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High×Low  作者: 椋原紺
第一蹴 「再会のピッチ」
9/9

 ネット外にいた観客達は予想外の出来事に騒然とし、少し遅れてから拍手と指笛が巻き起こった。女子校生チームがハイタッチを交わしながら自陣へと引き返していく。







「――――思い出した。通りで、どこかで見た顔だと思ったわ」

 エイジが手を叩いて語りかけるように言った。

「今アシストした子、この前日本代表に選ばれてた。名前は確か――――」

「榎本結衣」

 先に紗矢が口にしていた。エイジが、それよそれ、と声を荒げた。

 





 まただ。また、目立ってない。

 


 ゴールを奪った白石っていう金髪の子が注目されがちだけど、今のも榎本結衣の絶妙なパスがあってこその一点だ。まるで機械みたい。適切な力加減でフィニッシャーにボールを供給する、単純作業を一寸の狂いなくやってのける精密機械――――。

 


 紗矢は背筋に寒気を覚えた。ただ怖ろしいだけでない、興奮と感動に染まった恐怖。榎本結衣を双眸に映し、前のめりに見つめた。








「くそっ、まぐれだあんなのは!」

 そう愚痴るロン毛男のキックオフでゲーム再開。

 傍から見ても男チームが苛立っているのが明らかに分かった。連携は粗雑になり、ミスが増えていく。一方、女子校生チームは焦ることなくその隙をついて、優位にゲームを進めていく。







「どうなってやがんだ一体!」

 レプリカユニの片割れは忌々しそうに頭をかく。彼の傍らにいた白石はちらりと視線をよこし、ほくそ笑んだ。

 






 ――――何やら良からぬ事を企むような顔、というのはまさにこの顔だ。








「あ~あ、走ってたら熱くなってきちゃったなぁー」

 ボールがサイドラインを割ったのを見届けると、白石は可愛げのある声で注目を集め、上に着ていたブレザーを脱ぐと端に置きにいった。先ほどのレプリカユニの片割れの前に戻ると、あー熱い熱い、とぱたぱたシャツを扇いでみせる。

 



 レプリカユニの視線は一瞬で釘づけになった。原因は、ちらちらとシャツが揺れる度に垣間見える腰元、滑らかでいて弾力のある乳白色の肌、そして曲線美の美しさたるや、言葉に尽くせぬものがある。

 男は前のめりになって思わず生唾を飲んだ。よくよく見れば、スカートの隙間から下着の桃色をした紐らしきものまで見える気がする。胸に渦巻く欲望に駆られ、男はピッチ上にいることをすっかり忘れてしまった。

 








 ここだ、とばかりに反転して、白石は前線に飛び出した。

 


 はっと気がついた時にはもう遅い。榎本からの浮き球を足元に収めると、キーパーとの一騎打ち、冷静に逆をついて流し込む――――





 ――――二点目。





 



「おい、なにぼさっとつっ立ってんだよ!」

 チームメイトの怒号が飛ぶ、レプリカユニは慌てて首を横に振った。

「ち、ちげぇよ! 俺のせいじゃないって!」

 反論し、また反論。険悪なムードになっていく相手を横目に、また白石はほくそ笑んだ。

 小悪魔の微笑み、と人は呼ぶ。







「・・・・・・出たっすよ、白石の悪い癖が」智実は肩をすくめる。

「どこが白石、なんっすかね。あれじゃまるで黒石っすよ」

「いいじゃないの、好きにやらせたら」

 キーパーの理香がなだめた。「・・・・・・どうせ、勝てばいいんだから」

 







 再び、男チームのボールから始まる。すると白石嬢、今度はもう片方のレプリカユニに近づいて――――次はやや斜め気味の半身の体勢で、胸元を扇いでみせる。






「ふぅ、ほてってきちゃったぁ・・・・・・」甘い声で囁くように。







 男の視線はまたしても釘付けになる。悲しい! 苟も悲しい男の性! シャツの二つ目のボタンまでが外れていて、真上からは桃地に黒のラインの入ったブラジャーとそこに収まる柔らかくふくよかな双つの果実、分け隔てる谷間まではっきりと見える。




 この男もまた生唾を飲み、鼻息を荒くさせた。そして気付かれないよう(いや、白石にはとっくに気付かれているのだけれども、名も無き彼の名誉のために)、そっと近づく。

 

 前のめりになるにつれて、彼の頭の中からサッカーの単語が霞んで消えていく――――。

 






 

 その後は言わずもがな。

 またもや出し抜き、フリーになった所で榎本からのパスを受ける。先ほどのVTRを見ているかのと錯覚するように、いとも容易くゴールを決めた。








「やっぱ、アタシって超天才かも~?」

 当の本人は悪びれた顔など一切ない、実に純粋な笑顔。真の悪はここに至れり。



「白石。もう十分だよ」

 仁王立ちする藤崎の前に立って、結衣がいさめた。真顔のままである。白石は口をとがらせ、頭の後ろに手を組んだ。

「えーここからがお楽しみなのに?」

「うん。白石の実力は証明した」

「そうですかぁー」

 





「――――ま、アタシ的にはチョット物足りないけどぉ・・・・・・」

 白石はすぐに顔色を変えて結衣の傍に歩み寄り、右腕に絡みついた。愛らしいぬいぐるみを抱き締めるような、恍惚とした表情で。

「"結衣先輩"にお願いされたら仕方ないかなぁ」

 





 上着のボタンを戻しながら、にやっと笑う。

「サービスタイム、しゅ~りょ~」


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