36話 緊急依頼!消えた貴族を追え
side 宮廷魔導師長、ザクリス・ソート
街道に生い茂る木々が一瞬で通り過ぎ、物凄い速さで魔車が走り抜ける
早くあのクソハロルド達に追いつかなくては
私は御者台に座りながら、吹き飛ばされないようにしがみつく
「ゴードン殿!すまぬがもう少しスピードを上げてくれ!頼む!!!」
我々が乗っている魔車を引いているのは魔物では無くゴードン殿だ
「…………わかった」
ゴードン殿がスピードを上げる、私は魔車の後ろの方に向かって大声を出す
「シルフィン殿!頼む!もう少し「今やってるってば!!!」…頼むぞ!」
魔車の1番後ろではシルフィン殿が頑張っている
早く!なんとしてでも追いつかなくては!!!
〜〜〜
〜〜
〜
「どう言う事だ!!!」
私は寝起き早々、シュナ殿から貴族達が居なくなったという報告を受けて飛び起きる
慌ててテントを出ると、消えた焚き火の周りにジョー殿以外の3人がいた
シュナ殿は私の後をついてくる
即刻私は、冒険者共に詰め寄る
「貴様らは一体何をしてたんだ!彼らに何かがあったら、どうするつもりだ!」
「お、落ち着いてください」
これが落ち着いていられるか!
「すぐに魔車を!」
いやしかし!貴族達が何処に言ったのかわからん!
「落ち着いてください!ちゃんと説明しますから」
説明!?そんな事を聞いている暇は無い!一刻も早く彼奴らを探さなくては!
パニックなっている私を宥めながら冒険者共は説明を始める
ーー
「ふむ…」
私は再び付けられた焚き火の前に座り、冒険者共がした説明を纏めると
昨夜、私やシュナ殿が寝静まった深夜
ジル殿、ゴードン殿、ジョー殿の3人が夜番をしていた
するとそこにハロルド達貴族の3人が現れ、夜番を変わるとの事
驚きや疑問、信用でき無い相手に頼めるかとジル殿達は断ったが貴族命令と言われ泣く泣く命令を聞いた
信用でき無いのならばジョー殿だけは置いて行っていいと言われ、ジョー殿を残しジル殿はシュナ殿達のテントに、ゴードン殿は私のいるテントに戻った
「何故ジル殿は、シュナ殿達のテントに入ったのだ?」
「私達はてっきり魔剣を狙っているのかと思いまして、2人が寝込みを襲われない様に守っていました」
「なるほど」
ジル殿は魔剣とシュナ殿達を、ゴードン殿は自分の魔剣と私を守りながら貴族達を警戒
程なくして焚き火の火が消えた為、襲撃されると思い、シュナ殿達も起こして一晩中警戒をしていた
しかし夜明け近くなるまで待っても襲ってこないので変だと思い、出てみると
貴族の魔動車とジョー殿がいなくなっていた、と
「…いや、何処に行っちゃったんだろうね?貴族様達は」
沈黙に耐えられなくなったのかシュナ殿がそんな事を言う
しかし、答えはわかっている
「…お主ら今すぐにイーリスの町に向かうぞ」
私がそう言って立ち上がると冒険者達は驚いた顔になった
「どうした?」
「いえ、どうしたと言いますか何故イーリスの町に向かうのですか?」
「決まっているでは無いか。貴族達はイーリスの町に向かったからだ」
「…え?どう言う事なの?」「僕にもわかりません」「それ意味なく無い?」
冒険者共は集まって意味がわからないと言っている。そうだな、確かに意味がわからない
「あの?我々全員はイーリスの町に向かっているのですよね?何故貴族様達は、そんな事をするのですか?」
ジル殿が言いたい事は最もだろう。結局、我々は全員がイーリスの町に向かうのだ
道も同じで向かう場所も一緒
先に行く必要は確かに無い
しかし…残念な事に貴族とはそう言う生き物だ
「…貴族達は我々を出し抜くつもりなのだ」
「…出し抜く?」
本当に意味がわからないという顔をされる
「…我々の手を借りずとも自分達だけで今回の依頼を完遂させるつもりなのだろうな」
「…何の意味があるの?それ」
顰めっ面をしたシルフィン殿が不機嫌そうに言う
「だって貴族様がいる以上、私達がどんなに頑張ったって功績とか実績は貴族様が持っていくじゃない」
それもそうだな
今回の依頼は王命でハロルド達、「上流階級」の貴族が主体となって動いている
言ってしまえばシュナ殿達はついでで呼ばれたのだ
「ハロルド達はどんなに実力のある冒険者であろうとも、平民と言うだけで下に見ている。平民に頼る事や功績を挙げさせる事自体が気に食わないのだろう」
「はぁ!?…何それ」
シルフィン殿は1度、目をかっ開き怒るが、すぐに疲れたと言った顔になる
そうだとも、これは貴族達の気分の問題なんだ
彼らは何も悪くない
「え?でも、それで言ったらジョーは?何でいないの?」
「ジョー殿は御者役で雇われたのだろう。あの魔動車は御者台に誰かが座り、魔力を流さなくては動かないからな」
ハロルド達が御者役などする訳がない
例え部下を連れていたとしても、部下にもやらせはしない
そう言った事は、平民の仕事だと心から思っているからな
それにジョー殿は貴族になりたいと言っていた
ハロルド達め、何処かで聞いていたな
ここで我々に手を貸せば貴族にしてやるとでも言って唆したのだろう
「何で魔導師様は置いていかれたの?」
シュナ殿が聞いてくる、この女は私に喧嘩を売っいるのか?
「…私はハロルド達に嫌われている、ただそれだけだ」
ハロルド達はそう言う連中だ、それ以上でもそれ以下でもない
「…何それ」
シルフィン殿が溢す、本当に何それだな
「すぐに魔車の用意を、後を追いかけるぞ」
すぐに追いつかなくては
「いやでもさ、貴族様って言っても「上流階級」の上級冒険者でしょ?いくら何でも心配し過ぎじゃない?」
シュナ殿が言う事も最もである
上級冒険者とは様々な経験、実績を経てやっとの思いなるのだ
シュナ殿達もそう言った経験をし、上級冒険者として働いている
たかだか先にイーリスの町に向かっただけで、何故こうも焦るのか疑問なのだろう
相手が「上流階級」の冒険者でなければ私だってそう思う
「…貴族を甘く見るな、「上流階級」の冒険者が戦える訳ないだろう」
「…へ?だって上級冒険者なんでしょ?」
「「上流階級」のギルドでは3度依頼を成功させれば上級冒険者になれる」
「は?」
これは、ギルド差という奴だ
一般的なギルドでは、依頼の遂行が中心である為、実力に合わせた階級が選択される
実力以上の階級にしてしまうと失敗をしたり、すぐに死んでしまうからな
しかし「上流階級」は違う
「しかも、依頼の内容も[公爵家より次男が隣町に行く為の護衛、受注者、その公爵家の次男]と言ったものばかりだ!」
「上流階級」に来る依頼の殆どは貴族からの依頼だ
他にもお茶会の参加者を募集したり、骨董品や魔道具選びの手伝い
庭に植える植物の相談なんて依頼もある
「そんなのヤラセじゃない!」
シルフィン殿が叫ぶ
「そうだとも!「上流階級」とはそう言った連中しかいない!だからすぐ様、追いかけなくてはならんのだ!」
だから私は慌てているのだ!
「で、でも!昨夜会った時は魔剣らしきものを持っていましたよ」
ジル殿が言う
「持っているだけだ、振った事など無い。それどころか魔剣の反動で死にかね無いのだ」
「上流階級」の冒険者は見栄だけは張るからな
実力に合わない物を金に物を言わせて持っているだけだ
「すぐに魔車を」
そう言って魔車に向かうと繋がれていた魔物がいなくなっていた
「…………どういう事だ?」
振り返ると冒険者共は一切にそっぽを向く
「それが…魔物も居なくなってたんだよね〜」
シュナ殿がそっぽを向きながら言う
魔車から垂れ下がっている紐を見ると、真新しい綺麗な刃物傷で紐が裁断されていた
なるほどな
「…それも貴族様が?」
「それしか考えられんな」
ハロルド達め、どうしても我々に追わせない気か
さて、どうしたものか
すると
「…………俺が引く」
ゴードン殿が一歩前に出てそう言った
「ゴードン殿?」
「…………俺ならば、出来る。魔剣の力を使えば出来る」
「確かに、ゴードンなら出来るね」
「シュナ殿」
シュナ殿も賛同してくれる
「それに貴族様達に何かあったらどうせ死罪だろ?なら頑張らなくちゃ!」
「確かに、それは嫌です」
ジル殿も賛同してくれる
「…あーマジだるい!」
シルフィン殿も一歩前に出て
「貴族達を見つけたら1発ぶん殴ってやるんだから!」
全員が賛同してくれた
「…すまない」
そう言って私は頭を下げる
〜〜〜
〜〜
〜
ゴードン殿は更にスピードを上げ、魔車の軋む音が鳴り響く
魔車の事まで考えてなかったが果たしてもつだろうか
「ねー!魔導師様ー!」
「なんだ!シュナ殿!」
後ろで魔車にしがみ付いていたシュナ殿が声をかけてくる
「貴族様達は戦えないんだよね!なんで連れてきたの?!」
「それは簡単な事だ!今回の件は魔物の可能性が高いが!他国の侵略である可能性も捨てきれない!他国の侵略だった場合は地位のある者が!貴族達が表に立つ必要があるのだ!」
例え他国の侵略であろうとも、ある程度のマナーやルールを守る必要がある
これを疎かにしてしまうと勝っても負けても他国の連中に付け入る隙を与えてしまう
今回の場合は、地位のある貴族を表に立たせる事で、侵略に対して武力行使を行なっても、正当な権利であると示す事が出来るのだ
その為に貴族を連れてきた
「その為に連れてきたの?!」
「そうだ!だが!魔物の可能性の方がずっと高い!そして貴族は戦えない!」
「だから私達を連れきたって事?!」
「そうだ!魔物だった場合は貴族達を下がらせて!上級冒険者であるお主達に討伐を頼む手筈であった!」
「それってさ!狡くない!?」
狡い、か
貴族が主体の依頼にもかかわらず、貴族が必要になる可能性は少ない
それなのにシュナ殿達が魔物を討伐しても、手柄は貴族が持っていく
「はっはっは!確かに狡いな!しかし!貴族なんてそんな物だ!その代わり!依頼料は期待していろ!予定の10倍はくれてやる!」
「本当!?」
と言っても、貴族達が無事だったらの話だがな
貴族達に何かあったら私を含め全員が死罪だ
何としてでも追いつかなくては!
シュナ殿とそんな会話をしているとゴードン殿がスピードを緩める
「ゴードン殿!どうした!」
ゴードン殿がスピードを緩めた為、後方のシルフィン殿も力を弱める
魔車は徐々に止まっていった
「どうしたのだ?ゴードン殿」
私がゴードン殿に聞くと手を耳に当て、澄まし始める
「…………何か来る…上だ!!!」
ドォォォン!!!!!
「な?!」
魔車の上に何かが落ちて来て、魔車を踏み潰す
シュナ殿が私を抱えて避けてくれた
シュナ殿は地面に着地すると、すぐに私を離し戦闘態勢に入る
周りを見ると、他の冒険者も無事のようだ
「シュナ殿、助かった」
「…………お礼はいいよ…でもあれは」
【グガアアアァァァァァ!!!!!】
魔車の上に落ちて来たのは、灰色の巨大な化け物であった
一方その頃
ミレイ「マスター!一体何をしたんですか!!!」
マスター「いや、ちょっとした実験と言うか何と言うか…」
ミレイ「実験って何をしたら、巨大な蔦と木の根が襲いかかって来るのですか!!!」
マスター「いや、失敗失敗」
ミレイ「失敗って!」
マスター「そんな怒ってないで逃げよう!あ、あの根っこのせいで転移使えないからよろしく!兎に角、走れ!!!」
ミレイ「あ、ちょっと、こら!待ちなさい!」
辺り一面巨大な木の根によって覆われていった




