面倒
――――――――――――ドラゴマウンテン/上空
「ふふ。やっぱり空は楽しいのう?」
そういいながら我の横を悠々と飛行するウィーヴァ―。
ベタベタ抱きついてくることも無ければ一気に引き離すこともなく本当に散歩のような遊覧飛行だった。
途中確かに抱きつかれたりされたがそれでもキスはしなかったしそんな性的興奮を抱くまででもなかった。
「らあずぐりいず・・・・うーむ。呼びにくいのぅ。・・・よし。別の名を考えておこう。」
「やめておけ。混乱を招くだけだ。」
「そ、そうかのぅ?」
首を傾げながら我の顔を見る。
そもそも名前は本来ならそう簡単に変えていい物ではないと思っている。
複数の呼び名は確かに場面によって使い分けれるが場合によっては自分の本当の名前を見失ってしまう。
「我はラーズグリーズだ。それ以外の呼び名は・・・まぁ好かぬな。」
「ふーむ。それなら仕方ないのう。・・・さて、らあずぐりいずよ。そなたは我が国の経済が貿易で回っているのは知っておるよな?な?」
威圧するように我を見る。流石に苦笑いするしかない。
そもそも我はウィーヴァ―の国のことなど知らぬ。そもそも知っていても今の時期に必要あるかと自分の中で問う。
「ふん。将来この国を率いるかもしれぬのにそんな無知じゃだめじゃ。戦地から離れとる今の内にいしっかりと勉強すると誓うのじゃ。いや、やれ。」
「断る。」
面倒になりそうだったからきっぱりと断る。
しかし断った直後我をチョップするウィーヴァー。軽く頬を膨らませて首を横に振る。
やはり拒否の手段はないようだ。ここで強引に逃げてもいいのだが炎王にも迷惑がかかってしまうと考えるとやりたくはない。
「らあずぐりいずよ。まず一つ。妾は自分より圧倒的に強い豪傑が好きじゃ。それは直感でわかるであろう?」
「まぁ・・・炎王の娘ならそれに合う雄もそれ相応に強者ではないとな。」
「そういうことじゃ。らあずぐりいずよ。お主は確かに豪傑じゃ。・・・・しかしな。お主は国同士の繋がり。その他、物資や人の流れ。兵士の練度及びその国が訓練にどれほど予算を編んでいるのか。そこまで考えて兵を集めねばならぬ。らあずぐりいずよ・・・兵士は呼べば集まる【物】ではないぞよ。」
そういいながらゆっくりと首を横に振るウィーヴァ―。
今まで一人で戦ってきた我には関係ない。
だが、今後最初のように兵士を集めろとなったり指揮をするとなると話は変わってくるだろう。
つまりウィーヴァ―は我に今後の戦闘のことについて心配している。
確かに。我が一人で戦った時は必ず負けていた。
「お主が敵軍と相討ちして負傷しているのを聞くのはもう嫌じゃ。いつその命を散らすかわからぬからな。」
「・・・・我だって好きで負傷してるわけではない。」
「そうやって強気になっておるから怪我をするのじゃ。・・・お願いじゃ。無茶な戦いはもうやめてくりゃれ。お主はこの魔界で生きる者の希望なのじゃから。」
溜息を吐きながらウィーヴァ―がそう言う。
魔界で生きる者の希望?なぜ我がそのように言われたのか全く理解できなかった。
確かに我は人間と魔族を調停させようと思っているが人間があのような勇者を召喚し続ける限り不可能だと考えている。
それに我だけが猛者な訳ないだろう。ダイアナ女皇も魔王もその気になれば我並みの能力はあるだろう。
「・・・なぜ我が希望なのか。それがわからぬ。」
「簡単な話じゃ。あのボンクラ魔王では人間なんか操れんわい。せいぜい魔界の荒れ地を農地に変えるのが関の山じゃ。・・・・アールバシオン共和国だったか。あの国の元首を魔界に単身突入させたきっかけを作ったのはダイアナ嬢じゃ。魔王の働きかけなどない。」
「つまり本格的な交渉。というか停戦協定からの講和条約か。」
そう言うとウィーヴァ―は頷く。
ダイアナ女皇では傲慢な王と対話は出来ない。魔王はそもそも交渉が苦手であること。
しかし我は傲慢な王とも対話できそして異世界から来た。更に言えばラーズグリーズという化け物は幾度となく人間の軍隊を退けることが出来るステータスを所有している。
「・・・・・建前はこれくらいでいいかの。」
「・・・というと?人間との共生の後にやりたいことでもあるのか。」
そう聞くと激しく頷き目をキラキラさせながら我の身体を揺さぶる。
余程のことがない限りこの反応はしないだろう。
「本音はなんなんだっ」
「・・・・ご、ごほん。今の行動は口外禁止じゃ。よいな?」
「・・・・・・」
「な、なんじゃ。その目は。・・・・とにかく!!妾はもう各魔族の特産品などとうに見飽きたのじゃ!!!人間界!!人間界にはどんな特産品があるのか。それが知りたいのじゃ・・・・いや。厳密に言えばそれ以外も知りたいのぅ。」
しゅんと項垂れながら溜息を吐き何かを考える。
人間世界に行くならばアールバシオン共和国に行けばいいと思っているのだがどうやらウィーヴァ―はそう考えていないのかもしれない。
「アールバシオン共和国には行かないのか?」
「・・・・それも考えたがの。妾がこの国を離れられると思っているのかぇ~?」
「・・・炎王の娘なのだろう。従者とか従えてなければならないのか?」
呆れた声で回答する。
その時ウィーヴァ―は我の前に立つように飛行する。
我も勿論ホバリングをする。そしてウィーヴァ―を見る。
「・・・・はぁ。らあずぐりいず。我が国の士官の能力を教え込む必要があるの。暫くは妾がこってり絞ってやるゆえ、覚悟しとくがよい。」
「・・・戦争はどうする。」
「聞いておらぬのか。エリアアルカディアの長玄馬風月殿が単騎で人間界に侵攻しておる。」
初めて聞いた。
そんな顔をしていたのだろう。我はまたウィーヴァ―にチョップされた。
国際情勢に疎いというか戦場に出ずっぱりだったからか。
魔界内部の情報は確かに足りなさすぎる。それも考えての指導だろう。
「はぁ・・・・らあずぐりいずよ。お主は国外より国内の情勢のことを学んだ方が良いじゃろうな。」
「・・・・・・・・」
「不満そうな顔をしても許さぬからな。・・・なに?文句あるかぇ?」
ずっと沈黙を貫こうとすればチョップされ何か言おうと思っても失礼なことは言えない。
確かにこれは結婚相手もかなり限られるだろう。
しかしなんだろう。結婚というかなんというかウィーヴァ―は戦闘を熟知しているのだろうか。
色々聞きたいこともある。この娘は本当に我を操ろうとしているのだろうか。
それとも・・・・
「ウィーヴァ―よ。・・・我の力を欲するか。」
「・・・・勿論。お主こそ次の王になるに相応しい豪傑よ。・・・こんなこと言うのも癪じゃがお主は雌を侍らせるのが他の貴族に比べると桁違いに抜きん出ておるんじゃ。人魚も今後が大変じゃろうな。お主の子がポンポン山のように産まれてくるであろうて。」
「そうか・・・・」
ウィーヴァ―はくすくす笑いながら我の横に飛行してくる。
そして静かに耳に囁く。
「頑張ったら褒美を取らす。その代りしばらくは国内視察と勉強漬け故覚悟するとよい♪」




