25話 絶望の始まり
side白騎士長、ゼパイル
私の名前はゼパイル
アランベルト王国のイーリスと言う町を守っている
と言っても自分は騎士なので代官を守ることが専らの仕事だがな
私はメイドが入れた紅茶を飲む
…今日も美味い
若い頃はまさか自分が白騎士になれるとは考えもしなかった。白騎士になってかれこれ10年、もうすぐ50歳を迎える
そう思うと実に考え深い
自分の実務椅子に座り紅茶を飲む。朝の執務室で飲む紅茶は本当に美味い
紅茶はリーンヘントからの輸入品だ。リーンヘントは実に良い国だ、食い物が美味い国というのは素晴らしい。私も退役後はリーンヘントに移住をしようか
などと考えながら外を眺める。煌めく太陽、何処までも広がる青い空
今日も実にいい天気だ
コンコンッ
「誰だ」
扉を叩く音がし、反射的に返事をする
「私です、ゼパイル様。リーゼルトにございます」
部下の白騎士、リーゼルトが朝の報告に来たようだ
「入って参れ」
「失礼します。おはようございます、ゼパイル様。今日も良い天気ですね」
リーゼルトは入室すると、朝の挨拶をしてきた
「そうだな」
朝からピシッとしたリーゼルトを見ているとまだまだ私も頑張らなくてはと思う
確かリーゼルトは…子爵家の3男だったな
最初、どこかのボンボンが私の部下になると聞かされた時は驚いた
貴族出の白騎士は働こうとせず、命令を聞かないのが当たり前らしい。なぜ平民に命令されなくてならないのだ?と言うと聞く
しかし、実際に来たのは真面目で努力家の、大変出来た素晴らしい部下だった。リーゼルトが家督を継げはいいものを…まぁ色々とあるのだろう
リーゼルトは小脇に抱えていた、資料を取り出し
「今日の仕事ですが引き続き、大犯罪者「豪腕のジョゼ」の捜索。ジョゼに誘拐されたと思われるハルバート家が4女、エリンザベート様の捜索になります」
今日の仕事を説明してくれる
「…またか」
「…ここ3ヶ月、ずっとこの仕事ですよね」
今から3ヶ月程前、この町を納めるハルバート家の4女、エリンザベート様が誘拐された。犯人は豪腕のジョゼと呼ばれる小物だがエリンザベート様は誘拐された
しかし、これはハルバート様の思惑だったらしく捜索は早々に打ち切られた…まあ、エリンザベート様が王都より1人で帰られた時は何かあるなと思ったが
ハルバート家の人はこの町にはいない。全員が王都の別邸に住んでいる。ハルバート様は大変な野心家だからな、王都で色々しているのだろう
しかし、捜索が打ち切られてから2週間後、ハルバート様からまた捜索をするように命令された
どうやらジョゼは裏切り、エリンザベート様は行方不明になったご様子
ジョゼが代官と繋がっていたことは知っていたが、ジョゼは突然裏切った。町から逃げた様子もなくただ忽然と姿を消した
一体どこに行ったんだ?
「代官殿は?」
「代官様は今日も屋敷から出ないそうです」
「そうか」
代官殿はあれ以来すっかり大人しくなり屋敷から出てこないそうだ
代官殿も少し調子に乗りすぎたんだな。まったく犯罪者を信用するとは嘆かわしい、そんなんだから裏切られるんだ
「そうか…では、代官殿の屋敷には騎士3名を残し、残りは捜索に出るぞ」
「かしこまりました」
代官殿も馬鹿な男だ…と言ってもあの男にはこの魔剣を貰ったからな、出来る限りは守ってやるさ
魔剣『炎剣のブレッタ』を腰に添えながら、思う
今日も仕事の始まり
コンコン
…毎日の決まり事、仕事を始める時のルティーンを邪魔をされる…一体誰だ?
「こんな朝早くに誰でしょう?」
リーゼルトが聞いてくる。確かに朝は紅茶を入れにくるメイドかリーゼルトくらいしか来ないからな
「おはようございます。ゼパイル様、兵士のリチャードでございます」
どうやら兵士のようだ
「入って参れ」
「失礼します」
入ってきたのは確か少し前に娘が生まれたと言っていた兵士だ
「こんな朝早くから何の用だ?」
「ゼパイル様、緊急事態にございます」
緊急事態?
リーゼルトと顔を見交わす
ーーー
ーー
ー
私たちは今、騎馬用の魔物に乗り街中を猛スピードで走らせている
リーゼルトは私の隣を、リチャードは我々の前方を走っている
「一体あれはなんなのでしょか?」
リーゼルトが聞いてくる
私たちは今、東門に向かっている。東門は本来なら開かれている時間だが今日は何者も拒むかのように固く閉ざされている
門と町を守るための城壁はとても大きく、今までどんな魔物でも町に入れた事は無い
しかし
「なんなんだ!あの大きさは!!!」
今回の緊急事態は緊急事態どころ話ではなかった
これだから魔法で兵士を縛るのは嫌なんだ!どんな事態でも落ち着いて行動するからどのレベルで緊急事態なのかが分からなくなる!!!
私は忌々しく思い、巨大なゴーレムを睨む
「ゼパイル様!リーゼルト様!着きました!」
リチャードが大声を出す
私は慌てて魔物を止めた
ここは東門の近くの広場だな、大きな噴水がある。ここからは巨大なゴーレムがよく見える
巨大なゴーレムは動いておらず、ただ突っ立っている
広場にはたくさんの兵士と騎士が並んで待っており遠巻きに大勢の市民が集まってきている。皆が皆、不安そうな顔をしている
私とリーゼルトは魔物を降りてリチャードに魔物を預ける
近くにいた騎士に状況確認をさせる
「状況は」
「はっ!お答えします!今日未明、巨大なゴーレムが突如発生。ゆっくりと町に向かってきております。町は一時的にパニックに陥りましたが、今は落ち着いています。全ての門は封鎖し締め切っております。現在、巨大なゴーレムは停止いたしましたが町からの距離は5kmを切ろうとしています」
5kmだと?目と鼻の先じゃないか
「被害の程は?」
「怪我人がかなり居ましたが、教会で何とか出来るとの事。墓山にいたはずの教会関係者の身元が不明になっておりますが、門を開けるわけにも行かず確認は取れていません」
そうか。あのゴーレムが来た方向に墓山があるのだったな
「あのゴーレムの情報は?」
「現在ゴーレムやゴーレムを作ったと思われる術師からの接触は無く何も分かっておりません。永久奴隷兵士「メモリーズ」による観測によりますと、全長50m強、幅20mと今現在発見されているゴーレムの中で最も大きいそうです。ゴーレムが行動を停止してから現在まで2時間が経ちました」
2時間もあのままだと?魔力切れか?いや、それならば崩壊しているだろう。一体何が目的なんだ
「そうか…代官殿は?」
「屋敷にいる「メモリーズ」によりますとゼパイル様に任せるとのことです」
「!!!!!!」
私は怒りに身を任せ、思いっきり足を振り下ろす
クソがっ!!!!!
振り下ろした威力で広場に大きく罅が入り、噴水が倒壊した
あの馬鹿は何を考えているんだ!自分の保身にばかり気を取られ、状況をまったく理解できていない!町が滅びるかもしれないんだぞ!
クソッ!!!あの男の事だ!緊急事態と言われても気にしてないのだろう!!!
「ゼ、ゼパイル様?」
リーゼルトが怖がっている
…いかんいかん。今は私が1番偉いんだ。部下たちの手前、心を落ち着かなければ。冷静に、冷静に
「すまんな、少々…まぁよい、それで何の用だ」
「ステージの用意ができました」
「そうか」
私はリーゼルトについていく
あのゴーレムは…危険だ。大きすぎる
たった1体で町をどうにかできるほどの大きさだ
もしあのゴーレムが暴れたら町はひとたまりも無い。確実に町の4割は破壊されるだろう
だから我々はあのゴーレムを討伐し倒さなくてはならない
家族と町を守るためにも
「…リーゼルト、依頼の方はどうなっている」
「すでに手配しています。この町にあるすべてのギルド、そして教会に使いのものを送りました。「メモリーズ」によりますが皆、手を貸してくれるそうです。現在こちらに向かってきていますよ」
「…………そうか」
いい連中ばかりの町でよかった…我々だけでは勝つ見込みは少ないからな
私はリーゼルトの案内のもと、兵士と騎士の前に作られたステージに上がっていく
このステージは部下を鼓舞するための物だ
と言っても部下は魔法により縛られているので鼓舞を行った所で意味はない。これはポーズなのだ
本当の目的は市民を安心させる事にある
市民は1度パニックを起こしている為、酷く恐怖している
その恐怖を払うためにもこの茶番が必要なのだ
ステージに上がり、全体を見渡す。やはり先程より市民が増えているな
「諸君!!!我々はこれよ」
ズゥゥゥゥゥゥンンンッ!!!!!!!!
鼓舞を行い始めた途端、町にとんでもない振動が鳴り響いた
「なんだ?!」
止まっていたゴーレムが移動を開始した
ほんの少し移動しただけでこの振動だと?!一体どんな重さなんだ!
ゴーレムの放つ振動により、精神的にも肉体的にも打ちのめされていた所、あちこちから悲鳴が聞こえて来る
いかん!市民がまたパニックを起こしてしまった
「兵士の50名は残り、暴れている市民を取り押させろ!多少なら怪我をさせても構わん!残りは私について参れ!」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
一体なんなんだ、今日は!!!
私は急いでステージを降り魔物に乗ろうとする。
しかし、ゴーレムが生み出す振動によって魔物が興奮してしまい中々言うことを聞いてくれない
クソっ!
私が不甲斐ないばっかりに、ゴーレムは町に辿り着いてしまった
…………デカイ
巨大なゴーレムによって太陽からの光が遮られ、大きな影が町全体を覆い尽くす。死をもたらす悪魔とはあんな感じなのだろうか
巨大なゴーレムが両腕を掲げる。それを見て私はホッとする
「馬鹿め!結界を知らんのか」
ゴーレムは城壁を壊し町に侵入してくると思ったが、どうやらそこまでの知能は無いようだ
ゴーレムが両腕を振り下ろす
パァァァァァンンン!!!
ゴーレムの攻撃は結界によって遮られた
よし!
「皆のもの!今のうちだ!全速力でゴーレムのもとに向かうぞ!ついて参れ!」
「「「「「「「はっ!」」」」」」」
城壁が壊されぬ限り結界は働く。それまでにゴーレムのもとに辿り着かねば
ゴーレムは再び両腕を振り下ろすが、結界が遮る
「急ぐぞ!」
何とか落ち着かせた魔物に乗り、走らせようとする
しかし
ピシッピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシピシ
我々の目の前を、嫌な音を立てながら通りに罅が走っていく
「…なんだこれは」
しかもそれは1つの通りだけでなく、あちこちに似たようなものが走っていくのが見えた
…………まさか!?
巨大なゴーレムが再び両腕を掲げる
「やめろー!!!!!!」
バキンッ
その日、イーリスの町は割れた
ミレイ「マスター、なぜゴーレムをあんなに大きくしたのですか?」
マスター「え?…巨人ていったらやっぱりあの大きさかなって」




