急転
強い者がいるのなら弱い者もいる。
問題は力の使い方である。
強い者と弱い者。同じ夢を見るのなら。
違う方法を取ればいい。しかし取れないのもまた事実。
強い者は覇道を進むのか。弱い者は王道を進むのか。
まだ揺らいでる未来の出来事。
―――――――とても豪華な応接間
「ラインハルト。やっと来たか。」
龍人が軽く目を開ける。
ゆっくりと席を立てば僕の方を見る。
「ふむ。君が異世界から来た者か。いい体をしておる。・・・大きな災いも保持しているようだな。」
「・・・・・・」
軽くお辞儀をする。
龍人もお辞儀をする。そして魔王は僕と龍人に座るように促される。
僕には巨大なソファに座るようにと言われた。
「さて、炎王殿。今後について話を進めていきたい。」
「前回は勇者の対策と攻める場所の協議で終わったな。今回はどうする。・・・・まぁ、儂はこれ以上練度の高い兵を前線には投入したくないぞ。彼らを失うということは未来ある新兵を育てる者がいなくなるということだからな。」
二人が話し始める。やはり焦点になっているのは勇者の対応策だ。
今まで何回かに分けて勇者と戦闘をして情報を集めていたがやはりスキル・能力・加護の質。どれをとっても宝石のような美しさを兼ね揃えているらしい。
そして話の相手は僕も巻き込むことになる。
「ラーズグリーズ。貴殿は何を考えている?」
「単純な話だ。我がその4人の勇者を殺せばよいのだろう。簡単な話ではないがな。」
「最良の結果はそうだが奴らは死なない。神の加護があるからだな。」
「ふん。魔王殿も炎王殿も人間の神がそんなに怖いのか。それに。相手にするのは人間の神ではない。人間だ。突き詰めればただ強すぎた人間だ。・・・・・なんのために我を召喚した。」
軽く脅すかのような瞳を二人に向けながら手と足を組む。自分に絶対の自信があるというのは嘘だ。なんにしろ不透明すぎる。
勇者の構成はなんだ。得意なのは。攻め込む地域の兵力は。こちらの残戦力は。
「炎王殿。・・・・率直な意見を聞きたい。こちらにいるラーズグリーズが勇者にどれぐらい打撃を与えられるか。」
「・・・・・率直に言ってか。・・・・死ぬだろうな。ラーズグリーズ殿の能力。そしてその気配からするに回復魔法などはないだろう。対する勇者4人組の中に一際高性能な回復魔法を唱える者がいた。与える傷の深さが回復量を上回らない限りジリ貧であろう。」
「なるほど・・・」
深く溜息を吐く二人。しかし僕は静かに立ち上がる。そして二人を見る。
「我の力は我自身にもわからぬ。その力が地を砕き天を落とす物ならば今現在の条約に則りその力を行使しよう。しかしその力が大地に花を咲かせ世界を光に包ませるものなら我は喜んで世界の敵になろう。ただそれだけだ。そこに勝敗など存在しない。生きるか死ぬかの覚悟だけだ。」
そういうと炎王は微かに笑いゆっくりと頷く
「ラーズグリーズ殿。生きていれば頼みたいことがある。良いか?」
「・・・・・うむ。生きていれば、な。」
そして炎王との会談が終わった。
すぐに次の貴族の長。会談が終ればまた会談。
僕を警戒する者もいれば友好的に会話しようとする者もいる。
どちらにせよ四大貴族の長は軒並み僕を試そうとする。
言葉という剣で。言葉という魔法で。
―――――――――数日後
「ふぅ。ラーズグリーズよ。四大貴族を前によくあのように振る舞えるな。まるで喧嘩を売るような言葉の選定。恐れ入った。」
「関係ない。我は我の思ったことを言うだけ。歯に衣着せぬことしか出来ぬのでな。」
しばしの休憩と食事の後宛がわれた部屋に戻る。
ドサッとベッドに倒れこむ。
そしてふと歌を歌ってみる。この世界に来る前に何度も聞いていた曲だ。この世界に来てからも唯一覚えている曲の数々。
「~~~♪~~~~~~♪♪」
歌を歌っているために気が付かなかった。僕の世話係を担当するメイド達が来ていることを。
そして一通り歌い終わった後の拍手でふと我に返る。
「・・・・貴様ら何時から居た。」
メイド達は顔を見合わせ首を傾げる。正確な時間は覚えてないようだ。
しかし恥ずかしいことではない。歌とは本来人を感動させるためにあると僕は思う。
「・・・・・・何用だ。」
「はい!超要塞都市の周辺地図を届けろと言われたので。お届けにあがりました。」
「そちらの箱はなんだ」
「これにはお召し物が入っております。今はまだ戦時中ですが戦後や正式な式典などにお使いくださいませと。」
「誰からだ。危険なものではなかろうな」
「はい!確か届人は炎王様に海神様。あと・・・シルエスタ様から。」
箱の中は仕事が終わってから開けるとする。そして会談が終わったのなら命令通り2日以内に出撃せねばならない。僕は乾いた喉を潤し欲を満たしてから出撃するとした。
その際メイドを下がらせるが肉付きの良いメイドだけを残した。
1人になって不安なのだろうがやさしく持ち上げてから抱きしめる。
そして耳元で甘く囁く。
「いまから貴様は我の抱き枕になれ。命令だ。」
驚いたようにこちらをみるメイドだがおびえるような瞳を向けながらゆっくりと頷く。
そして自分の肉欲を満たすために床についた・・・・
――――――――――――翌朝
「・・・・・んんっ」
すっかり朝になる。そしてまずは体を洗うために水浴びをしに行く。シャワーなんて代物あるわけがない。
それに今の僕は鳥みたいなものだ。それなら散歩がてらこの城周辺を飛ぼう。
「ラーズグリーズ殿。地図は覚えられましたかな?」
部屋から出れば大臣の一人が話しかけてくる。きっと心配になったのだろう。
軽く頷き返してやれば少し頬が緩む大臣。そして饒舌なのかいろいろなことを教えてくれた。
「以上が現在の状況である。わかったか?」
「わかったがよいのか?ここまで言ってしまって。」
「魔王様に伝えておけと言われたのだ。貴殿と違い魔王様は現在新田開発に真剣だからな。」
なるほど。腹が減っては戦は出来ぬ。というわけか。
たしかに昨日出された料理の量は少なかった。そしてメイド達も腹を空かせていたようにも見えた。
魔王軍の本拠地たる魔王城がこんな有様なのだ。ほかの地方も散々な有様であろう。
そもそも食料は昼に種を蒔けば夜に実が成る。そんな簡単なことではないのだ。
「・・・・豊かな大地が必要だな。」
そうボソッと呟く。
そして気になることも聞く。
「要塞都市を無条件降伏させることは視野に入ってるのか?」
そんなことを聞けば大臣は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしながら僕を見る。
そして首を軽く振り僕にこう言った
「出来るのならとっくにやってるわい。出来ぬから貴殿を出陣させるのだ。まぁ・・・一番最良手に等しいがな。無条件降伏は・・・・」
大臣はなるべく血は流したくないと言っている。
未来を考えるとどちらか敗北した瞬間勝者によるパイの奪い合いが発生するだろう。
なんにせよこの戦争は終わらせなければならない。
疲れた大地を休ませるために
――――――――――――魔界上空
「・・・・・」
魔王に出陣を伝えそして与えられたのはワイバーン2部隊と支援部隊であるハーピィ1部隊である。
一応都市攻めである以上それ相応の戦力が必要であろう。
「ラーズグリーズ様は・・・こう大勢で飛ぶのは初めてでしょうか?」
ワイバーンはお互いに戦闘の緊張をほぐそうと各々喋りだす。
もちろん新兵ばかりの見せかけの軍勢である。
だが新兵とはいえワイバーン。それ相応の戦力にはなる。
「大勢で空を飛ぶのは初めてだがそんなことを言っている暇があるならいつでも逃げれる準備をしておけ。いつ勇者と遭遇するかわからない現状貴様らのその油断が命取りになるぞ。」
「了解。・・・俺たちの身の安全を考えてくれるんですね。ありがたいです。」
そう言いながら右も左もわからない僕を案内してくれた。そこかしこにある廃墟街。そして荒れた大地に捨てられた畑。痛々しい魔界の光景が脳裏に記憶される。
「・・・・内乱が長引いていたら魔族は自滅していたな。」
「ラーズグリーズ殿・・・ラーズグリーズ殿は本当に異世界から来たのですか?まるで我々と同じ魔物のような気がしますが・・・・」
「異世界から来たのは本当だが何故この姿になったのかはわからない。」
そう言いながらぽっかりと空いた大穴を通り地上に出る。
新鮮な空気。清々しい太陽の恵み。そして見える。堅牢な要塞都市。
「あそこか・・・・」
「えぇ。かれこれ数度に渡る波状攻撃からも耐え栄えている都です。そして現在あそこに勇者がいるらしいです。」
「お前らは逃げろ。あくまで戦う素振りだけだ。火を吐けるのなら吐いてそれを目くらましに距離を取れ。必要なのは地上の情報であり要塞都市の勝敗ではない。」
「・・・・一人で戦うおつもりですか。」
心配そうにワイバーンたちが周りを群がる。
しかし僕を心配してくれても僕を守るほどの技量と経験が無さすぎる。
今はまだ耐え忍ぶときである。
そう伝えると納得したかのように散開行動をとり始める。
それは要塞都市の監視塔からでもはっきり見えた。
―――――――――――要塞都市テールドフェル監視塔
「な、何だあれ。」
「魔族の侵攻だ!!久々に攻めてきやがった!!」
鳴り響く敵襲の鐘の音。
それを聞き武装を整える傭兵や冒険者。
もちろん勇者も例外ではなかった。
「お?なんだぁー?」
「外が騒がしいね。何かあったのかな」
のんびりとしているが慌ただしくなる街の光景を見てから戦いの準備を進めていく勇者4人。
そして知らされる
「勇者様!!魔物の侵攻です!数は少数とはいえ未確認個体を視認!勇者様には未確認個体を・・・」
そういう兵士の言葉を遮り勇者の一人が言う。
「要は全部倒せばいいんだろ!楽勝だって!」
「まーたあなたはそうやって・・・」
「怪我しないでくださいね?」
「君は本当に・・・まぁなんにしろどんな個体かは探る必要がある。<盗賊>の俺の出番だな。先に行かせてもらうぞ」
そう言いながら斥候の役割を果たしていた勇者が宿から出る。
街と魔物の間に緊張が走る。
――――――――――――数十分後
「あれが未確認個体か・・・俺達と同じ人型。黒の羽根に・・・・」
「・・・・・ワイバーン達よ。生き残れ。それ以外言わぬ。戦闘開始!!」
そう命令し僕は急降下する。そして森林に隠れる人間を探るため森林に降り立つ。
そのまま進んでいく。そして・・・・
「そこにいるのは誰だ。」
見つけた。勇者を1人。
「見つかったか。残念だけど俺は戦う気はないんでね」
「奇遇だな。我も戦う気などない。」
両手を広げゆっくりと間合いを保つ。
「人間よ。まずは自己紹介といこう。」
「・・・・・いいだろう」
些細な会話から始める。基本中の基本。
「我が名はラーズグリーズ。異世界より来る化け物だ。」
「なっ・・!」
そして一手目はあえて重要な情報を流す。
功を急かすのもよし。圧をかけるためにでもよし。とにかく会話を続けなければならない。
「貴様の名を言え。その風貌からするに貴様も勇者なのであろう。」
「もっ・・・・てことはお前が異世界から来た勇者か・・・」
「もう一度言う。貴様の名を名乗れ。我は気は長くはないぞ」
「わ、わかった。俺の名前はハジメだ。異世界から来た勇者であっている。」
「ではハジメよ。貴様は何故魔族との融和を考えぬ」
「それは俺たちが決めることじゃない。王様や神さまが決めることだ。」
淡々と会話を進めていく。勿論じわりじわりと都市に近づいていく。
「ハジメよ。貴殿に頼みたいことがある。」
「・・・なんだ」
「あの都市。あの都市を受け渡してもらいたい。いうなれば無条件降伏だ。我は無益な争うが嫌いだ。」
「断る。無益な争いが嫌いならとっとと軍を退けさせればいいじゃないか。」
「ふむ。一理あるな。退けさせればあの都市は無条件降伏はしてもらえるのだろうか?」
そう言いながらわざと軽く飛ぶ。
そろそろ決断の時と伝える必要もあるだろう
「だから。そもそも魔王がさっさと降伏して人間に負けを認めればいいんだよ。」
「その話は今の話とは全く関係ないだろう。・・・・残念だ。ハジメと名乗る勇者よ。わが軍はこれよりあの都市の攻略を開始する。場合によってはあの都市を消滅させてもよいという命令も下っている。・・・・さらばだ」
そう言いながら飛び上る。
地上からは怒鳴り声のような文句の声が聞こえてくるが聞こえないふりをする。
そして都市を見る。ワイバーンの部隊は新兵ながらよく戦っている。
しかしこれまでだ。これ以上の継戦能力はないだろう。
「ワイバーン及びハーピィ部隊に告ぐ!各員散開し回避行動に専念しながら敵射程範囲外に飛び去れ!これ以上の攻撃は許可しない!」
そう命令するとほぼ同じタイミングで都市から残り3人の出てくる。
「ひょー。すっげぇ数!今までのクエストの何倍って数じゃねーのかー!?」
「はしゃぐな。大ばか者。・・・魔法で殲滅するよ」
「あぅぅ・・こんな沢山のワイバーン・・見たことない・・・」
そして勇者が構えると同時にワイバーンの撤収もほぼ完了する。
勝った気でいる街の傭兵達。監視塔から響く怒号。
しかしその気もすぐに打ち壊されることになる。
「【ブラッド・ペイン】」
要塞都市の兵士の叫び声。悲鳴。嗚咽。
勇者達には理解できなかったであろう。目の前を覆っていたワイバーンの群れはいなくなり逃げた先には巨大な黒鳥の人間がいたのだから。
「な、なぁ!あの黒いのが未確認個体ってか!?」
「そうなんじゃない?なんにせよさっきの魔法で大半の兵隊は戦闘不能になったってわけ。いったいどんな魔法使ったのよ。」
「あ、あわわわ。えーとえーと・・・私倒れた人回復させに行きます!」
――――――――――――要塞都市テールドフェル城門前
ドゴォォォン!と地響きをして地上に降り立つ僕。目の前には勇者3人。
倒れている兵士が多数。
「・・・・・・」
「あ、お!お前がやったんだろ!今すぐ成敗してやるからな!」
「子供っぽ。まぁなんにせよ倒すしかなさそうだね。」
「え、ええっ・・・」
それぞれ構える3人。そんな3人にまずはお辞儀をする。
唐突なお辞儀に困惑する3人。
「・・・・は?なにしてるんだ?こいつ・・・」
「私たちが勇者って知らないんじゃない?」
「あ、あわわ・・・」
そしてお辞儀をした後こそ会話のチャンスである。
「初めまして勇者諸君。我が名はラーズグリーズ。諸君がこの都市及び周辺区域を我ら魔族に差し出してくれれば無駄な争いと血は流れずに済む。検討してくれないか?」
絶対に通らない交渉をする。はっきり言ってしまえばここで交渉が通ればよし。通らねばそのまま戦闘をすればよし。
つまり逃げ道はない。
「そんなの出来るわけないだろ!ここに住む町の人を魔物なんかに渡すもんか!」
「・・・・あんたも馬鹿じゃないの?たった1匹で何が出来るの。さっきの魔法は確かに驚いたけど。あんなのより私の方がもっとすごい魔法唱えること出来るし。」
「こ、この町は魔物と戦うためには大事な場所って聞きました!ですから・・・ごめんなさい!」
「やはり断るか。その決断。後悔するなよ。」
そういい上空に飛び上ろうとする
「させるか!【ローズカーゴ】!!」
僕の周りに茨が絡み付く。しかしこの程度全然平気だ。痛くもない。血はどんどん出てくるが関係ない。
「・・・・【アルマゲドン・オーヴァーチュア】」
無数の光線弾が体から放たれる。着弾すればそこから地面が裂けるほどの爆発が起こる。勿論そんな魔法を対策していない壁などいくら堅牢とはいえ脆く崩れ去るだろう。
「な、なんだぁ!?」
「ちょぉ!なにこの魔法っ!地震魔法じゃないしぃ!」
「きゃっ!きゃあぁぁぁあ!!」
絡み付く茨をほどけば少し飛びあがったまま爆炎の中を飛ぶ。そして勇者の中で回復を担ってると思う彼女を捕える。
「・・・・・・」
「はなっ!離してぇっ!」
残りの2人の勇者は爆炎がなくなれば僕を睨む。僕はそれを見ながら捕まえた彼女とゆっくり唇を重ねる。嫌がり暴れる。勇者が魔法で僕を攻撃してくる。せっかちなやつは嫌いだ。
「・・・・・・」
「んっ・・・んんぅ・・・」
暫く接吻を続けていると彼女はトロンとした瞳を僕に向ける。
優しく唇を離して耳元で囁く。いつものように。
「大人しくしていれば危害は加えない。君の仲間にも。」
「う・・・うぅ。そうですか・・?」
「あぁ。約束しよう。暫くの間絶叫マシンにでも乗った気でいてくれ。」
「はい・・・・えっ!?絶叫マシン!?・・・・まさか魔王城で召喚された勇者って・・・」
「我のことだ。残念だが我は貴様ら人間と手を取り合う気はない。今のところはな。矛を収めるのなら我が主君も矛を収めるであろうが・・・・」
そう言いながら彼女を大事に抱きかかえる。か弱い人間の身体だ。雑に扱えるわけがない。
「・・・・我を嫌うか?」
「・・・・私にはわかりません。ですが・・えと、あの町には悪い人はいませんっ。だから街を消すのだけは・・・」
「案ずるな。盛っただけだ。我も殺傷は控えたい。」
「は、はい・・」
眼下に陣取る勇者2人を見る。ずっと魔法を唱えてくるが被弾はしていない。やはりこの子を思っての威嚇程度だろう。
ならば簡単だ。
「【忘却の嵐】」
軽く手を上げる。突風で勇者を地面ごと空中に吹き飛ばす。そして手を突き出せばそのまま別方向に勇者2人を吹き飛ばす。なるべく遠くに。戦力の分断は基本である。
「さて、案内してもらおうか。この町の市長に。」
「あ、あわわわわ・・・・」
テレパシーでワイバーンの部隊を呼び戻す。ついでに魔王への報告を終わらせる。
地上に降りれば叫びながら血走った眼で襲いかかってくる人間の兵を蹴り飛ばす。
力の差をはっきりとわからせるのだ。
―――――――――――玉座の間
「そうか。ラーズグリーズが・・・」
「やりましたね。今から交渉しに行くのですか?」
「そうなるな。近衛兵を連れて交渉する。」
まさか本当に降伏勧告が出来る状態になるなんて。
やはり我々は彼を見くびっていたところがあるんだろう。
そんなことより今は一刻を争う。早くしなければ。
―――――――――――要塞都市テールドフェル
「・・・・・・・」
ワイバーンを監視塔の上空や町の内部に抜け目なく配置する。
そして店の再開などを各商人に呼びかける。
こんな状態だが商売が出来ないと商人が逃げてしまい結果的に町の衰退につながるからだ。
ただでさえ魔物との戦闘の最前線に位置する場所の都市が陥落したとなると他の都市から援軍がすぐに来るだろう。
そうならないために最新鋭の注意を払って斥候などがいないか警戒させる。
「あ。あの・・・・ラーズグリーズさん・・・・」
「なんだ?我が貴様を離すと思っているのか。逃げられたらたまったもんではないからな」
「いえ・・・そうではなくてですね。えーと・・・恥ずかしかったです。とても・・・」
「・・・・ふん。すまなかった。だが・・・まぁ、我の伴侶にする気だからな。名前くらい教えてもらおうか」
とにかく貴様という言い方をやめなければならない。そのためにもこの子から名前を聞かなければ。
「私はシオンです。シオン・ナナセです。」
「シオンか。いい名前だ。」
「ラーズグリーズさんはこの世界に来る前は何をしていたんですか?」
そんな世間話がスタートする。一応敵同士なのに。なんとも気が抜ける。
「・・・・しかし我とシオンは敵同士だぞ。こんな仲良く会話してよいのか。」
「・・・えっ?だって・・・伴侶にするんでしょう・・?」
「あぁー・・そういうことか。・・・本気にしているのか?」
「ええ!?本気じゃないんですか!?」
驚かれたため少し驚く。しかしこの子が本気ならそのまま伴侶になってしまおう。
そう思った直後魔王が到着したと連絡が入った。
と同時に僕の目の前に魔王が現れた。
「よくやったラーズグリーズよ。」
「壁を派手に壊した。修復には時間がかかるだろう。」
「構わない。ここが取れるだけでも十分すぎる。褒美は何がいい。」
「・・・・それでは。この娘と番になる許可が欲しい。」
その言葉に魔王が少し固まる。まさか異世界から来てまだ数日しか経ってないのにもう嫁を見つけたのかということとこの娘が嫌がっていないということだ。
「・・・・まぁ許可はしよう」
「感謝する。しかし我が主君よ。こんなところで時間を潰していてよいのですかな?」
何のためにここに来たのかを思い出させるために問いかける。
そして魔王はまた一度僕を誉めてからこの町を治める町長の元に行った
―――――――――――平原
「要塞都市テールドフェルが陥落した模様です。」
「やはりか。軍を即座に再編成後奪還作戦を行うぞ。きっと魔王が呼び出した勇者が陥落を促したのだろう。」
「連弩も十分。大砲などの攻城兵器も十分です!」
城塞都市から少し離れた平原より王都から出征した大軍勢が動き出す・・・・・
シオン・ナナセ
勇者 性別:♀
異世界からきた3人目の勇者。得意魔法は回復関係。支援タイプのためよく後ろに配置される。
ロリ巨乳であることを気にしている。ファーストキスはラーズグリーズに奪われた。
高校生。部活は生物部。学校でウサギや鷹を飼っていたためラーズグリーズに対する印象はとんでもなく大きい鷲程度。なおキスされたときがっつり洗脳魔法をかけられているが本人は気が付いていない。