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異世界転移考察シリーズ

パスポートとクレジットカードがあればなんとかなるのは異世界でも同じなのか

作者: 陽乃優一

実験的に書いてみた小説です。そうは見えないかもしれませんが。

※この短編を拡充して第1章とした連載版があります。

「でもお兄ちゃん、あたしまだ高校生だからデビットカードだよ?国際ブランド対応だけど」

「これは本来キャッシュカードだからなあ。信用払いができるわけでは…って、それはともかく」


 香港への格安航空券を手に入れた俺達兄妹は、いざ観光旅行ということで空港にいた。

 出国審査の長蛇の列にうんざりしていた時『自動化ゲート』を見つけ、通過しようと試みた。

 パスポートを読み込ませて、はて、これ確か事前登録が必要じゃ…と気づいた時は遅かった。


「このゲートは、神々とその配下が集団で世界を渡るためのものだったのですが…」


 転移した先の異世界で、駆けつけてきた天使っぽい人にそう言われた。

 最近の地球はどこで消えたり現れたりしても目立つので、カムフラージュしていたらしい。

 誤動作を修復するまで元の世界には戻れませんよ、と言われて唖然とした。


「で、証明書やらカード類はこっちの世界でも使えるようにしたらしいけど…どういう仕組みだ」

「運転免許証やプリペイドカードでも良かったみたいだよ?家に置いてきたけど」

「俺もキャッシュカードが良かったかなあ。クレジットカード、利用枠が小さいんだよ」


 夕日が照らす小高い丘の上で、遠くに見える中世風の街を眺めながら、そうつぶやく。



 突然の異世界転移は、ある意味外国旅行と変わらなかった。少なくとも、俺達にとっては。


「◯△◯…?××△◯!?」


 街の門番と言葉が通じなかった。テンプレを早々に打ち砕かれた。

 が、パスポートを開いて見せたら、あっさり通れた。ホント、どういう仕組みなのか。

 と思っていたら、別の門番が手を出してきた。何かをよこせと言っているようだ。


「もしかして、通行料じゃない?」

「こっちのお金なんて持ってないぞ」

「クレジットカード見せるだけじゃダメかな」


 というダメもと発言を試してみたら、水晶板を取り出してきて、手招きされる。

 ここに手を当てればいいのかな?という推測は当たっていて、板が淡く光った。

 通っていいぞという手振りをされたので、門をくぐる。


「どうもよくわからないなあ。水晶板のアレは署名みたいなものだったのか?」

「本人確認の延長かもしれないよ。手配中の犯罪者を見つけるーとかラノベにあった」

「情報源が旅行ガイド本じゃなくてラノベか。いや、そうなら言葉が通じてほしかった」



 街並は、さすが本物の異世界だけあって見応えがあった。

 様々な人種どころか種族が往来し、街角のあちこちで魔法らしき光が見える。

 もともと香港観光が目的だった俺達にとって、既にお腹いっぱいの気分である。


「魔法、あたしたちにも使えるかなあ」

「それより宿を探そう。野宿とかは嫌だ」


 しかし、文字が読めない。発音できても意味はわからないだろうけど。

 道行く人に尋ねることもできない。いきなり詰んだ。


「お兄ちゃん、あの看板、もしかして」


 デフォルメされたベッドが描かれている看板が見つかる。建物もいかにも宿屋風だ。

 識字率がそんなに高くなくて絵でも表現されているのかな。いずれにしても、助かった。

 扉を開けると、バーカウンター付きレストランのように見えたが、宿屋で間違いなさそうだ。


「△×◯!□□×△◯?××?」

「『いらっしゃいませ!お泊りですか?それとも食事のみですか?』だよきっと!」

「なんでわかるんだよ。ああ、はいはい、ラノベラノベ」


 という異国(?)の会話が聴こえたのか、受付のお姉さんはメニューらしき木板を見せてきた。

 お皿やベッドの絵入りでわかりやすい。俺達自身とベッド+皿を指差すと、受付に誘導された。

 今度もクレジットカードで支払えるかなと見せたら、それを見て何やら書き込んでいた。名前か。



「で、なんでお兄ちゃんと同じ部屋なの?」

「さあ…。同室でいいと思われたのか、部屋に空きが少なかったのか」

「まあ、ベッドがふたつのツインルームだから別にいいけど」


 ツインルームとダブルルームの違いってわかりにくいよね。異世界だけど。

 しかし、部屋と言えば…。


「なあ、これって電灯…じゃないよな?相変わらず読めない文字が書かれているけど」

「魔道具っていうやつかー。どう使うんだろ。というか、使えるの?」

「さあ…って、うおっ」


 小さな宝石のようなものに触ったら、いきなり光を放った。すぐ手を離すと、数秒で消える。

 念を込めるようにしばらく触っていたら、今度は数分光り続けた。ちょっと気分がだるくなった?


「そう言えば、魔力があっても魔法が使えるとは限らないってラノベで」

「もう突っ込まないぞ。でも、そうかもなあ。どうすればわかるんだろ」

「冒険者ギルドで測定?教会でスキル授与?経験値がたまってアナウンス?」


 ラノベ万能説崩壊。言葉がわからないとこんなに苦労するとは。カタコト英語は偉大だった。



「…おいしくない」

「内陸部だからかな、塩や胡椒が貴重なんだろう。ハーブとかの発想もないようだし」

「野菜もあんまり種類がない感じ。お肉は…もしかして、魔物?」


 宿の食堂で晩飯をとったが、味は素材しか活かしていない。スープの具もキャベツもどきのみ。

 ただし、肉からはなんというか、活力みたいなものを感じる。魔力なのだろうなあ。


「□□○?×△△○○」


 受付のお姉さんが、お酒のメニューを見せながら話しかけてきた。お酒は別にいいかなあ。

 隣のテーブルの客が注文し、お姉さんがお酒を運んでくる。すると、その客は硬貨を渡した。


「チップ?」

「ううん、あれ、小さいけど金貨だよ。お酒はその都度の現金払いかも」

「カード経由の『ツケ』にも限界はあるよな。現金もある程度は必要になりそうだなあ」


 こちらでのカード精算の仕組みがよくわからないけど、ATM引き出し相当ができないものか。


「そういえば、両替レートはどのくらいなんだろ?あたしの口座は数万円程度しかないよ」

「俺のクレジットカードも航空券代やホテル代の支払い前だからなあ」


 損害賠償ということでカード払いの精算はよろしくお願いしたいです、神々の皆様。



 なんだかんだいってぐっすり眠れた俺達は、硬いパンと薄いスープの朝食後、街を歩いた。

 ちなみに、荷物はほとんど持っていない。出国審査は荷物預けの後だったからねえ。

 つまりは、衣類の類がほとんどない。俺もそうだが、妹がキレる前になんとかしたい。そもそも。


「お風呂…シャワー…」

「宿にないとすると、銭湯みたいなところを探す必要があるのか、あるいは…」

「ま、まさか、有料のお湯で体を拭くだけってパターン…?」


 と話していたら、共同浴場を発見。喜び勇んだ妹だったが、客の現金払いを見てorzとなった。


「ギルドよ!ギルドを探しましょ!」

「冒険者ギルド?いや、お金を引き出すんだから商人ギルドか?」

「たぶん、冒険者ギルド!宿の入口に『剣と盾』のマークがあった!」


 ああ、ツケ払いは冒険者ギルド経由だったのか。

 同じマークと思しき看板を掲げた建物を発見した途端、妹は殴り込みのように突っ込む。

 おい、それだと冒険者ギルドのテンプレが発生するぞ。


「…○○?△△××□!」

「うっさい!」


 3人ほどの厳つい冒険者がドンガラがっしゃんと扉から放り出される。濃厚な魔力を漂わせて。

 妹よ、いつからそんなに強くなった?チート?チートなの?

 扉を開けると、妹が受付でデビットカード(というか、キャッシュカード)を見せて叫んでいた。


「とりあえず一万円分!小額紙幣で!」


 通じるわけなかろ。

 が、しかし、意図を察した受付嬢は魔法的な板らしきものを取り出し、カードをかざしている。

 うーん、パスポートといいカードといい、こっちの人々にはどう見えているんだろ?


「あ、それ!その小さな金貨を10枚!」


 昨晩の客がお酒を注文していた時に出していた硬貨をよく覚えていたようだ。

 一時間後、ようやく風呂に入れて御機嫌な妹の姿があった。まあ、俺もだが。次は服か…。



「お兄ちゃん、そっちに2匹逃げた!」

「よっしゃー」


 妹が魔力をぶつけて撹乱し、俺がやはり魔力をぶつけてトドメを刺す。

 大雑把ではあるが、魔力量が比較的多い俺達には最も手っ取り早い方法だ。


「5匹の狂犬もどきげっとー。これで1週間風呂入り放題!」

「俺は塩が欲しいなあ。あと、革袋」

「あ、上着もう一着買わなきゃ」


 転移してから2週間。俺達は冒険者として自活できるようになっていた。

 もっとちゃんとした魔法が使えればいいのだが、呪文が使えないのではどうしようもない。

 現地の人々が繰り出す魔法を見よう見まねで使うだけでは、これが限界だろう。


「お、重い…」

「俺が4匹持つよ。解体は覚えた方がいいなあ」

「亜空間収納とかのチートが欲しいよう」


 今日も獲物を担いで街の門をくぐる。面白いことに、今ではクレジットカードだけで通過できる。

 通過の様子を観察し続けてわかったのだが、俺達のパスポートは『紹介状』みたいなものらしい。

 最初に入る時だけ示して、あとは魔力認証を行ってカードを登録、ということらしい。


「キャッシュカードがギルドカードに見えるなんて面白いよねー」

「まあな。顔写真なくても登録認証おっけーなのはわかるけど。もともと名前は刻まれているし」


 ギルドに到着し、俺はクレジットカード、妹はキャッシュカードを受付に出し、獲物を降ろす。

 始めは報酬・買取全部を硬貨でもらっていたが、最近はまずギルド預かりにしてもらっている。

 おそらく、他の街の冒険者ギルドでも引き出せるようになるはずだ。


「しかし、数字くらい読めるようになりたい…どうしてもわからん」

「十進法じゃないのかもねー。小金貨1枚も銀貨12枚だし」

「昔の地球の貨幣みたく、その辺の換算はまちまちだよなあ」


 お金については騙されたくなかったので、妹と必死になって観察して把握した。

 防犯の意味でも、下手に小分けして現金を持ち歩くのは避けるべきと判断したのだ。


「あ、ねえねえ。この絵、ダンジョンじゃない?無限湧きが楽しめるかもよ」

「森の奥にあるのか。何層あるんだろう?やっぱりわからん…」



 転移から3か月。

 割と小規模だったダンジョンをそろそろ踏破、という時に、天使っぽい人の声が聞こえた。


「帰還準備が整いました。よろしいでしょうか…」

「おっそーい。まあ、楽しめたかな、異世界生活」

「そうだなー。でも俺は日本食が恋しい」


 洗浄魔法をかけてもらった元の服に着替え、街の人々に身振り手振りで街を去ることを伝える。

 宿やギルド、浴場など、みんな笑顔で見送ってくれた。挨拶の言葉すら覚えられなかったけど。


 最後に、門番の人々に別れを伝え、あの丘の上にふたりで立つ。


「いいですよー」


 その瞬間、空港の出国審査が終わる直後の場所に俺達はいた。

 どうやら、時間経過は全くないらしい。夢でも見ていた気分だが、それでも記憶は鮮明だ。


「あ、あたしの口座の残高!」


 ATMを探しに行く妹。現金引き出しは妹の口座からばかりだったからなあ。これから香港だし。

 俺は、日本食レストランへ。外国へ行く前の食い納め、ではなく、なつかしの味を求めて。

 とりあえず蕎麦をすすっていたら、妹がふらふらと近づいてきた。


「お兄ちゃん…ゼロがいっぱい…たくさん…」


 神々の皆様は、討伐報酬の換算レートをだいぶ考慮してくれたようだ。



 ふたりとも一生仕事しなくても暮らせるほどのお金を得た俺達は、それを隠して過ごしていた。

 いやだって、バレたら見覚えのない親戚や友達が湧きそうじゃん?討伐しても報酬出ないよ?

 とりあえず、妹の大学進学を機にそこそこのマンションを買い、ふたりで住むようになった。


「異世界で暮らしてた頃を思い出すねー」

「じゃあ、寝室はひとつでいいか…痛い、やめ、やめて」

「魔力量はあたしの方が上なの忘れたの?」


 こちらの世界でも使えるようになった魔力で兄妹漫才をしていたら、またあの声が聞こえた。


「お願いがあります…」


 声にしたがって街中に出ると、いかにもあの世界から来ましたというネコ耳少女が交番にいた。

 怪しまれながらも警官達には言葉が全く通じず、泣きながら見せているのは…。


「…なるほど、普通にしていればクレジットカードに見えるな」

「でも、意識して見ると…ギルドカード?」

「『紹介状』の類は持ってなかったのかな。いや、本人確認書類としてカードを意識すれば…」


 それでも寝室を増やすことにはなりそうだと思いながら、俺達は交番に向かった。

ちなみに、僕自身は自動化ゲートはよく使います。あれってちょー便利なのにいつもガラガラ…。

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