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ピッチに集まりし者共。左手に男五人と右手には少女五人。なんだなんだ、とどこからともなく、ぞろぞろとネット脇に人が集まりだした。
「おいおいおい、ビビってんじゃねぇだろうなぁお嬢ちゃん達。今更、やっぱやーめたつっても遅いかんな」
茶髪のメッシュを入れたロン毛男がへらへら笑いながら一歩前に出る。腰に手を当ててじろじろ五人を眺めながら、
「しっかし、いいのかー本当によぉ。勝った方が負けた方の言う事なんでも聞くってルールで・・・・・・」
「減らず口を。喧嘩をふっかけたのはそちらの方だろう」
凛とした眼差しの、長身少女が前に出た。後ろの四人――――長ったらしい金髪少女は棒付きの飴を舐めながらニヤニヤ笑い、右隣の左分けにしたセミロングの少女は目を伏せて涼しい顔、その隣のデコだし少女はびくびく震えながら今にも泣きそうで、そのまた隣にいた結衣は状況を観察するように静かに佇む。
「マジかよこいつら。後悔しても知らねぇかんな」
鼻の下を伸ばしながら、ロン毛が笑いを含んで言う。後ろにいた海外クラブのレプリカユニフォームを着ていた二人が笑った。現役JKと今夜は延長戦だぜこれ、たまんねぇなおい!
そのくらいにしとけ、とがたいの良さそうな角刈りの男がロン毛の肩を掴み後ろにおいやった。
「ハンデはどれくらいにする。これくらいか?」
と、両手を使いながら指を何本か出す。
しかし、長身少女は睨んだ。
「――――何の真似だ」
「は?」
「そんな柔な物などいらぬ、正々堂々と勝負しろ」
「ち、ちょ、ちょっと藤崎先輩ぃ! それはホントヤバイっすよぉ!」
とうとう耐えかねて、デコだしの少女が泣きついた。隣にいた左分け少女が腕をつかんで引き戻す。それでもなお、デコだし少女は抵抗した。
「り、理香ぁ! は、離してくださいっす!」
「こら、智実。藤崎さんの邪魔しちゃダメでしょ」
理香と呼ばれた少女は諭すように言った。理香の隣にいた金髪少女があっはっは、とお腹を抱えた。
「安達先輩ってホントびびりなんですね。超ウケる~」
「これは笑い事じゃないんっすよ白石! というか、なんで皆そんな冷静でいられるんっすか、皆おかしいっすよ! ホントどうかしてるっす!!」
結衣は半狂乱で泣き叫ぶ智実の口を塞ぐ。涙目の智実に向かって、真顔のまま唇に指を当てて見せた。
やっといざこざが収まったとばかりに、藤崎は重い口を開いた。
「・・・・・・そういうわけだ。他の者も私と同意見だが」
左手側にいた男達の表情が変わった。スイッチが入ったかのように、ぴんと緊張が張り詰める。角刈りの男もさすがに眉をひそめた。一番後ろでずっと沈黙を貫いていたグラサンの男が身を乗り出した。
「おいてめぇ! 本気で俺らに勝てるとでも思ってんのか!? 冗談もほどほどにっ――――」
「愚か者が!!」
藤崎は一喝した。しん、と水を打ったように周囲が鎮まり返る。男をとらえる瞳は鋭く光り――――しかし、先ほどの睨みとは少々具合が異なる。まるで鬼の形相。人斬りが獲物を前に刀を抜いて構える如き、本物の殺意に充ち満ちている。殺伐とした気迫を感じずにはいられない。
しかし、突然ふっと強ばった表情を解くと、強引に男の手を握った。
「お互い、良いゲームをしよう」
握手を交わし、そして、さっと身を翻す。グラサン男のみならず、他の男達も皆呆気にとられていた。