謎の部隊
――――――――――――――要塞
風月「おい。東方を攻めているケンタウロス部隊との連絡が途絶えた。どうなってんだよ。あいつら雑魚にはしっかり優秀な導き手が居ないと壊走するぞ」
要塞に戻れば単独で前線を支えていた風月が装備品の点検をしていた。着陸態勢に入っていたソル達に向けて大剣を振りかざす。
ソル「風月さん待って待って。サンセットにキティートも行ってるのよ。私達ハーピーの中でも族長クラスの猛者が支援に行っているんです。」
風月「猛者だろうがなんだろうが、進軍が進んでいるのか撤退したのか連絡が入んねぇからわかんねぇの。とっとと行ってこい。」
スノウ「んだと!?そんなに同族が心配ならてめぇが行けばいいじゃねぇか!」
風月「あ゛ぁ゛!?だいたい俺一人で師団単位の人間共を蹴散らしているんだぞ!お前らとは戦果も違うんだよ!指図すんじゃねぇ!」
スノウが物凄い剣幕で風月に向かって怒鳴り散らす。それを羽交い絞めして宥めるアヴァロン。ハーピーとケンタウロスはとても仲が悪いと聞いていたがここまで酷いのか。
ケンタウロスの暴虐無人な態度はハーピーと相性が悪いのが良くわかる。連携を大事にしているハーピーにとってみれば勝手に一人で無双するケンタウロスは制御できない暴風同然だろう。
ラーズグリーズ「ソル。我が行く。おい、風月と名乗ったケンタウロスよ。我が行く。それでその怒りの矛を収めてくれぬか。」
風月「……ちっ。青二才が。勝手にしやがれ。」
そう言い大剣を鞘に戻して自分が装備していた鎧などの点検作業に戻る風月。そして歯軋りし怒りを顕わにし続けるスノウを今も宥めるアヴァロン。
不思議なことにソル隊のハーピー達はスノウを除いて風月のあのような態度に嫌な顔を表さなかった。逆に何故スノウがあそこまで荒れるのかがわからない。
ソル「アヴァロン。スノウを休ませてあげて。東方支援任務には私とラーズグリーズだけで行きます。その他のハーピーは休憩してて。」
アヴァロン「大丈夫?働き過ぎは良くないからね。ステータスがガクンと下がるから。」
ソル「ふふ。みんなが私並みに強くなったら休憩は考えるわ」
アヴァロン達が心配そうにソルと話してから要塞に着陸していく。
自分以外が無事に着陸したのを確認すればソルが我の方に顔を向ける。
ソル「事態は急を要するわ。キティートとサンセットがいる戦場がなんで勝てないのか。原因は多分一つしかない。」
ラーズグリーズ「勇者か。」
我がそう言えばソルは深く頷いて東へ向かって加速していく。
――――――――――――――イーストフィールド(EZ22DA)
サンセット「なんでたった一人の人間にこがいな長時間足止めされにゃあいけんのじゃ!!さっさと森ごと爆弾で吹き飛ばせばええじゃないか!」
キティート「それだとケンタウロス達の身を隠す遮蔽物が無くなっちゃうんだよ!」
サンセットと生き残ったハーピーとケンタウロスの部隊が足止めを食らっているのが遠巻きからだが確認できる。少なくともこの戦場に支援攻撃を行うために飛んで行ったハーピーの数と現在飛んでいるハーピーの数が一致しない。
ソル「キティート!助けに来たよ!どうしちゃったのよ!」
キティート「ソル!やった助かった!時間が無いから手短に状況を説明するよ!」
どうやら森の中に少数の鉄砲部隊が潜んでいるらしく、進軍しようとするケンタウロスを恐ろしい精度で打ち抜いているらしい。
そして使われているのも只の鉄砲ではなく異常な貫通力と射程を誇る謎の武器らしい。
ソル「高速で飛び回るハーピーすら射貫くの!?」
サンセット「わしもさっき腹を撃ち抜かれた。おまけに落とした爆弾も瞬時に撃ち抜かれてさ。対空の鬼じゃ。あそこにおる人間共は。」
サンセットがそう言いながらソルに合わせて再度突入する。その瞬間森の中から物凄い射撃音が響けばあっという間に弾幕が展開される。当然サンセットが無理をして投下した爆弾も空中で爆発する。
キティート「サンセット!ソル!無策に突っ込んでは駄目よ!」
ラーズグリーズ「大丈夫だ。こういった敵は段階を踏んで突撃すれば良い。サンセット、ソル、我の順で再度突入する。」
何回か弾幕を回避しつつ何回か怪しい場面を襲撃する。被弾はサンセットだけに抑えられているためやはりソルは強者に入るのだろう。
ケンタウロス達も遮蔽の中から適当に射撃を行うが手応えが無いのかすぐにやめてしまう。
キティートが首を傾げれば「進軍」の号令をかける。ケンタウロス達は戸惑っていたが重装備のケンタウロスが突撃すればもぬけの殻という結果だけが得られた。
キティート「あー。あー……見事に足止めされたねぇ。綺麗にもぬけの殻だ。取らせるものはないぞって。まだこんなに練度が高い部隊が居たんだねぇ。」
ラーズグリーズ「なんにせよこれで進軍できるのだろう。早く兵を進ませた方がいい。」
ソル「陸は補給部隊が大変だからねぇ。ただ、遅れを取り戻すためには仕方ないわね。」
キティート「ソルってAWACSの試験落ちてたよね。何点だっけ?」
ソルとキティートが相談をし始める。今この場で今後の進軍ルートを決めたりなどあるのだろう。暫く遅れてハーピーの別の部隊が進軍を続けているケンタウロスの部隊と合流したと連絡が入った。
キティート「よし。後は引き継ぎのAWACSのハーピーが指揮を執ってくれるはず。私達は魔王の言っていた通り中央ルートを強襲していきましょう。」
サンセット「わし怪我しとるけぇ少し休憩と治療を欲しいんじゃけど」
キティート「うんうん。要塞にちゃんと看護部隊を駐屯させているからそこまで頑張れる?」
サンセット「はぁーい」
生返事して先に要塞の方角へ飛んで行くサンセット。負傷しているネクサス隊とネメシス隊もそれに続いて飛行していく。
ラーズグリーズ「我も元の持ち場に戻らせてもらおう。本来中央陣地の上空を担当しているわけだしな。」
キティート「そうね。私達ハーピーはラーズグリーズの指揮権を一時的に放棄します。後は魔王の指揮などに従ってください。」
キティートが真面目にお辞儀して我に挨拶をする。今回は要塞までハーピーと共に飛んでその後要塞から人間の本拠地である聖都フィヴァルまでは魔王の指揮に従うことに一応なっている。
そのため今後の指揮は魔王から直接聞かなければならない。しかし魔王は要塞に来ているのかすら怪しいため事実上単独で自分の頭で考えて敵を攻撃しろということだろう。
様々なことを考えながら我は要塞まで一人で飛んで行く。
――――――――――――――要塞
ラーズグリーズ「さて、今後の進軍ルートを予測するために必要なものは……」
一部が滅茶苦茶になっている要塞を散策する。城壁などは急ごしらえの整備がなされているが中身は窓が割れていたり天井が崩れていたりしている。
そんな中で一番丁寧に整備されたと思われる場所は中庭であろう。ここは人魚が演奏するために整備されたため城壁よりも早い段階で使用可能な状態になっていたのだろう。
ラーズグリーズ「この要塞はどう活用したんだか。」
中庭の淵に座り腕を組んで考える。中央とはいえ人間の国の中で一番の大国の首都にはまだまだ遠い位置の要塞である。あくまでも極北部の中央であるしここから先はだんだん戦域も広くなっていく。ハーピーの数が足りなくなるのと同時に魔界と繋がっている場所が遠くなっていくため補給などのことも考えなければならない。
何処かに高速で物資を大量に運べるハーピーが居ればいいのだが戦闘中にしろ移動中にしろそんな理想的なハーピーは見つからないだろう。
ラーズグリーズ「やはり眠っている人材か、もう別の場所で働いているのかだな。きっと居るであろう高速移動が出来るハーピー等を物資輸送に役に立てなければ。」
立ち上がればハーピーやケンタウロスの産業がどうなっているのかを思い出しつつ、地図を確認するため要塞の会議室に向かって歩いていく。




