召喚
戦いとは孤独だ。それ故に戦いは絆が無ければ勝てない。烏合の衆など瓦解して当然だろう。
しかし大空を飛ぶというのは本来孤独だ。
誰も居ない。周りは敵ばかり。
死と隣り合わせの生き方。そんな生き方もいいんじゃないかと思う。
僕はまた大空に夢を抱くのか。それとも大空に散るのか。
それはまだ誰にもわからない。いまはまだ。小さな炎。
いつもの通り。
いつも行く道。いつものバイト先。いつもの授業。いつもの友達。
全て同じ。そんな生活をしていた。
しかし今はそんなことを言っている時間ではない。
僕は一歩足を踏み出した。この白く優しい空間を。自分の存在が危ぶむこの空間を。
女神がささやく言葉。
「本当にそれでいいのかしら?」
「スキルとかはこれでいい?」
「ねぇ。怒ってる?」
知ったことじゃない。僕はこれから起こることを気にかけているだけ。そして僕はこう言う。
「種族はガルーダがいい。大きく気高く。そして強く。」
「先天性無痛無汗症を付与してほしい。あれこそ最悪最強の難病だ。」
「体は黒がいい。真っ黒。月の出ない闇夜の如く」
これから僕が行く世界。それは人間と魔族が争っているいつもの世界。
女神は言った。
「魔王が勇者を召喚しようとしたけど魔方陣が壊れていたみたい。だからあなたは死にここに来たの。なんだかごめんなさい。私の管理が甘いばっかりに。」
「お詫びと言ってはあれなんだけど。貴方を好きなように生まれ変えさせてあげる。そのー、あなたが重要と思っている記憶以外は無くなっちゃうけどね。」
「・・・・あなたが行く道は厳しく険しいものになる可能性が高い。未来のことなんて私にですらわからないもの。それでも行くの?いまならまだ戻れるよ?」
「そっか。頑張ってね。英雄さん。」
――――
――――――
――――――――――魔王城
「ええい!まだ勇者は召喚されないのか!」
魔王の怒号が玉座の間に響き渡る。それもそのはず。召喚の儀をしてからもう3日は経過しているのだ。魔王軍の宰相は少し焦っていた。人間との対立から長い時間が過ぎた。そしてとうとう我々が恐れていた事態が発生したのだ。
――――――――――数日前
「大変です!!ズゥートオステン共和国にて勇者招来の儀が行われ4人異世界からの勇者が召喚されました!」
辺境の地にて行われた勇者招来の儀。いうなれば勇者を召喚する儀式である。
勇者が召喚されるいうことは魔王軍と人間軍のバランスが崩れるということである。
しかしこちらにも侵略し制圧した人間の小国にたまたま有った魔方陣を修復・輸送したのだった。
勇者が攻めてくる前にこちらも同じ手を打たねばならない。そう考えた魔王と四大貴族の長は人間が行った手順通りに儀式を進めた。しかしこの魔方陣には不具合があった。
召喚できる勇者の数が一人であること。
という重要なことが。
―――――――――勇者の間
見張りのリザードマンが退屈そうに部屋の扉を守っている。
儀式を行ってからも何も起こらない部屋
「おい。今日も何もないのかよ。そろそろまずいんじゃないか?」
定時に見張りの交代に来たウィザードがリザードマンに話しかける。こんな会話でもしてないとやってられないのも事実である。そもそも魔王城という場所になんで下っ端に等しい自分たちがいるのか疑問に思う毎日である。
「今日も何もなし。そろそろ体が鈍っちまうぜ。」
「私の場合本でも読んでればいいが君の場合槍を振っていた方が退屈しのぎにはなるだろうからなぁ。」
そんな談笑をしていたら突然扉から紫の光が漏れだした。そして魔王城の警報が鳴る。
勇者の侵入である。
「来たか!」
警報が鳴るや否や勇者の間に急ぎ足で向かう魔王。大臣は四大貴族に早急に城に来るようにと通達する。
_____________魔方陣の場所
「お、おお・・・」
魔王は何も言えずにただそこに立ち尽くした。
魔方陣の中には”勇者”には見えない化け物がいた。
ただ黒く。大きく。猛々しいその姿。
「ゆ、勇者なのか・・・?これが・・?」
流石に宰相も他の大臣も何も言えない。
勇者とは本来人間であるはず。しかし目の前に鎮座する化け物はどう見ても人間ではない。
そして化け物はゆっくりと動き出す。魔王の護衛が一斉に武器を構える。
その光景を見て僕は初めてその時声を放つことができた。
「我が名は”ラーズグリーズ”・・・計画を壊し戦いを終わらせる者也・・・」
魔王軍の勇者として。僕はこの地に1歩足を踏み出す。
覚えている記憶は殆どない。やりこんでいたゲーム。話していた親友の笑顔。ネットの友人。大学の課題。そんなものしか覚えていない。
何故この地に来て何故この姿なのかもわからない。しかしわかることもある。
――――――――――この地には世界を壊す別の”勇者”がいる。
ラーズグリーズ
異世界から召喚されたとされる勇者。
しかし人間なのは姿だけ。巨大な羽根が生えているし瞳も金色。まるで獰猛な獣のような気配。
身長8m超 種族:ガルーダ 性別:♂
一応羽根と腕は別々にあるためハーピィではない模様。
新月の魔境の森の如く黒い体毛をしている。
一応主人公。
異世界に来る前はゲーム好きの大学生だった。提出していない課題は”C++でモンスターを2体作り戦わせることができるソースコードを作る”である。