ゾンビっち団長!』


 敵の親玉が現れたことで蝶とハリネズミのぬいぐるみが緊張する。

 緊迫した雰囲気から少し離れた所で、カラー怪人の親玉が木の影から覗いていた。まるで告白する友人をそっと見守るモブのようである。


 人型のゴキブリとゾンビはミコトの前に並ぶと、同時に手を出して頭を下げた。


『お友達になって下さい!』


 順序を無視した攻撃をしてくる上、仲間の力を引き出す厄介な存在なのに、これ以上力をつけられたら、どうやっても勝てない。それなら、いっそのこと仲間に引き入れたほうがいい。


 そう同時に判断した二つの組織のボスが、たまたま同時に同じ行動をした結果だった。


 周囲が固唾を飲んで見守る中、ミコトが悲しそうに呟く。


「……ともだちは人間がいい」


 見事に玉砕したボスたちは無言のまま背を向けると、そのまま夕日に向かって走っていった。





 こうして紆余曲折があったがミコトたちは順当に組織を壊滅させていき、今はもとヒーローたちがミコトを巡って争っているとかいないとか。

 その余波でミコトに友達はいないままだとか、なんとかだそうだ。

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