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High×Low  作者: 椋原紺
第一蹴 「再会のピッチ」
8/9


 紗矢の表情も陰った。

「どうして」

「あいつら、ああ見えても結構やり手のフットサルチームなのよ。この界隈じゃちょっと有名だわ・・・・・・悪名高いずる賢いアマチュアチームってね」








 紗矢がピッチに目を戻すと、コーナーキックがクリアされて敵チームがカウンターを仕掛けていた。対する女子校生チームのディフェンスは一人――――藤崎のみ。

 一対一。

 ロン毛男はにやっと笑った。大きく助走をとり、藤崎目がけてボールを蹴り込む。二人の距離は二メートルもなかった。

 危ない!

 紗矢の嫌な予感は的中する。ミドルシュートは藤崎の下腹を貫いて轟音を放つと、ころころと力なく転がってサイドラインを割った。衝撃故か、手を抑えながら藤崎が片膝をつく。

 ネット外の観客達から歓喜に似た楽しげな声が飛んだ。










「あー悪ぃ悪ぃ。当てるつもりはなかったんだけどなぁ」

 ロン毛男は謝罪の意など毛頭ない声調で頭を下げると、振り返り様にレプリカユニの二人と笑いながらハイタッチした。

 汚い手だ。あれで相手チームを怯ませようっていう戦法。ネットを掴む手におのずと力が入った。

 しかし、当人の藤崎は顔色一つ変える事なくすくっと立ち上がると、痛みなど最初からなかったようにプレーに戻った。

「チッ」

 つまらなそうに、ロン毛は舌打ちを打つ。

 







 


 キックインでプレーが再開される。

 ロン毛は藤崎の前に立って、ボールを受けた。後ろから競ってくる藤崎を巧みに腕を使いながら押し込んで、強引に反転しようと試みる。

 ファールチャージ。普通ならば明白な反則だった。しかし、ここはストリート。日陰のピッチ。明確なルールが存在しなければ、ファールを取る審判もいない。

 分かっていたはずなのに、この人達に勝ち目なんてないって。

 どうして止めなかったんだろう、と紗矢は後悔した。それでも、心の何処かでは彼女達の事を応援していた。自分自身の境遇を映していたのだった。










「なんて体幹なの、あの子」

 エイジの吃驚した声で、紗矢はふと我に返った。

 ピッチ上。ロン毛の動きを相殺するように、藤崎が競り合っていた。腕も手も使っていない。腕力で押し込んでくる相手に対し、大木のように聳え立って力を受け止めているだけ。それなのに、びくとも動かない。

「嘘だろ・・・・・・こいつ、ホントに女かよ?!」 

 足元の注意が疎かになったのを見逃さず、藤崎はつま先でボールを蹴り飛ばした。







 カットされたボールを智実が奪って、結衣へと繋ぐ。白石と智実がほぼ同時に走り出した。

「同じ手は二度も食わねぇ!」

 レプリカユニの一人が智実をマークしようとサイドに寄る。バイタルエリアど真ん中に、ぽっかりとスペースが空いた。

 そこへ狙いを澄まし、榎本はサイドキックで強いパスを出した。

「ちげぇ、金髪の方だッ!」

 グラサンのコーチングも虚しく、いつの間にかもう一人のレプリカユニのマークを振り払っていた白石がフリーで飛び出していた。

 



 トラップせずに、腰を捻るようにして豪快に左足を振り抜く。




 



 アウトサイドで烈しく回転の掛けられたボールが、鋭くグランダー状に伸びながら緩やかな半円を描く。キーパーの伸ばした右腕と右脚の間をすり抜け、ゴール左隅へと突き刺さった――――。









 キュリュ、キュリュ、キュル。




 ネットに収まっても尚、ボールはまだ回転している。











 白石は片目を閉じ、両手を組んで銃のようにして構えた。"バン"という声と共に、倒れ込むキーパーを見下ろして撃つ。

「ゴ~ル」

 皮肉たっぷりに言ってみせ、にやっと笑った。

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