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英雄の旅路  作者: トンヌラ
11/30

撤退

――――――――――アトランティス/大海湖/魔界と地上をつなぐ穴付近/駐屯所




上空に現れた黒い大型の鳥人。

まさしくラーズグリーズだった。

その姿は要塞都市を攻めた時くらいまでに力が戻っている。

そしてこのことは兵士を逃げさせるには充分だった。


「お、おい。逃げようぜ。」

「でも逃げたら・・・」

「ばかっ!ここであの化け物にわざわざ殺されるためにここに来たんじゃねえ!」


そう叫びながら自分だけ逃げようとする兵士が少数現れる。

そこからはもう限界が見えた。

次々に自分もと散り散りになる兵士。もっともこの時逃げたのは大半がマスケットを持った奴隷や農民だったため戦力は激減。

唯一ラーズグリーズを落とせるかもしれない魔法使いの兵も連戦の疲れから首を横に振る。


「こうなったら俺達で倒すしかない!」


ミナヅキが剣を掲げる。

そして兵士たちは勇者や雇い主の領主などを見捨てて逃げる。

残ったのは近衛兵や逃げる勇気が無かった者だ。


「ラーズグリーズ・・・」


サリーが恨みを込めた目でラーズグリーズを睨む。

仲間を一人連れ去りそしてハジメを殺したのだから。


「サリー!一気に片づけるぞ!この前より強くなっている俺達ならあの化け物を殺せるはずだ!」

「当たり前。殺された人の恨み。此処で晴らす!」



二人の勇者は空を飛ぶ黒鳥を睨む。





♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯



「やはりいたか。」


魔界に戻ってみればやはり人魚の国アトランティスの近くに人間の軍が待機している。

そして全然侵攻できていないことに安堵した。

人間の国に勇者がいないことなど少し考えれば理解できる。我を捕えて勇者が王都に戻ったのならそのまま魔界への侵攻を進めるだろう。

要塞都市などあんなものは見せかけだ。あの都市は魔族にとってみれば守りに徹しすぎているため意味がない。周りも森林のため飛龍が飛んでも大した警戒網にはならないだろう。



「二人の勇者よ。我の話を聞いてくれないか。」


敵意をむき出しにされるのは流石に辛い。

交渉の基本はお互いに冷静でなければならない。しかしこの状況だ。落ち着かせるのは無理だろう。

仕方ないがこちらから不利になってやろうではないか。



ゆっくりと地面に降りる。

勇者の間合いからは少し外れているが魔法は十分届く。



「【ローズカーゴ】!!」


サリーが魔法を唱える。勿論捕まる。

ギリギリと締め付けてくる薔薇の茎が我の身体を傷つけていく。

血は出るが痛くはない。まだ大丈夫であろう。



「ラーズグリーズ・・・貴方のせいで多くの人が死んだ。貴方のせいで傷ついた人も沢山いる。今ここで死ぬならまだ罪は軽い。神の名のもとに地獄に落ちてもらうわよ!」


サリーが怒鳴るような声で我に罵声を浴びせてくる。

勿論ミナヅキも我に斬りかかってくる。動けない我は絶好の的だろう。



「ラーズグリーズ!死ねぇぇええ!!」


鬼のような形相のミナヅキだが我はそんなの気にしない。

むしろ利用させてもらおう。怒りに任せることがどれほど愚かなことか。


「・・・・・・・ふん。」


多少は斬られるが自分の身を解放できるくらいには薔薇の茎を斬らせていく。

気が付けば我の足元は血溜りが出来ていた。しかしまだ大丈夫だろう。

飛べれば勝機はある。


「交渉は既に決裂していたか。」

「はぁ・・・はあ・・・なぜ生きている!!」

「ふん。虚勢を張って生きているがよい。我は・・・・飽きた。」



しかし勇者二人相手に撤退など出来るわけないだろう。

が、ここは幸いにもアトランティス。ダイアナ女皇も国にいるだろう。

つまり、そういうことだ。

一瞬の隙を付いて我は大空に飛びあがる。このくらいまで体力を残しておかないと撤退など出来るはずもないから。



「逃げるな!凶鳥め!!」



我の行く先々を魔法で狙い撃ちしてくるのは流石だ。

しかしどれも自分の魔力に頼り切った乱暴な広範囲魔法だ。これでは確かに大群にはダメージは入るだろうが我みたいな単騎にはさほど効果はないだろう。


「ふん。狙いも威力も落第点だ!」


そう言い空中で宙返りをしてから一番弱いと思われる魔法をピンポイントでサリーに当たるように無詠唱で唱える。

爆発と轟音の中サリーの悲鳴が聞こえる。

魔力は確かにあればあるほどよいがそれを運用できなければ意味はない。それをわかってほしい。そしてあわよくば一番弱い魔法でもこんなにダメージが出るのだからこの圧倒的な力の差で心が折れてくれればよいのだが。



「ラーズグリーズ!狙い撃ちなんて卑怯だぞ!」

「拘束してから乱暴な斬撃を喰らわそうとした卑怯者の言葉など耳も傾けたくないわ!そもそもその程度で我に勝とうなど片腹痛いわ!」


そう言いながらミナヅキを重力魔法で地面に倒れさせる。しばらくしたらまた唱えなければ効果は無くなってしまうが撤退するだけなら時間稼ぎにはぴったりだろう。


「さて・・・ここで殺すのもいいが降りたらまだ残っている魔道士に殺されてしまうからな。撤退するとしよう。」

「に、逃げるなっ!!くそっ!」



ミナヅキはサリーに回復魔法を唱えながら我が飛び去った方向を睨む。

我は意識がもうろうとしているが何とか飛行をしている。あと少しだ。

湖を見る。湖底にぼんやりと町が見える。目的地には着いたようだ。


気を抜いた瞬間我は意識を失った。




――――――――――――アトランティス/アプサラス城/救護室



数時間前地上にいた人間の軍がさっぱりいなくなった。

そんな報告を受けた直後にラーズグリーズが湖底にある城下町に沈んできた。

傷だらけで随所から血が流れ出ている。意識もなく当然だが水中では息が出来ない。

急いでダイアナ様に知らせると同時に救護班に救護を任せていた。



「大丈夫かなー?」

「大丈夫じゃない―?」

「だめっぽいー?」


わらわらと兵士の人魚が集まってくる。

そもそもラーズグリーズが降ってくるなんてとんでもない事態なのに。

このラーズグリーズ。かなり大きくて美形ときたもんだから女性が多めのこの国の兵士は一度でもその顔を見ようと毎日のようにやってくる。



♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯♯



「ん・・・・よかった。ダイアナ女皇ならわかってくれると思っていた。」


目を覚ませばアプサラス城の中にいた。

此処の城の構造は頭の中にしっかり入っているからよくわかる。此処は救護室だろう。

しかしギリギリまで戦った結果なのか体が重い。

ゆっくりと顔を動かし天井以外を見る。



「・・・・・なんだ貴様。」

「ふぐらっきょ。」


まんまるの身体。慌ただしく動く鰭。どうやらフグのようだ。

しかし何故我の腹の上にこいつがいるのか。

そしてさっきこいつが言い放った「ふぐらっきょ。」とは一体何なのか。

目的は達成したものの訳が分からないことが多すぎる。

部屋の外からはガヤガヤと会話する声が聞こえるし。




「どけ。我の腹から。」

「らっきょ。」


流石に迷惑と思ったのか。はたまた気まぐれなのか。

我の腹からフグは退き今度は頭に鎮座する。

意外に重い。


「・・・・・・まぁさっきよりはましか。」


ゆっくりと巻かれている包帯を確認しながらゆっくりとベッドらしき物から出て歩き始める。

このフグもどうやらついてくるようだ。

よく見れば愛嬌のある可愛らしい生き物ではないか。




「あ。起きましたかー?」


全裸ぎりぎりの水着を纏っている人魚が部屋に入ってくる。

我は若干ため息交じりの声で返事をする。


「あぁ。まずは手当有難う。ダイアナ女皇は元気かい?」

「元気ですよー。・・・・あ、そのフグ気に入ってくれましたか?」

「ぺぺぷぷぷ。」



フグがまた変な音を出しているが気にしないことにする。

しかし本当にこのフグはいったい何なのだ。



「そのフグは回復魔法を得意とする優秀なフグなんですよー。近くにいるだけでみるみるうちに傷が塞がっていくしー。可愛いし・・・」

「・・・・人魚はよくわからぬな。」

「えぇー!フグ可愛いじゃないですかー!」



この小娘は人間でいうところの高校生くらいか。

程よい肉付きにしっかりとした骨格。

まぁここまでの薄着は国柄故仕方ないであろう。



「はぁ・・・小娘。名前は?」

「名前?えー・・・そんなことよりダイアナ様が呼んでますよー。」

「フグはどうする。」

「懐いているみたいですし連れてけばいいんじゃないですか?」



首を傾げながら我の顔を見る。

相手は人魚故視界の高さ調節は簡単であろう。

そしてとうとうこの時がやってきた。



「人間の軍隊を追っ払ってくれてありがとう!ようこそアトランティスへ!」


そう言うと小娘は我にがっつりディープキスをしてきた。

・・・・・人魚。ある意味一番恐ろしい種族かもしれん。




フグ「ぶぷぇえー。」

フグ


所属:アトランティス

性別:わかんないです。

種族:フグ


フグ。

回復魔法を沢山唱えることが出来るよ。

ちなみにスキルによって周りの人達もどんどん回復させていくよ。

湖から持ち出したいならほんのり気持ち大きめの水槽用意してね。

意味不明なことを言うけど鳴き声みたいなものだよ。

ほんのり身体は大きいよ。食べないでね。美味しくないよ。

重い?水の中だから気にしないでね。気にし過ぎると白髪が増えるよ。やったね。



ふぐらっきょ。

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