夜空
――――――――――――――要塞を越えた平原
ソル「要塞を落とした夜は休憩じゃなくて哨戒任務だなんてねぇ……ま、前の時も私が単騎で前線を飛んで偵察していたんだけどね。今回は一緒に飛べて嬉しいわ。今後とも仲良く生き延びましょう。」
ソルが我の前に飛び手を振ってくる。後方ではキティートが飛ぶ戦場とは違い哨戒任務では特定のハーピーしか飛ばないように指示されている。そしてその特定のハーピーは【クリティ航空戦術試験:偵察】を合格しなければいけない。この試験の簡易的な物を教えてもらったが他愛もない内容だった。
ラーズグリーズ「ソル。貴様はハーピーだろう。なぜそのような巨躯なのだ。」
ソル「わからない。ただわかることは一つだけあって。私って何度も同じことを繰り返しているのよね。気が付いたらまたあの朝を迎えるの。ある日、死んだと思ったら生きてるの。時間は戻っているけどね。」
不思議な話だった。何度も何度も時間の流れから外れた動きをしているとのことだ。そしてソルは前回の戦争の時は人間が勝ったと言い切った。我は正体不明の攻撃に殺されてその後はズルズル負け戦を繰り返し終了。
ソル「前の戦いでの貴方は確かに凄まじかったわ。でも負けた。理由がわかる?」
ラーズグリーズ「ふん。魔族の足並みが揃わなかったからだろう。」
ソル「そう。それもあるんだけどそれ以上の問題があったの。」
ソルがクルリと器用にその場で方向転換して我の方に向く。
ソル「貴方が死んだから神を殺せなかった。今回こそ、この世界を時間の渦から救い出す。私が死んでもラーズグリーズ。貴方を神の元まで飛ばし続ける。前回のような失敗はしない。」
ラーズグリーズ「ふむ。つまり我が途中で死亡したから神を殺せなかった。神を殺せなかったから人間が神の後押しがあったために抵抗できず敗北したと。」
ソル「そゆこと。死ぬんじゃないぞ。使えるものは全て使って生き延びてね。」
険しい顔付きをしながらも遊ぶようにグルグル大空を飛ぶソル。哨戒任務である以上ふざけることはあまりしたくないのだがどうやらソルはそんなに真面目に飛ぶ気はないらしい。
ラーズグリーズ「なぜ真面目に作戦をこなさない。日が昇っていた時もそうだが貴様の力なら我を使わなくても先制攻撃で敵を全滅できただろう。」
ソル「新米の育成もやらなきゃいけないのよ。命が賭けられてる実践こそ生き物は最も集中するわ。」
ラーズグリーズ「それはわかるが真面目に作戦を遂行しない理由にはならないだろう。」
それを言うとソルがクルリと一回転してから空中に立ち止まる。そしてため息を吐いてから我の方に向いて首をゆっくり横に振る
ソル「働き過ぎも良くないわ。適度にサボるのも大事よ。私が見てきた異世界の中には働き過ぎて自殺とかしちゃう人がいた世界もの。」
ソルがそれを言い終わると同時に誰かから通信が入る。
???「ソル。ラーズグリーズ。二人ともおしゃべりするのはいいけどさ。しっかり仕事はしてよね。今回の哨戒任務は敵軍の陣形とかも見なきゃいけないんだからさ。」
ソル「あっはっは。ごめんごめん。」
笑いながら肩をすくめれば再び我の前飛ぶソル。そういえば先ほどの通信の相手は誰だったのだろうか。
――――――――――――――要塞内中庭
要塞内ではケンタウロスやドラゴンが次の作戦について話し合っている。時折声を荒げてお互いの意見をぶつけ合ったりしている。
スピリット「夜ですが何か演奏しましょう。」
その声に人魚達が「えぇー!」と声を上げる。昼間にあんなに演奏したのにこれからまた演奏するなんて疲れるだけだろうと文句を言いたそうに指揮者であるスピリットを見る。
スピリット「その前に今日演奏した曲を報告してください。予定した曲をしっかり演奏できたのか確認します。」
スピリットが手を空中で横にスライドさせれば青い光を放つ楽譜が表れてスピリットの目の前にふわふわと漂う。
スピリット「第1班。第1班の担当は【桃太郎電鉄15】の【ノスタルジック・トレイン】でしたね。演奏しましたか?」
第1班班長「はいっ!大好評です!やっぱり平原との相性は抜群ですね!ただケンタウロスからもっと早い曲を演奏しろと言われちゃいました。電撃戦には向いてませんね。」
スピリット「わかりました。第2班。第2班の担当は【ドラゴンクエスト8】の【雄叫びを上げて】でしたね。テンポは通常よりも早くしましたがどうでした?」
第2班班長「やりすぎて敵も味方もボロボロですよ。この曲は燃え上がりすぎます。弦の負傷者の手当てをしてやってください。」
苦笑しながら今日の演奏における各班の反応と戦果を照らし合わせるスピリット。終戦までこのように各種族に合った曲を選ばなければいけない。ファイナルフロンティア軍楽隊以外にもこの戦場に出てきている楽団はまだ居るだろう。その楽団長とも話をしなければならない。
スピリット「まずはハーピーのところに行ったオリンピア軍楽隊に行きましょうかね……」
――――――――――――――オリンピア軍楽隊陣地
スピリット「ファイナルフロンティア軍楽隊第1指揮者スピリット=オブ=マーメイドです。オリンピア軍楽隊の今後のスケジュールを聞きに来ました。」
???「わざわざこんな小規模楽団のところに!ご足労頂きありがとうございます!」
魚部分はオレンジ色で褐色肌の人魚が急いで出てくれば頭を下げる。スピリットは慌てて顔を上げる様に指示する。
スピリット「同じ音楽に携わる者です。上下関係はあまり持ち込まないようにしましょう?貴女がクレッセント=フォートナイトさんですか?」
クレッセント「はい!私が当オリンピア軍楽隊の楽団長であるクレッセント=フォートナイトです!ファイナルフロンティア軍楽隊のご活躍はよくお聞きします!よろしくお願いしますね!」
ニコニコと笑いながらスピリットを案内する。タキシード姿のスピリットとラフな格好のクレッセントの並びでは楽団の差がはっきりとわかってしまう。
スピリット「では今日演奏した曲と今後の予定曲をお聞きしたいのですが……」
クレッセント「今日演奏した曲は【エースコンバット7】の【Blockade】です!今後もハーピーに合った曲を選曲しますので基本的に【エースコンバット】や【エリア88】とかの曲ですねぇ。」
スピリット「エリア88の譜面復元できたんですね?」
少し驚くスピリット。人魚が演奏する曲は大半が異世界で作曲された物ばかりだ。そして異世界から持ってくる際大体は粉砕してしまうので譜面を組み立てるところからスタートしなければならない。その過程で別の曲が制作されたりと譜面集めも楽ではないのだ。
スピリット「オリンピア軍楽隊は引き続きハーピーに対して演奏を続けてください。」
クレッセント「ファイナルフロンティア軍楽隊は何を演奏したのでしょうか?」
スピリット「ふふ。いつものですよ。反応はまちまちでしたが大半は予想通りでしたよ。」
クレッセント「大所帯だと管理も大変ですよね。お疲れ様です。」
その後も雑談しながらスピリットは様々な楽団を回り今日演奏した曲と今後演奏する予定の曲を確認していく。
――――――――――――――要塞内中庭
スピリット「ピアノの方。今日は出番が無かったはずです。引きたいですか?」
???「引きたいでーす!!」
担いでいたピアノを丁寧に降ろしてキラキラと目を輝かせながら泳いでスピリットの近くに来る子供っぽいピアノ担当の人魚。そして首を縦に振れば「これやりたい!」と譜面を提示する。
スピリット「アハハ……これやるのかぁ……」
苦笑するスピリット。提示された譜面にはこう書かれていた
【ラフマニノフ ピアノ協奏曲第2番 第一楽章】




