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英雄の旅路  作者: トンヌラ
20/30

散歩

――――――――――――――ドラゴマウンテン/九頭龍城/資料室


「らあずぐりいずよぉ~。終わったかの?」



仕事が終わったので資料室に戻ってみた。

ラーズグリーズのことだ。どうせ面倒くさくなって逃げたか真面目に資料集を読んでおるだろう。

羊皮紙にはどんな悪口が書かれているのか。

凄く気になってわくわくした。


「・・・・・・・・」


現実はある意味非情である。

ラーズグリーズは地面に寝転がり寝ていた。

そして資料集はそこらに散らかっていた。

嫌な予感がする。そう思い書けと命じておいた羊皮紙の束を見る。



♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯


嫌な予感は当たるものだ。

妾はいったい何分固まっていたのだろうか。


羊皮紙には何も書かれていない。

という残念な結果ではないが意味不明な文字の羅列が綴られている。



この文字は見たことがない。

というかラーズグリーズが居た世界の言葉と捕えるのが自然であろう。

つまり。ラーズグリーズは我々の世界の言葉を聞き取れても書けないということだ。


確かにまぁこの世界の農民や奴隷は読み書きできれば優秀に入ると思うが貴族や兵士が読み書きできないとは何たることだ。

というか!!何故お主はそのことをまず初めに言わなかったのじゃ!!



「・・・・こほん。頭の中で一人でブチ切れしててもしかないの。」



自分を落ち着かせながら手を鳴らして呼んだメイドに資料集の片付けを開始させる。

全く。読み書きが出来ないのならこの読書も意味をなさないだろう。

それがわかってからラーズグリーズは寝たのだろうか。

色々と考えを巡らせながらたどり着いた結論。



「ここならそんな大層なことが起きない限り安心して寝れるからの・・・」


ラーズグリーズ。この希望の凶鳥は戦場で戦っては絶命寸前になって舞い戻ってきていた。

そんな彼も元は人間なのだ。その圧倒的な能力に間違える魔族もいるだろうが。

安全な場所。そして守られてるという安心。


様々な要素が重なって今こうしてラーズグリーズは寝ているのだろう。

それ故に少し可笑しく感じてしまって笑みがこぼれる。

妾が味方と信じきっているその姿。戦場で無双する鬼神とは思えぬ。

今ここでこの鳥を焼き鳥に調理してやろうか。



そう思ったとたんラーズグリーズが飛び起きて妾から距離を取り睨みつけてくる。

なるほど。ぐっすり熟睡していた割には危険察知能力はしっかり働いておるの。



「・・・・・・・・・」

「無言で睨みつけるでない。印象が悪くなるぞよ。」


そう言うと警戒を解くラーズグリーズ。

やはり妾を信用しておるのじゃな。そう思いラーズグリーズに近寄り首を撫でる。

首を撫でられればラーズグリーズは首を振り体を震わせる。


少々可愛いと思ってしまった。




「それで。我になんのようだ。」

「らあずぐりいずよ。お主読み書きから始めるぞ。・・・・まぁ妾が特別に付きっきりで教育してやろう。」

「・・・・・」



また嫌そうな顔をするラーズグリーズ。

全くこの鳥は手がかかるのう。



――――――――――――数日後



「うむうむ。読み書きはまだ不安要素はあるが大丈夫であろう。」

「・・・・・・」

「というか魔王とかなどとの交渉はどうしたのか。・・・・と思ったが口頭でのやり取りを書けばいいだけじゃなぁ・・・」



とにかくこの数日で妾とラーズグリーズはいろいろやった。

国内外の情勢を集めたり市場の価格を見たり兵士の訓練を覗いたり。

そうこうしていたら国内でラーズグリーズが妾の婚約相手であるとの噂がひとり歩きしていき妾に面会を申し込む有力な貴族が急増した。

それだけが辛かった。なんせ会いに来た貴族は妾と婚姻を結んで次期魔王の座を狙おうとしておる愚か者ばかりであった。ラーズグリーズが戦争を早期に決着させてくれると考えてだろう。



「ウィーヴァ―。貴様はなぜ結婚しない。」

「うーむ。・・・言ってしまえば魅力的な殿方じゃないのじゃ。皆ずるがしこく妾を利用するだけ利用する気であろう。それが気に食わん。」

「ふむ。」

「・・・・それに皆妾の身体を見過ぎじゃ!!節操がないっ!妾との見合い中に乳首や谷間ばかり見おってっ!」


今の妾は悔しそうな顔をしているんじゃろうな。

そもそも妾も好きでこんなダイナマイトボディになったわけじゃないぞっ!



「ウィーヴァ―。かなり失礼なことを聞くが。経験人数・・・・まぁ股を雄に開き腰を振ったことは何回ある。」

「・・・・・・・・お主死にたいようじゃな。」



流石にラーズグリーズといえども失礼である。

というかそんなこと聞く雄なんか信用できない。

やはりラーズグリーズもそこらへんの馬鹿共と同じなのじゃなーと思ってしまった。



その後は沈黙の時間だった。

妾としては話したくはないしラーズグリーズは元々寡黙じゃった。

・・・仕方ない。今回は特別にこっちから折れてやるとしよう。



「らあずぐりいず。貸しじゃからな。」

「構わん。やっと言う気になってくれたのならそれでいい。」

「・・・・妾・・・実は経験したことがないのじゃ・・・」



そう言うと別に驚きもしないラーズグリーズ。

そうであろうな。雌に手を出しまくっている雄からすれば・・・・

うう。卑屈になってしまってはいかん。


「もったいないな。何故その美貌と権力で自分の理想の殿方を見つけない。」

「いないからじゃ・・・・」

「確かに理想が高いのはわかるさ。でも、今後死ぬまで連れ添うことになる雄なんだぞ。妥協するなんて許されるわけないだろう。」

「らあずぐりいずよ・・・お主に何がわかるというのじゃ。」


少しイライラしながら問い返す。

不毛な争いになることなんて容易に想像できるがラーズグリーズの言っている意味が分からぬ。



「わからないのか。ウィーヴァ―。・・・我が頑張ればウィーヴァ―は我のことを見直してくれるだろう。そして殿方の候補としても名が挙げられるだろう。」

「・・・・らあずぐりいずよ。まさか妾を娶ろうと考えておるのか?」

「先に挑発してきたのはどっちだったか。」


そう言い首を横に振るラーズグリーズ。

はぁ。今回の政略結婚的な見合いはもうこりごりじゃ。

いい加減嫁入りを果たし、温かい家庭が欲しいことじゃ。


・・・・・まぁ妾と結婚し共に暮らすということは次期国王みたいなものになってしまうがの。

というかそのプレッシャーがあるから元々の候補者が少ないのでは。

うーむ。いろいろと悩む要素が多すぎるのう。



とにかく今は目下の安易な目標から潰していくことにしよう。

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