準備
――――――――――――――平原
「はぁー・・・」
「げんなり・・・」
要塞都市があった場所に次々に魔族の兵士たちが次々集まってくる。
龍人・ハーピー・ケンタウロス・獣人・悪魔・・・
勿論仲が悪い種族は離れるように隊列を組み始める。
「なーんでこいつらとまた侵攻しなきゃいけんのー!信じらんなーい!!」
「ちょっとー!次うちら落としたらまた爆撃するからねー!!」
「うるせぇーー!!ちまちま飛んでる暇あったら前線に飛んでけアホ鳥!!」
「平地でしか活躍できねぇのに文句言うんじゃねぇ!!」
相変わらずケンタウロスとハーピーの陣地から互いに罵声が飛び交っている。
そんな罵声を遮るように不思議な四角形の吹き出しを出しながら兵隊の中を会話しながら移動するチームがいた。
「おいおい・・・ドッター連中も参加すんのか?」
「あいつら戦えるのか?」
ドッターと呼ばれる彼らは確かに周りの人物と比べてどこか違う世界の雰囲気に包まれている。
とことこと歩き回っては吹き出しで司令官と会話する様子は不思議極まりない。
そんなチームが陣地を歩きケンタウロスとハーピーがまだ罵声を飛ばしあっている時に様々な服装をした人魚達が楽器を担いで陣地の後方に集結し始める。
ファイナルフロンティア軍楽隊の面々を筆頭に様々なオーケストラ所属の人魚が一団また一団と各陣地に進んでいき各戦術に合った曲を選定するために会議を進めていく。
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「今回の戦術は・・・まぁ私らはかわらんね。ラーズグリーズ。初めまして。」
「・・・・・・・・・」
「もぅー。笑って笑って。笑顔大事よー?」
今回魔王の命令でハーピーと共に作戦を遂行することが言われた。
その結果ソルの部隊と共に空を飛ぶことになった。
そしてソルの部隊は飛ぶ速度が遅い超大型のハーピーの護衛が主な任務になっている。
「・・・・もー。笑いなさいよー。」
腰に手を当ててふくれっ面をするソルをまぁまぁとなだめるキティート。
この雰囲気はどことなく苦手だ。
「あのー。今回私ら都市爆撃専用装備だからいつも以上に足遅いよー?」
「そそー。俺達の防御力そんな高くないからさー。ちゃんと守ってくれよー?」
黒い羽毛で統一されているソルよりも巨大なハーピー達が集まってくる。
そこへ人魚の楽団長がやってくる。
「ソルさん。お初にお目にかかります。オリンピア軍楽隊の楽団長の・・・あれ?」
「うおー。ちっさ。人魚こんなに小さいんだー。」
「あー。人魚だ。」
そう言いながらきっちりとソルの元に楽団長を送り届けるハーピー達。
その後各部隊の伝令班が各陣地を駆け巡り侵攻開始時間などを告げていった。
「ラーズグリーズ。貴方にはサンセットの直掩に当たってもらいます。」
「サンセットは誰だ。あの黒いハーピーの中にいるのはわかっているが・・・」
「サンセット。サンセット!!」
ソルがそう叫びながら爆撃部隊のハーピーの中から一人我の前に立たせる。
彼女がサンセットと呼ばれるハーピーらしい。
「おー。きみがラーズグリーズ?わしはサンセット。よろしゅうねー。」
ショートヘアの女性のハーピーが我に話しかける。
少し訛りが強いが気さくな女性らしく羽根を振る。
「我は貴様らの速度がわからない。足並みが揃わないかもしれないぞ。」
「おー。そんなん気にせんでもええじゃろ?わしらが到着する前に敵をパパッとやっつけるだけじゃし。そがいな難しゅうはないじゃろ?」
「・・・・まぁ。」
「わかっとったらええんじゃ。それじゃあよろしゅうー」
そう言えばまた人魚の方に戻ろうとするサンセット。
しかしその前に体の上半身だけ器用に振り向いて我にこう伝えてくる。
「あ。わしが一番機じゃけぇ。よう覚えといてね。危ない思うたらわしに言うてー。そしたら突入の時間を再調整するけぇ。そうじゃないと勝手に突入してしまうけぇのぉ。」
「・・・・・」
「黙っとらんで返事してよー」
「・・・・・・わかった。」
その返事が聞こえれば笑顔になり人魚の楽団員との会議に入っていくサンセット。
我は暇になったため少し目を閉じて考える。
この侵攻が成功したらどうなるのか。失敗した場合は。
新しい勇者は召喚されたのか。今回はどこまで兵を進めるのか。
そう考えているうちに意識が遠のいていった。
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「起きろー。そろそろ出撃の時間じゃー。」
サンセットのその声で我は起こされた。
各陣営なにをどうするか大まかに決まったらしく各々準備をしている。
ケンタウロスのファランクス部隊は既に隊列を組み終わり後は前進するだけ。
獣人の偵察部隊が戻ってきてさらに新しい情報を各陣地の司令官に伝える。
「・・・・ええ加減にせにゃあ。蹴るよー」
「起きてる。・・・まだ考えが纏まってないんだ。」
「考え?わしらは人間の街を消し飛ばす。ただそれだけなのに何をいまさら。」
少し困った顔をしながら肩をすくめ我の言っている意味が分からないとジェスチャーする。
「人間がハーピーの対策を怠っていると思っているか?」
「あーん。そりゃありえん。だって精鋭部隊が復帰したなぁ流石にバレとるじゃろ。でもわし達は目では見えんけぇ。いざとなれば誘導切るだけでしゃーなーけぇ関係ないし。」
「・・・・・・」
「大丈夫って言っとるのー。わからんー?」
まだ会ってから二回目の会話だから慣れてないのもあるがやはり何かと不安になる。
こちらが支持を出してきっちりそれをサンセットが他のハーピーに伝えることが出来るのか。
というか他のハーピーはこの訛りをどう思っているのか。
「あー。話しにくくはないのか?」
「話しにくい?なんでまたそんなんを聞くの?話が通じよるけぇ今ここまで生き残りよるんじゃん。」
確かにそれもそうだ。1番機というのだから今まで僚機が撃墜されてないのなら話は通じているのだ。
やはり寝てしまった以上思考能力が少し低下しているのか。これから戦場の空を飛ぶのだ。
しっかりしなければ。
「まぁ、寝起きじゃけぇの。ボケてるなぁ仕方ないか。水飲んできんさい。・・・・すぐ!」
ゲシッと我を軽く蹴れば水場を羽根で指差す。
そこでは人魚が軽く水を配っていた。
「・・・・・」
「どのくらい飲むー?沢山でいい―?」
黙って頷く。そしてガラスのコップに水を注ぐ人魚。
溢れそうなほど水が注がれたコップを持ち上げて中の水をすぐ飲み干せばサンセットの元にすぐ戻る。
「遅い!次からはもっと早う行動してね。」
「そんな無理強いをするな・・・」
「実際しっかりしとったらこがいなかばち言われんでもええんじゃけぇ。これから戦場なんじゃけぇしっかりしんさい。」
そんなことはわかりきっている。
そう言おうとしたがまた新たに変なことを言われても困るから黙っておく。
そもそも守られる立場なのにこんな態度なのかと一瞬困惑してしまう。
「貴方がしっかりせにゃあわしらの作戦が失敗したりするんじゃけぇ。こがいなかばちや面倒事を言うなぁ当たり前じゃない。」
頬を膨らませながらそう言いつつも他の爆撃任務を帯びているハーピーに細かい通達をするサンセット。女性ながら一番背丈が高いため実は搭載できる魔力量が多い。
そのため一番爆撃できる1番になっているのだ。
「さて。・・・・演説が始まるよ。どんな大義名分が飛び出すのやらー。」
ケラケラ笑いながらもソルがハーピーの面々を静かにさせる。
そして魔王の演説が始まる。
サンセット
所属:クリティ山脈
性別:女性
種族:ハーピー+超大型種
体長49mの黒羽毛のハーピー。
独特な喋り方(広島弁)をするため初めて会話する人相手にも平然といつも通り訛った喋り方をする。
爆撃を主としているアタッカータイプ。
武装は爆弾系で統一されている。
そしてその爆弾も一度に数十発投下できる性能を保有しているため制空権の取り合いが起こっていないこの世界では護衛を要請する金額に対しての成果が物凄いためソルより人気。
なのでそろそろ休みが欲しいとプンプン怒っている時がある。
対地に特化しているためソルに比べると弱くみられるが彼女が対空をやり始めたらどうなるのかと様々なハーピーが気になっている。
残念ながら空母級の人魚には重すぎるため着艦できない。
爆撃部隊【夕日】の1番機。
ソルよりもステルス性能は高いため誘導性の魔法はほぼ当たらない。
「わしを目視出来んのなら諦めて他の相手を探しに行くことじゃのぉ♪」




