21話 新種族と「牙狼の牙」
「ミレイさん、それ美味しい?」
俺は隣に座ってアイスクリームを食べているミレイさんに聞く
「はい、美味しいです。言っておきますがあげませんからね」
そう言いながらミレイさんはアイスクリームを俺から隠す様に遠ざけ、木のスプーンを口に運ぶ
…実に美味しそうだ
俺たちは今、噴水から少し離れた場所で休憩をしている
あの妙に強かった2人組みの兵士については色々と気になったのだが、結局見失ってしまった
…追いかけようとしたら屋根伝いに移動するんだもの、そりゃ見失うよ
兵士達の鑑定には気になる単語が多く妙に強かった
ミレイさんなら何か分かるかもと思い聞いたが、ミレイさんは兵士達を見ていないので分からないそうだ
…なんでも偶々近くにあったアイスクリーム屋が気になり、そこしか見ていなかったとの事
現在、ミレイさんはアイスクリームを食べながら大変ご満悦のご様子
アイスクリームはバニラ味?いやバニラエッセンスなんかは無いだろうからミルク味かな?ミルク味しか無く水魔法の派生、氷魔法を応用して作っているそうだ
ちなみにアイスクリームは1つ銀貨1枚
銀貨1枚ってことは1つ1万円?高いくね?と思ったが
なんでも本来なら売り出していない乳を農村や乳を売れる人の居る所に行き買いに行ったり、氷魔法を扱える人が滅多にいないからとこの値段になってしまうそうだ
農村は何と無く分かる、家畜がいるのだろう。ミレイさんは獣は居ないと言っていたから家畜も魔物なのかな?
しかし、乳を売れる人とは?と思っていた所、店員のお姉さん(猫耳の獣人)が教えてくれた
獣人の中には出産後、母乳が出続ける種族、牛族や山羊族などがいるらしくそう言った獣人から買うそうだ…1部に熱烈なファンがいるとの事
なるほどなるほど。母乳の出る獣人から買うのか、後学の為に俺にも1つ…何でも無いです、ごめんなさい。買わないからそんな睨まないで…
ミレイさんに阻まれアイスクリームは結局買えなかった
ミレイさんは2つ目のアイスクリームをボックスから取り出し…あれ俺が買う予定だったや
「なんですか?」
いえ!なんでもないです
ミレイさんは興味なさげに2つ目を食べ始める
…ミレイさんがアイスクリームを買う時、小さな布袋から銀貨を取り出し時は驚いた。その金はどうしたのかと聞いたら
「道行く人から拝借しました」
ミレイさん、それはスったと言う事では?
そう聞いたがミレイさんは微笑むだけだった…まぁいいか
市場はあまり楽しくなかった。詐欺ばっかりだったし
もう少しまともな店が出ていれば良かったのにな…もしかしてまともな店が出せないからああ言う所で売ってるのか?
そんな事を考えながら、美味しいそうに食べているミレイさんを見ていると
「嫌じゃ〜!!!やめてくれ!誰が助けてくれー!」
何処からとも無く叫び声が聞こえてきた
声は今いる場所からそう遠く無い、民家が立ち並ぶ区域から聞こえてきた
なんだろ?
「なんでしょう?行ってみますか?マスター」
ミレイさんを見るとアイスクリームを食べ終わっていた…もう食べたの?
「…行ってみるか」
ミレイさんと民家の立ち並ぶ通りに入り進んでいく
声は途切れることなく響いているので、すぐに見つけることが出来た
「嫌じゃ!嫌じゃ!!嫌なんじゃ!!!離してくれ!後生だ!この通りだ!助けてくれ〜!!!誰か〜!!!」
「…すみません、よろしくお願いします」
「ああ」
そこには、そう大きく無い民家の前でロープで簀巻きにされたお爺さんと頭を下げた疲れた顔のおばさん、バラバラの鎧…どちらかと言えば装備だな、バラバラの装備をした5人組の男達がいた
何をしているんだろ?
「何をしているのですか?」
ミレイさんが聞いてしまう
「ああ?」
バラバラの装備を着た男の内1人、背中に背丈よりも大きい大剣を背負った男が睨んでくる
「…何って仕事だよ」
「仕事って?」
何処からどう見てもヤクザか犯罪者にしか見えないのですが
「ご、ご安心ください」
疲れた顔のおばさんが前に出てきた
「彼らはただの冒険者です!私が仕事を依頼したんです!」
そう、大声で言ってくる
冒険者?何だそれ?それに
「…仕事?」
「そうです」
疲れ顔のおばさんにそう言われたので再び、簀巻きのお爺さんをみる
「頼む!助けてくれ!後生だ!この通りだ!」
仕事?
「何の仕事なのですか?」
ミレイさんがまた質問をする
「…なんでてめぇらみてぇのに教えなきゃならねんだよ、関係ねぇーだろうが、すっこんでろ」
おっとー?これはまた露骨なセリフを、顔と相まって完全にヤクザだ
「…ほう?」
ミレイさんそう言うと両手を前に伸ばし手首を軽く曲げる
両手には包丁程の大きさのあるナイフ?を逆手で持っており、何処からでもかかって来いと言う感じだ
ミレイさん、ほう?じゃないから
何その構え、え?そのナイフいつ出したの?
ミレイさんが戦闘態勢に入った為、5人の男達も武器を構える…そりゃ〜そうなるよ
5人の男達とミレイさんは一触即発の雰囲気で睨み合っている。いつ戦闘が始まってもおかしくない
依頼人?のおばちゃんはパニックになってわたわたしている
…これは…どうしたらいいんだろう
すると
「はい!はい!はい!そこまで!!!」
突然、手を叩き大声を出しながら男が近づいてくる。その男は5人の男達と大差のない装備をつけている
誰だ?
「…リックさん」
「まったくお前らは!ちょっと目を離したらこれだ!」
5人は武器を仕舞い、男と親しげに話し始めた。知り合いなのかな?
「…だってあいつらが」
「ああ、わかったよ…君たちは仕事をしておいで。彼らは僕が相手するから」
「…でも」
「大丈夫だから、な?武器はそのまま使っていいから」
「…わかりやした」
大剣を背負った男が簀巻きのお爺さんを抱え、5人はさっきまでパニックになっていたおばちゃんに頭を軽く下げて何処かに行ってしまう
「嫌じゃ〜!離せー!!!!!」
「…………えっとじゃあ、私もこれで」
おばちゃんも民家に入ってしまった
「いや〜すまないね。彼らは見た目はあんなだけど悪い奴らじゃないんだ。許してやってほしい…すまなかった、だからそろそろ武器はしまってくれないか?」
男がそう言いながら近づいてくる
…ミレイさんまだ構えてたの?仕舞いなさい
ミレイさんは黙ったままブー垂れた顔でナイフを仕舞った
「いや〜途中から来たからよく分からないんだけど、彼らが何かしてしまったのかい?」
男が聞いてくる
「いや、そういうわけじゃない。ただ何をしているのか聞いただけだ」
「彼らはなんて?」
「冒険者の仕事だそうだ」
「あ〜…はいはい、もしかしてだけどなんの仕事か気になったって感じかな?」
「そういう事だ」
「そういうことか…それならばここじゃあなんだしうちのギルドくる?ギルドなら詳しく話せるんだけど…」
そう言って男は、右手の甲を見せてきた。右手には狼かな?狼の絵が書かれた紋章が刻まれている
「ギルド?」
「あれ?見てわからない?この町じゃあ結構有名なんだけどな…まぁ彼らもそうだけど、僕は戦闘ギルド「牙狼の牙」っていうギルドの冒険者なんだ、どうする?」
ギルド!ここでもギルドか…ギルドって魔物を狩る自治団体だっけ?
つまり、こいつは魔物を狩る専門の人だ…付いて行って大丈夫かな?
しかし、気になる事も多い
「…………わかった」
「そう?それなら早速行こうか!」
そう言って男は歩き出す、俺とミレイさんも付いて行く
ミレイさんは隣に来て、再び手を繋いできた
「…よろしいのですか?マスター」
「よろしくは無いけど実際何をしていたのかは気になる。それに折角教えてくれるって言ってるんだから、付いて行かない手は無いだろ?」
「…ですが」
「大丈夫だよ、所詮はホムンクスル体。何かあっても大丈夫。それにこの町じゃあ有名って言ってたから犯罪者の可能性は…」
いや、それこそ鑑定で調べればいいのか
鑑定
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名前:リック/男/26歳
種族:???
種族特性:融合
スキル:なし
称号:頼れる先輩冒険者、戦闘ギルド「牙狼の牙」所属、戦闘はできない、違法魔剣製造者、一応指名手配犯、ユニークスキル持ち
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…犯罪者ではあった、よくわからないけど
それよりも重要なことがある
こいつ…新種族だ
ミレイさんも気付いた様子
ミレイさん!ナイフ駄目!魔法も駄目!撲殺は?じゃない!全部駄目!
ミレイさんを羽交い締めにして大人しくさせる。ええい暴れるな
「…………えっと、もう少しでつくんだけど…大丈夫?」
「…ああ大丈夫。心配ない」
だから早く行って
「そ、そう?さっきからすごい睨まれて怖いんだけど…」
そう言って新種族の男、リックは民家が立ち並ぶ区域を抜けていく。噴水のある広場とは真反対だ
ミレイさんをなんとか抑え、ついていくと
多くの馬車?…馬ではなく魔物が引いている馬車がたくさん行き交う大きな通りに出た
立ち並ぶ店も大きな物ばかりだ
新種族の男、リックはその中の1つ、右手の紋章と同じ絵が描かれた大きな看板の店に入っていった
「なにしてるの?早くおいでよ!」
あそこか、よし行くよミレイさん
「…絞殺、撲殺、毒殺、刺殺…」
あっ駄目だ、物騒なことしか言わない。俺はミレイさんの手を引きギルドの中に入る
するとリックは
「ようこそ!俺たちのギルド!「牙狼の牙」へ!!!」
ポーズを決め、どっかのパークの職員のようなこと言い出した
「お、おう」
そう言われたのでギルドを見渡す
大きく開け放たれた入り口から、右手には紙がたくさん貼ってあるコルクボードがあり
左手には沢山の椅子とテーブルが置いてある。そこでは多くの人達が酒を飲んで騒いでいて、ゴロツキ達がドンチャン騒ぎをしている。柄の悪い居酒屋じゃないのかこれ?
入り口の正面の奥の方には受付らしき場所がありキッチリとした格好の男女が何らかの仕事をこなしている
「えっと、ちょっと待っててくれない?話付けてくるからさ。おーいユナちゃーん」
「あらリックさんお帰りなさい、早かったのね?…1人?」
「いや、それがさ」
リックは受付の方に行ってしまい、受付の女性と話し込んでいる
…どれくらい待つのだろうか
そう思いミレイさんを見るが
「…やはり毒殺が1番ですかね…いや下水道に落とし溺死という手も…」
ミレイさんは相変わらずのご様子
…………暇だな…昔からこの手の待ち時間は苦手だ。リックを見るがまだ終わる気配はない
暇なのでミレイさんを引き連れて、紙の貼ってあるコルクボードに近づく
紙にはいろいろな仕事の依頼が書いてあった
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依頼:回復草の採取
等級:下級の下
内容:回復草を20本採取してくる
期間:いつでも
依頼人:ギルド
報酬:銅貨2枚
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依頼:『一角兎』もしくは『ブラックバード』の討伐
等級:下級の下
内容:一角兎、ブラックバードの討伐
期間:いつでも
依頼人:肉屋の店主
報酬:1匹につき鉄貨5枚、そのかわり依頼をこなしてくれた冒険者には肉を安く売るぞ
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依頼:ロックタートルの討伐
等級:下級の上、もしくは中級の下
内容:ロックタートルの討伐
期間:2週間
依頼人:ソルド村村長
報酬:銀貨3枚、よろしくお願いします
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他にもいろいろあって面白い。内容は市場で聞いたのと大差ない…定番なのかな?
しかし、紙があるのか。そう思い1枚摘むとまるで和紙のような感触だった
この世界にも和紙があるのかな?紙は和紙みたいのだけでは無く、皮の様な物で出来た羊皮紙?みたいのもある
紙は色々とあるのか?
丁度、コルクボードの近くに3人組の女性が居たので声をかけて見る
3人ともかなりの美人だが顔に大きな傷があり、鋭い眼光をしている
なんか怖い
「失礼、この「「「あ"あ"!?」」」いや、その」
なにこれ?めちゃくちゃ怖いんですけど
「ちょっとちょっと!なにしてるの!?」
リック、ヘルプ!
注釈
町並みは中世のヨーロッパ風であり、建物のほとんどが煉瓦造りです
中には土で出来た物や異世界ならではの魔法で出来た家なんかもあります




