34話 キングコア
またしばらく主人公とは別の視点になります
side 宮廷魔導師長、ザクリス・ソート
うーむ、困った
実に困った
「ソート様こちらにございます」
私の前方を歩き、案内をしているメイドが声をかけてくる
「ああ」
私は簡素に答える
…本当にどうすればいいのだろうか
私の名前はザクリス・ソート
アランベルト王国で宮廷魔導師長をしている
宮廷魔導師とは、優秀な魔法使いが国に選ばれ、王城で魔法について研究する権利を獲得した者の事を指す
しかも私はその宮廷魔導師の長、つまり宮廷魔道師の中で1番偉いのだ
このアランベルト王国で1番魔法が優れていると言う事にもなる
くっくっくっ
全く…私はなんて素晴らしいのだ
本来、私はこの様な矮小な国にいる存在では無い
しかし、私が他国に行こうとすると皆が止めるので仕方なくこの国にいるのだ
実に遺憾である
くっくっくっ
…と、そんな事はどうでも良い
私は今、大変に困っている
なんと…王に王命で呼び出されてしまったのだ
…言っておくが、王に呼び出された事は過去に何度かある
しかし、今回のはわざわざ王命を使ってまで呼び出されているのだ
そんな事は初めてだ
王命とは基本的に2種類の事でしか使われない
1つが賛辞
歴史的快挙を成し遂げたものや、なんらかの功績を挙げた者を呼び出すのに使われる
最初、呼び出された時は賛辞だと思った
しかし改めて考えてみた所、私は最近まともに功績を挙げていない
と言うか、まともに研究をしていない
それならばと、2つ目の可能性が高くなってしまう
2つ目とは、断罪である
犯罪を起こした貴族や地位のある者を王命で呼び出し、多くの貴族が見ている中で裁くのだ
残念な事にこちらの方は心当たりが多くある…
…………果たして何がバレたのだろうか
あれか?魔術研究費を横領したことか?
しかしあの程度の額、大臣クラスの者や上の貴族なら誰もがしている。どちらかと言えば少ないくらいの金額だ
…うむ?そう考えるとこの事では無いか
それならばあれか?他家のメイドや貴族令嬢、貴族夫人のいく人かに手を出した事か?
しかしあれは、向こうが誘って来たのだ
私は悪くない
確かに多少の薬は盛ったが、薬は攫ってきた平民の小娘を使って実験を繰り返し、しっかりと副作用などが出なくなっているかを調べた上で使っている
それどころか私は、彼女達のストレス発散を手伝ってやったのだ
感謝してもらいたいくらいだ
…ふむ?そうなるとこれも違う
それとも…他人が立てた功績を奪って口封じをし、賛辞の際に王が来ないのがわかったので、仮病を使って行かなかった事か?
しかしこれは、王が来ないのが悪い
…………ふむ?…私、悪い事はしてなく無いか?まさか賛辞?しかし、功績はたてていない…ふむ?
私が困っていると
「ザクリス・ソート様、着きました」
メイドが声をかけてくる
顔を上げると来賓など迎える個室の前に案内されていた
「…………ん?玉座の間では無いのか?」
私がメイドに聞くと
「いえ、ここに案内するように言われています」
そう答えてくる
どういう事だ?玉座の間ではない?
断罪も賛辞も玉座の間で行われるのが通例なのだが…
コンコンッ
「ザクリス・ソート様をお連れしました」
メイドが扉をノックをしてしまう
「入れ」
小さな返事が聞こえてきた、あの声の主は確か王の親衛隊の1人の声だな
「ソート様、どうぞ」
メイドが扉を開け、入る事を促してくる
「…………うむ」
一体どうすればいいのだ
「……失礼する」
私が部屋に入ると部屋の中心にある椅子には国王が座っておりその隣には宰相殿
そしてその2人を守るように数名の王の親衛隊員
そしてその2人の前で見知らぬ男が床に頭をつけていた
誰だこの男?
いや!そんな事はどうでもいい!!!
私もすぐに膝をつき、頭を下げる
なんなんだこの状況は!?私は一体何に呼び出されたのだ!!!
「…………面を上げよ」
「ハッ!」
王に言われるがまま、頭上げる
あまりの恐怖で体が震えてしまう
ええい!私の体よ静まらんか!!
「…そんなに震えんでもよい。此度の件、お主には頼みがり呼んだのだ」
王の重くのしかかるの様な声が響いてくる
…………私に頼みだと?
つまりは断罪でもなければ賛辞でもないと言うことか?
王のそのお言葉を聞いた途端、震えは収まった
しかし、同時に嫌な予感が全身を走り抜ける
王直々の頼みだと?!厄介ごとの可能性しかないではないか!!!
「事のあらましはこうです」
王の隣に居る宰相殿が内容を話し始めてしまう
くっ…この話を聞いてしまったら受けるしかなくなってしまう!
…しかし、断る事も出来ない
頼みを聞くしかないのか…
ーー
どうして私がこんな事を
私は御者台に座り、魔動車に魔力を流し、操りながら考える
「…………はぁ」
深いため息が溢れる
ため息をついていると、御者台の背後にある小窓が開かれた
「おい、まだ着かんのか?」
小窓からは偉そうな声がしてくる
…乗ってるだけのくせに偉そうに
「もうしばらくしたら着きますよ。ハロルド様」
私が声の主に、にこやかな笑顔で答えると
「…チッ」
舌打ちと共に小窓が勢いよく閉められた
…本当にどうしてこうなったのだ!!!
〜〜〜
「…………町が消えたかもしれない?ですか?」
「そうだ」
王が答えてくれる
私は今、王命で呼び出された事について説明を受けている
宰相殿が話した内容はこうだ
昨日の明朝、王の管理するキングコアにより、イーリスの町のシティーコアとの通信が途絶えたとの事
キングコアとは王が管理しているコアであり、国をそしてシティーコアを管理している
そんなキングコアから1つのシティーコアの反応が消えてしまった
「通信が途切れたのですか?」
私は王に質問をする
「そうだ、何度繋げ直そうとしても反応がない」
反応がない、か
「それでは何故、消えたという事になるのですか?」
シティーコアの通信が途切れ、反応がない
確かにとんでもない事だが、ない話ではない
過去にもシティーコアを使って建国を企てたものやシティーコアを他国に乗っ取られたもの、破壊された事だってある
それなのに何故消えたなのだ?
「我々も当初、反逆者でも出たのかと思ったのですが。その者が違うと仰るので」
そう言って宰相殿は頭を下げている男を見る
「伯爵殿、もう1度ご説明を」
宰相殿がそう言うと男は頭を下げたまま、説明を始めた
「は、はい!私の名はハルバート伯爵家が当主、ハルバート・ランスロットにございます!」
ああ、この男は一体なんなのかと思ったが消えた町を管理していた者か
「正直に答えなさい。貴方は王をそして王国を裏切りましたか?」
宰相殿が聞く
「とんでもありません!我が伯爵家は名ばかり、領も広くなければ人も多くありません。それなのに建国など企てるはずがありません!!私は出世を考えてはいますが、それは王の下での話!私自身が王になろうと考えたことなど1度もありません!!!」
「しかし、それは貴方の話。もしもの場合を考えてシティーコアの管理権は2人までと定められているはずです。その方が謀反を企てた可能性は?」
「それもありません!現にもう1人の管理権を持つ息子と私の家族は皆、この王都におります!確かに娘が1人町にいると思いますが娘と言っても4女、大した価値のない小娘です。管理権を持つはずがありません」
ふむ…4女の娘はどうでもいいとして
「ハルバート伯爵殿の言うことは真実ですか?」
私は宰相殿に聞く
「確かにイーリスの町にあるシティーコアの管理権はランスロット殿とその長子の2人。長子の方は王都にある貴族学校に通っているようで、王都から出た形跡はここしばらくありません。また、ハルバート伯爵殿もしばらく前から王都にいるようですので、シティーコアを使っての謀反は少し考え難いですね」
なるほど
「では、誰かに命令をしてやらせた可能性は?代官や他国の者などに」
私がそう言うと
「そ、それはありません!代官には契約魔法で縛っていますし、反逆を企てないと言う契約魔法を別にかけています。裏切るはずがございません」
ハルバート伯爵殿が声を荒げる
ふむ、その契約魔法で縛っているならば裏切らないか?
なら他国の者に奪われたか、他国の軍勢に攻め落とされたのか?
「その契約魔法をかけたというのは証拠がないため、代官の件はなんとも言えません。しかし、他国の者による犯行とは少し考えにくいですね」
「どう言うことですか?宰相殿」
「場所が悪いのです」
「場所?」
「イーリスの町は近くに小さな町や村しかなく、領も小さいので奪ったところで利用価値があまりありません。また、王都からも微妙に距離があります。そして、国の内陸部にあるため、奪われたとは少々考えにくいですね」
なるほど
確かにイーリスの町は王都から微妙に離れており、近くにシティーコアのある大きな町はない
そんな場所を奪った所で軍事的価値も利用価値も無いに等しい
それに例えイーリスの町のシティーコアを奪い取ったとしてもイーリスの町は内陸部にある。その為に敵が仲間や軍を呼ぶのにも時間がかかってしまうだろう
それならば、増援が来る前にいくらでもやり様はあるし、王都に知らせる方法もいくらでもある
しかし、知らせがきていない事を考えると他国の線は薄いか
「一応、様々な状況を考えて調べてはいるのですがあまり進んでいません。なんとか集めた情報でも「小型の魔物の飛ぶ音がする」と言った情報ばかりで役にはたちません」
「…確かにそれではなんとも言えませんな」
いくらなんでも情報が…例え町の中に小型の魔物が入ったとしてもそんな魔物に何ができると言うのだ
「そうなるとだな、3番目の可能性が極めて高いのだ」
王が口を挟んでくる
「3番目ですか?」
「そうだ」
なんだ?1つ目が謀反、2つ目が他国の侵攻、3つ目が…
ああ、なるほど
「…………魔物ですか」
「そうなる」
「…しかしそうなりますと、恐ろしく強い魔物という事になるのでは?」
イーリスの町にはシティーコアがあり、シティーコアは町を守っている
そんなシティーコアが破壊され、通信が途絶えたとしたらとんでもない事だ
シティーコアが魔物によって破壊されるという話は聞いた事はあるが、どれもこれも御伽噺のような話
つまりその様なレベル、特級レベルの魔物が現れたという可能性が極めて高い
もしそんなのが現れたのであったならこの国は終わりだ
はっ!まさか!?
「そこでお主に頼みがある」
やめろ!やめてくれ!それ以上言うな!!!
「偵察をしてきてほしいのだ」
…………やはりか
しかも偵察か…なるほど、私が呼ばれる訳だ
「仮に特級クラスの魔物が現れたのだとしても、すぐに軍を動かす事は出来ないのだ」
それはそうだ
軍とは金食い虫である
ただ単に移動するだけでも莫大な金がかかるのだ
軍を動かしたにもかかわらず、何もいなかったのでは話にならん
それだと、ただ単に金を使ったにだけになってしまう
「…それで私なのですか」
たしかに私なら適任だ、適任すぎて吐き気がするくらいにな!
「そうだ!なに、報酬は弾む。それに準備も色々としておる。お主はちょちょっと町の様子を見て帰ってくればいいだけの話だ」
簡単に言いやがって!!!
「では、細かな点についてはこちらに」
宰相殿が書類を渡してくる
…私に拒否権はないのだ
〜〜〜
〜〜
〜
「…………はぁ」
再びため息が溢れてしまう
ため息をついていると、軽い目眩がしてきた
…そろそろ魔力の限界か、今日はここまでだな。これ以上魔力を使うと動けなくなってしまう
それにもう1台の魔車と、距離がだいぶ開いてしまった
これ以上は離れられん
私は魔動車に魔力を送っている器具を取り外し、ゆっくりと停止させる
魔動車が停止すると背後にある小窓が再び開かれた
「着いたのか?」
こいつは馬鹿なのか?そんなにすぐ着くわけないだろう
イーリスの町までは最低でも3日はかかるのだぞ
「いえいえ、本日はここまでです」
「なに?」
なに?ではない!!
こいつ、依頼内容を読んでないのか!?
「そろそろ日が落ちます。野営の準備をしませんと」
本当にそろそろ準備をしなければ暗くなってしまう
そうなると魔物や犯罪者の格好の獲物だ、こいつらは癪に触るが生きた状態で連れて帰らなければならない
貴族のボンボンはこれだから嫌なんだ!「上流階級」だからと偉そうに
「…………フン、流石は下賎の出。そう言うどうでもいい事は知っているのだな」
…こいつ…言ってはならん事を
殺してやろうか?
…………いやいや、落ち着け
冷静に冷静に
「いえいえ、一般常識ですよ。それにこういった事は上級冒険者であるハロルド様達の方が詳しいのでは?」
私がハロルドに嫌味を込めてそう言うと
「…………我々3人は貴族ギルド「上流階級」の上級冒険者だぞ?しかもただの上級冒険者ではない。上級の上だ!そんなどうでもいい事、部下にやらせている」
「そうですか」
つまり自分達では何も出来ないって事だな
「…チッ、まぁいい。後は任せる、移動する時になったら教えろ」
「おや?任せるとおっしゃっても野営や夕食はいかがするのですか?」
「なぜ我々3人が下賎の者と一緒にいなくてはならんのだ?「上流階級」の上級冒険者だぞ?それにこの魔動車は特別製だ、見た目よりもかなり広い作りになっている。この魔動車の中の設備で事足りる」
「設備で事足りるとは素晴らしい!流石は特別製ですな!…調理もご自分で?」
「そんなのは、メイ…貴様には関係ないだろ!これだから下賎の者は嫌なんだ!醜く卑しくて仕方ない!!」
バタン!!!
ハロルドはそう言い残し、小窓を勢いよく閉める
今のでわかったが、この魔動車には「上流階級」の上級冒険者3名以外にも乗っているな
王からの依頼内容には許可のある者しか行ってはいけないと書いてあったのだが
「…………はぁ」
深い深いため息が溢れてしまう
すると
「ちょっとジョー!早く魔車を止めなさいよ!貴族の魔車にぶつけたら洒落にならないわよ!」
「今、やってるんですって!焦らさないでくださいよ!シュナさん!」
「まあまあ、姉さん落ち着いて」
「落ち着いていられるわけないじゃない!ジル!貴族に何かあったら死罪よ死罪!!!ちょっと!ゴードンからも何か言ってよ!」
「…………シルが限界だ」
「え?シルが?」
「…ごめん、マジもう無理…出る」
「ちょっと!?この魔車は借り物よ!吐くなら外に行って!」
もう1台の魔車がギャーギャー騒ぎながら近づいてきた
これが今回の頼みの綱である上級冒険者達か…
私は再び深いため息をついた
注釈
王様に呼び出される事は無い訳ではありません。
しかし大半が使者や言伝、迎えがくるといった方法だった為に、ザクリス・ソートはその経験しかありません
そんな彼に突然、王命で今すぐ来るようにと来ました。現代で言う所の出頭命令のようなものだと思ってください
今までの呼び出しも王命でしたが、今回は正式な手段と作法に基づいて呼び出された為にザクリスは焦ったのです。
注釈2
魔動車には2種類あります。
1つ目は魔動車といい、魔物ではなく御者の魔力で動きます。主に貴族や王族などの上流階級が使用しており様々な改良が施されています。
2つ目は魔車といい、馬車のように魔物が引いています。主に一般市民や兵士などが使用しています。




