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メシアの勲章  作者: 赤はげ
act.1 妖精、メカ人間、ショックウェーブ
9/12

スニーキング・ミッション

「彼に課せられた任務の内容は、人質として送り込まれた事を承諾したフリをしてR塔に侵入。

向こうの攻撃体制を把握し、同時に破壊

その後脱出する事。」


 翌朝の事、ある作戦を実行する為に俺とモネはシュアーン先生に視聴覚室へ呼ばれていた。

 映画館の如き巨大なスクリーンの前でスクリーンを指すための銀の棒を振り回しながら任務を説明する先生を俺たちは席の最前列で見ていた。


「先生!

脱出なんてしたら向こうの連中を怒らせて、昨日宣告された通り攻撃されてしまうのでは?」


「攻撃ぃ?来い来い!

戦争なら受けて立つ! シュ!シュ!」


 シャドーボクシングで空を殴りつけながら先生が言った。

 昨日のメイドのあの子が俺の部屋の扉を閉じた途端に元気になった先生は、つらづらとR棟への復讐譚を述べた後、この作戦を思い付き準備の為に部屋を飛び出した。ゲロ塗れで。

 相変わらず、復讐の時の思考と即断即決のスピードは凄まじい。


「メイク・マイ・デイ!!」


「おぉ…!」


 意味不明なシュアーン先生の開始宣言と共に押されたスイッチによってプロジェクターからスクリーンに映し出された映像に思わず感嘆の声を漏らす。

 思いの外、その映像が綺麗だったからだ。


 今回の作戦の詳しい説明をしよう。

 本作戦は、シュアーン先生の能力を最大限応用したものである。

 シュアーン先生がR棟へ送り込むハンの心を読むことで間接的にハンの視覚、聴覚をハック。スクリーンに映し出す。

 そしてそれをここから見ている俺達が指揮官となり、また先生の能力によって最善の行動を取らせるための命令を彼の頭に送り込む、と言ったものだ。


 しかし、いつか説明した通りシュアーン先生のこの能力は対象者との距離が広い程、著しく質を下げる。

 相手と自らの額をくっつける事により、やっとその人の視界の映像が見えるようになるくらいだ。

 しかし、額をくっつけた時に相手の視界の映像が見えてもどうせ映るのはどアップの自分の顔位なので、長い間この性能を持て余していたらしい。

 だが、そんな先生のこの能力に革命的な進歩を与えてしまったのが、A棟の生徒が開発した、あの今先生が「くっちゃくっちゃ」音を立てて噛んでいるタバコの様に口からはみ出すあの棒。

 あれの対となるもう片方の装置を対象者に咥えさせる事で、シュアーン先生の能力の性能を最大限に増大させる事ができる、300m以内ならば鮮明に映像を捉えられる上、耳から拾った音、その人の考えて居る言葉がある程度再生されるというおまけ付きだ。因みに先生の能力をスクリーンに映し出しているのも、この装置の機能だ。


 以上を駆使し、ハンを上手く侵入させ相手の攻撃力を把握アンド破壊。その後気づかれずに脱出という極めて難易度の高いミッションだ。


「どうやら目標地点(ターゲットエリア)には到着したようですね

ハン君、聞こえますか?ここから先は敵に傍受される可能性があるのでコードネームで呼び合う事にしましょう

ハン君は…ドラキーでぇ…」


「先生のりのりだな〜」


「私の事はドルマゲスと呼んでください」


ドラキー

〝OKでーす、ドルマゲス先生″


「え!?なにこれ!!」


 突然スクリーンにデカデカと表示された白文字でちょっとダサいフォントの一行。

 ハンの声の再生と共に表示され、記されている内容もハンの言ったものだ。


「ああこれは、私の能力が頭の中の声の読み取りだけは不安定で曖昧なので、この装置が自動で読み取って予測して変換して表示してくれるんですよ」


 成る程、それは便利だ。


ドルマゲス

〝任務にはそのおしゃぶりが必要不可欠です、任務が終わるまで決して離してはいけませんよ″


ドラキー

〝ちゃーん″


 なんというか。

 この作戦の一番意味不明なところは、この謎のキャラ作りだ。

 敵におしゃぶりを怪しまれない為、侵入作戦を実行していると言う悪意がばれない様に純粋さをアピールする為、この二つを両立するためにハンは10歳にして窮屈なベビーカーに乗せられ、あの赤ん坊が着るふりふりのアレを着せられている。

 何故か和服を着こんだトーマス先生にベビーカーを押され、R棟前の廊下まで潜入。


ドラキー

"オイ何やってんだよでくの坊!

全速力で突入しろや!"


トーマス

"こいつぁいけねぇ。

旦那さん、どうやらあんさんのベビーカー足を獣のの毛かなんかに絡んで動かねえぜ

…ってえと、ここはアレかい? でっけえ獣の上かい? くわばらくわばら"」


 どうやらトーマス先生は盲目の子連れ侍と言う設定らしい。

 R棟のふかふかカーペットにベビーカーの足を捕られて手こずっている。

 その内、しびれを切らしてベビーカーをそこに置き去りにしてハンを抱きかかえていくことにした。


トーマス

"あいや失礼!

頼まれてたブツを届けに参りやしたぜ!"


なんかもうキャラが定まっていないが、とりあえず扉前に到着し、扉を叩く。


〝来たわね!クズ野郎!!″


二回目のノックは急に開かれたその扉によって弾かれた。


扉を開いたのは当然ゴリエ。

何故か顔を真っ赤にして、息を大きく切らしていた。

なんというか、死にそうだ。


〝早く! 早く寄越しなさいよぉ!

殺すわよ!?″


両手を伸ばし、今にもハンを食ってしまいそうな程の勢いの彼女に、150歳のトーマス先生も距離を保ちつつ離れる。


ドラキー

〝な、なにこいつ…怖い

やだ…もう、帰りたい″


ゴア・マガラ

〝ホラ…おいで?″


どうやら、ハンから見て彼女は黒触竜ゴア・マガラに見えた様だ。


トーマス

〝ハイ……さいなら!″


そんなゴア・マガラに臆したトーマス先生は彼女にハンを投げ渡すと同時におっぱい触って逃げた。



ーー


「そういう性癖の持ち主みたいですね」


「知ってた」


「ハンが欲しかっただけで、戦争云々も嘘なんじゃない?」


「知ってた」


ハンを抱えたゴリエが扉を閉じるのと同時に、彼女が見せた態度は先生の能力を通じて俺達を凍らせた。

手始めに頬を舐められるハン。

その時スクリーンに映し出された「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎」の一行はハンの恐怖と焦燥を簡潔に表していた。


シャガル・マガラ

〝ようこそ、私達の城へ

今日からあなたも私達の家族よ、アンちゃん!

そんなに怯えなくても…スグに「アソコ」にはもう戻りたくなくなるわよ″


いつの間にかゴア・マガラはシャガル・マガラに進化していた。


「ドラキー!現状を報告しろ!

ドラキー!ドラキーーーーーー!」


一方先生はめちゃくちゃ楽しそうだ。


その後ハンは頭を撫でられたり、匂いを嗅がれたりしながら棟の奥へと連れてかれた。

ずっと暗い声で「助けて、助けて」と言っていたが、そのうちシュアーン先生がうるさいと言って音声出力コードを抜いた。


大体2分位進み続けたが、今までに見えた内装はまさに城。

絵画とシャンデリアと鎧と振り子時計。

A棟の廊下がどんどん安っぽく思えてくる。


暫くして彼女が扉の前で足を止める。

何やら口をパクパク動かしていたので音声出力コードを繋ぎなおすと、どうやらここが彼女の部屋である様だ。


開いた扉の先に見た光景は予想通りだったというか、イメージ通りだったというか。

とりあえず子供がいっぱい居た。


「まさかこの子達も他の棟から…?

ドラキー、聞いて見てください」


ドラキー

〝嫌です″


「子供達で軍でも作るつもりか?

…まさかこれが…「恐るべき子供達計画」か…!」


動物園の猿山ゾーン程の広さのありそうなその部屋で、さながら猿のようにはしゃぎ続ける子供達は大小様々。

オムツの取れていない子から…髭を蓄えた……髭?


「え?今ちょっと右に…

ちょ、先生!ハンに少し右向くように言ってください!」


ドルマゲス

〝ドラキー、オルゴデミーラが乳見せろですって″


「んなこと言ってないだろ!!」


右を向く画面。


「なんで通じんだよ!!」


「あ、いや。言葉を送る時はちょっとコツがいるんです

この装置の変な予測変換を逆算して言ってるんですけど…」


「…成る程」


正直、ハンがゴリエに頼んで彼女の乳が見れるかもと、微かに期待していた自分がいた。

そんな淡く馬鹿馬鹿しい期待を振り払うと、再びスクリーンを確認する。


やっぱり、いた。

一人子供達の中に混じり中良さそうに手を繋いでクルクル回るおっさん。

めちゃくちゃ楽しそうだ。


「歳は…関係無いんですかねぇ?

ドラキー!至急歳は関係ないのか確認せよ!」


ドラキー

〝嫌です″


さっきからまるで役に立たないドラキー。


ぷw何このガキwダッセェ服着てやがんのw

〝姫様お帰りなさい!その子は?″


「何こいつ子供達に自分のこと姫様って呼ばせてるの!?」


シャガル・マガラ

〝新しい兄弟よ〜

皆こっち見てー!新しい家族のアンちゃんよ!仲良くできるよねー?″


ガキ共と一人のおっさん

〝はーい!″


「何ここ…怖い

先生! ハンにキモいって言ってって言って!」


ドルマゲス

〝ドラキー、セフィロス(モネ)が乳見せろですって″


「これも乳見せろなのかよ!!」


ドラキー

〝嫌ですって言ってるでしょ!!

なんでさっきからそんな恥ずかしいことばっかさせようとすんの!?″


「本当にちゃんと通じてんのか…?これ」


シャガル・マガラ

〝あ…!そうだ、アンちゃんの歓迎祝いの為に私、クレープ沢山作ってたの!

今持ってくるから、ここで皆と待っててね?″


急に視界の高度が落ちる。

その際に見えたゴリエの昨日の態度からは想像もできない笑顔は当然俺達を凍らせた。


ドルマゲス

〝チャンス!ドラキー、至急子供達に話しかけて情報を収集せよ!潜入を悟られん様にな!

話しかけるには対象の人物の前で(アクションボタン)を押すんだ!″


完全にゲーム感覚の先生。

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