29話 絶望の始まり5
side白騎士長、ゼパイル
私は今、瓦礫の上に座っている
私はあの後、エリア殿の魔法により遠く離れた瓦礫の山に落ち、近くにはゴーレムも「アンデット」もいなかった為に奇跡的に生き抜く事が出来た
しかし、しかしだ
…もう…何もしたくない
…今日だけで何人の大切な人が死んだ?
リーゼルトに始まり、大勢の部下。町の人を見捨てゴーレムにより自らの手で命を奪った…
リーゼやエリア殿も自分の為に死なせてしまった…
…私は何の為に生きているのだろうか?何故死ぬのが私では無かったのだろうか
…もう動く気にもなれない
それにグールの毒によって、片手はもう動かなくなってしまった
これではもう剣は扱えない
次第に毒は全身に回るだろう
解毒のポーションがあれば何とかなるが今は持っていない
遅かれ早かれ私は死ぬのだ。もう待てばいい
あちこちから救いを求める声や悲鳴、死にたくないと懇願する声が聞こえて来るが私は動けない
すまない、私を許してほしい
そう遠くないうちにそなたらと同じ場所にいく
どうか許してくれ
私は空を見上げる
巨大な穴の縁と巨大ゴーレムが視界に入るがもう…気にもならない
どうせ死ぬのだ
ああ、今日はなんていい天気なんだ
メイドの入れてくれた紅茶を思い喉を潤したくなる
リーゼルトがそろそろ来る時間だな…ははっ
自分でも何を言っているのかが分からなくなる
リーゼルトは死んだではないか
目からボロボロと何が溢れてくる
前がよく見えんな
それを拭う気にもなれず、ただ座っている
自分の命が尽きるまで
すると
「どいてくれー!!!」
どこからともなく声が聞こえてきた
私は声の聞こえてきた方を見る
その声の主は雷の魔法を纏った剣を持った男で真っ直ぐこちらに向かってくる
私に向けて剣を振り下ろすつもりなのだろう
そうか…私は町の住人に殺されるのか…私にはピッタリな死に方だな
私がそう思っていると
「草捕縛魔法!縛り木!!!」
剣を持った男に向かって草の捕縛魔法が発動する
捕縛魔法とは7大魔法はもちろん様々な魔法を応用した捕縛に特化した魔法だ
殺傷能力がない代わりに相手を抑えつけたり閉じ込めたりできる
私は使えないがリーゼルトが得意だったな…
そんなことを考えながらただ座って見ていると、剣を持った男は身体を無理矢理動かして捕縛魔法を避ける
あれじゃ痛いだろう…なんて無茶な避け方だ。首を痛めるぞ
などと、どうでもいい事を考えてしまうが全くと言って動く気にはなれない
「…避けられたか…お主、大丈夫か?…何故逃げない」
大きな魔法の杖を持った年寄りが近づいてきた
彼が今の捕縛魔法を発動したのか
「…避ける必要がないからだ」
「避ける必要がないじゃと?あのままでは死んで…お主!白騎士ではないか!」
お年寄りは私に気づいたようで、大変に驚いている
それはそうだろう。本来の私なら町のために走り回っているはずだ、こんなところで座ってなどいない
「そうだな…あなたは?」
私は悪びれた様子もなく、年寄りに聞く
「…わしは「牙狼の牙」の冒険者、ゼンじゃ」
牙狼の牙か…リーゼのところのギルドだな
「そうか…あんたのところのギルドには世話になった…リーゼと言う男には助けられた」
私がそういうと
「リーゼじゃと!リーゼはどうなった!!!」
年寄り…ゼン殿は私の胸倉を掴みかかってくる
「…………私の為に…死んだだろうな」
私はそう答える出来なかった
「…………そうか…リーゼも死んだのか」
ゼン殿の腕から力が抜けていく
「すまない」
私には謝ることしかできない
「…1つだけ聞かせてほしい…あの子達は立派に戦ったのか?」
「…ああ…とても立派だった…私などとは比べものになら無い程にな」
「….そうか」
ゼン殿は悲しそうな顔をするが、どこかスッキリとした顔になる
「して、お前さんは何をしている…戦わんのか?」
ゼン殿が聞いてくるが
「…戦ったさ!…たくさんの仲間を失ってな!!!…だが…もう無理だ」
私は再び座り込み空を見上る
「…それでも貴様は!!!…いや…わからんでもないな…私も同じ気持ちだ」
そう言ってゼン殿は私の隣に腰を下した
「…戦わないのですか?」
「主と同じじゃ…ほれ」
ゼン殿が指を指すのでその方向を見ると、多くの人が戦っていた
あんなに近くで戦っていたのか…気がつかなかった
戦っている人たちを見ていると気づく
戦っているのはゴーレムや「アンデット」ではなく、人同士であった
「どう言うことでしょう。さっきの男もそうでしたが、何故人同士で?」
私がそう聞くと
「これじゃ」
ゼン殿は徐に、自分の足を見せてくる
ゼン殿の足は膝から下が茶色に変色していた
「…………それは?」
「ゴーレムじゃ」
…これが?何かの毒や病気、泥汚れなどではなく?
私が理解できないといった顔をしていると
「…こ奴はな、当初はただの泥じゃと思っていた。妙に張り付くなとは思っておったがただの泥じゃ。冒険者が汚れるなど当たり前、わしらは誰一人として気にもせんかった」
「…」
私は黙ってゼン殿の話を聞く
「しかし、しかしな…こ奴はどんどん広がっていってな…人を操るんじゃ」
「人を操る…ですか?」
私は再び、ゼン殿の足を見る…ただの泥汚れにしか見えないが
「そうじゃ。しかも首から下だけを覆って操るんじゃ」
「それに何の意味が?」
私には分からなかった、何でその様な事をするのかと…しかしゼン殿の説明を聞いて恐ろしくなる
「…操られるとな、突然、武器を振り回し近くにいる者を殺そうとし始める」
「…それは」
「その上、口だけは無事じゃ。しばし驚いた後、避けてくれと逃げてくれと助けてくれと涙ながらに叫び始めるんじゃ」
ゼン殿は疲れたと言った顔になる
しかし…なんて酷いんだ
突然仲間が襲いかかってくる。パニックどころの話ではない
しかも操られているとなると…ただ単に裏切っただけなら考えようもあるが躊躇ってしまうだろうな
「それでいてな…うちのギルドの連中はほとんど全員が魔剣を持っておる。掠っただけでとてつもなく危険な代物ばかりじゃ…そんなものを仲間に向ける事など出来ないと躊躇ってな…それによって多くの家族が死んでしまった」
ゼン殿は悲しい顔になる
「助けることはできなかったのですか?」
「…こ奴は身体をピッタリと隙間なく覆っておるからの…助けたくば武器を持っている手や、機動力となる足を切るしかない…そんなことをすれば冒険者としては生きていけなくなる…同じ冒険者として躊躇してしまうんじゃ…家族じゃしな…そうしているとな。殺されてしまう」
「…」
「しかもな、この泥のゴーレム共、操っている人がどうなろうとも御構い無しじゃ…手足を折ってたり曲がらない方向に無理矢理曲げて攻撃をしてきたりもする…その度に家族は悲鳴をあげ、苦しんでいくんじゃ…」
ゼン殿はそう言う言いながら私のように何もしたくないといった顔になる
「…確か、あなたのギルドには…ユニークスキル持ちがいたはずですが」
「ああ、リックか…いの一番に死んだな…仲間を庇って」
「そうだったのですか…」
これで最後の望みも無くなったという訳だ
ドォォォォォォンンンッ!!!!!!!!
とんでもなく大きな音がする
その方向を見ると、巨大ゴーレムが穴の中に落ちてきていた
それを呆然と見ていると
巨大ゴーレムはバラバラに崩れていく
魔力切れか?
そう思ったがどうやら違うようだ
バラバラに崩れた巨大ゴーレムの中からとんでもない数の「アンデット」が湧き出し、崩れた土はゴーレムになっていく
そうか…あの時投げてきたのは、あの巨大ゴーレムの1部だったのか
巨大ゴーレムから溢れ出した魔物達は、ものすごい速さで広がっていく
まるで突風のように辺りを蹂躪していった
それを見て私の中で何が音を立てて崩れていく
不思議と笑みがこぼれた
どうやらゼン殿も同じようで、呆然としながら笑っている
私は呆然としながらゼン殿に声をかける
「ゼン殿…私がこれからやることは人として最低でもあり、ありえない事だ…しかし、認めてはくれぬか?」
「…何をする気じゃ?」
ゼン殿がそう聞いてくるので私は鎧の脛当てを外し、脚に掘られた魔法陣を見せる
「それは…」
どうやらゼン殿にはわかるようだな
「…古の悪魔を呼び出す魔法陣です」
この魔法陣は「菊一文字」と同様、我が家に代々受け継がれいるものの1つだ
我が家は数代前まで貴族をしていた。これはその当時から受け継がれている
この魔法陣を扱っていたから我が家は潰されたのだがな
「…しかし、悪魔は願いを叶える代わりに魂を代償として持っていくという…そんなことをすれば神のもとにはいけず、永遠と苦しみ続けるだけじゃぞ?」
神のもとには行けない
それは人としてありえない事であり人として恥ずべきことだ
しかし
「もとより覚悟の上です…私1人の命で町の人が助かるならば」
これは白騎士としてこの町を守るものとして、最後の願いであった
「…………馬鹿者が…」
そう言ってゼン殿は私の肩に手を乗せてくる
「…………何を?」
「わしも付き合ってやるってことじゃ、お主1人では頼りないからの」
「しかしそれでは」
「うるさい!…………わしも家族を救いたいのじゃ」
ゼン殿は覚悟を決めた顔をする
本当にこの町の人は素晴らしい人ばかりだ…絶対に救わなくては
私は脚の魔法陣に魔力流す
ゼン殿の魔力も合わさり、ありえない量の魔力が注ぎ込まれていく
魔法陣は私の身体から離れ、どんどん大きくなりここら一帯に広がっていく
ゼン殿…恐ろしく強い魔法使いだったのだろう…私が予想しているよりも強い悪魔が呼び出せそうだ
すると
空間にヒビが入っていき、青い炎が漏れ出してくる
そして
禍々しい異形の腕がヒビ割れた空間から這い出て来る
そこからゆっくりと這い出て来た何かと目が合う
そして思う、こいつはとんでもないと
青い炎はどんどん強く、大きくなりヒビの中から出てきたものを覆い尽くす
出てきたのは、今までのどんな文献でも見たことの無い様な悪魔であった
大きく巨大な虫型の魔物と言えばいいのだろうか…なんと恐ろしく禍々しい姿をしているのだ
《…我が名はベルゼブブ…何の用だ》
頭の中に直接声がする…念話のスキルを持っているのか?
ベルゼブブ…この迫力から上級の悪魔…いや、それ以上かもしれない
「…望みがある!我々2人の命はどうなってもいい!…だから!この町を救ってくれ!!!」
ゼン殿と共に悪魔に拝む
神では無い者に拝むなど異端者どころの話では無い。これで私たちは大罪人だ
私とゼン殿の願いを聞いたベルゼブブと言う悪魔はしばし考えた後
《…………その願い聞き届け…え?何故あなたが?!いや、裏切ったわけでは!待ってくだ!》
…………悪魔は訳の分からぬことを言い出し
消えてしまった
…………は?
ゼン殿と私は意味がわからず…訳がわからず…辺りを見回す
悪魔はどこにいったんだ?
どうなっているんだ?
まるで意味がわからない
私はゼン殿を見る
ゼン殿には全身に青い筋が広がっている
私にも同じものが広がっている
これは悪魔を呼び出したものに現れる大罪人の証であり、悪魔と契約した者の証拠である
…つまり悪魔は呼び出せたと言う事だ
ではあの悪魔は何処に行ったと言うのだ?
私が呆然として立ち尽くしていると遠くの方で、巨大な草魔法系の魔法が発動している
大きな木が何本も生えて行き暴れていた
ゼン殿は驚いているが、私にはどうでもいい。確かにあの様な魔法は見た事も聞いた事も無いがまるで興味が湧かない
…………命をかけた悪魔にでさえ私は見捨てられたと言う事だ
ゼン殿は魔法が発動している方向に走り出すがすぐに転んでしまう
「…………ゼン殿…何処に行くつもりだ?」
「あれは!あれは!緑神様じゃ!!緑神教の御神体じゃ!!!緑神様が助けに来てくれたのじゃ!!!」
魔力切れを起こしている為に上手く動けないでいるのだろう
ゼン殿は緑神様、緑神様と叫びながらまるで死にかけの魔物の様に這いずり回っている
と言う私も身体が言うことを聞かない
「ははっ…はっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」
私は涙を流しながら笑いが止まらなくなっていた
大量の魔物がどんどん近づいてくるのが見える
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
リーゼルト!リーゼ!エリア!兵士達!騎士の皆!そしてゼン殿…
今そちらに行こう
そう考えながら、私は魔物に飲まれていった
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」
白騎士長、ゼパイルは今回で終わりです
次回より主人公視点に戻ります




