どうせ混沌
「大丈夫ですか?何処か体は痛めていませんか?
少し休憩を入れましょうか?あと…あのメイドに何かされませんでしたか?」
「あ…大丈夫…です」
ハンが座らされたのは薄暗く広い一室の、一つだけ灯されたシャンデリアの真下にある白いレースの敷かれた丸いテーブルと共にあった足の長い椅子。
小さなハンには大きすぎる椅子。
深く座れば足を曲げることもできない。
そして目の前には顔がシワだらけの老人。
目を閉じている。
眠っている?
「ご主人様起きてください。
ゴリエが拉致したヨハン君をたった今保護、連れて参りました」
男がそう言うと、眠っていた老人はビクンと一度震えた後、まるで眠っていなかったかの様な風に言った。
「うむ、それでは話を始めようか」
そう言われた時、ハンの目の前にオレンジのジュースが置かれた。
「アルヴェヴォ、さっきのアレを返してやれ」
「はい、ここに」
次に出されたのは何故か小皿に乗せられ、綺麗に洗浄されていたあのおしゃぶり。
「君達がコレを使ってしていた会話は全て聞かせてもらっていた
まぁ、それの咎として君をここへ呼んだわけではないから安心してくれ
話と言うのは…」
「戦争は起きる」
「これが単刀直入な結論だ」
ハンは理解が追いついていなかったが、老人は淡々と続けた。
「ウチのゴリエが君達に戦争がなんだとか言って脅しを掛けた様だがそれとは全く関係ない」
「戦争は恐らく全棟が巻き込まれる」
「原因はAR両棟に見られる著しい戦力の低下、これを機に討ち取らんとな」
「ゴリエに会長の譲歩として君を差し出し、ゴリエもそれで満足した事が、奴らにとって異常だったらしい
どれだけ生徒の質が落ちているんだとな」
「あの…悪口ではありませんよ?」
ここでアルヴェヴォがフォローを入れた。
「しかし何故、A棟のたった1部…私達ですらさっきまで知り得なかった密会のやり取りが漏れたのか」
「間者がいる」
「恐らくは神権バカ共のC棟の奴か
大穴でEが…あながちだな」
「そこで、だ。
今度はその間者にバレない様に君達とやり取りをしたい
そしたら君が丁度いいものを咥えていたって訳だ」
「あ、あの…」
「どうした?」
「おじさん達はどうやって俺たちの会話を聞いてたの?」
「ああ、それは」
「ご主人様」
アルヴェヴォが手を伸ばして止める。
「彼とはどうせ同盟を組むことになる
教えといても構わんだろう」
「……」
アルヴェヴォは手を引っ込めた。
「私の能力だ。
会長や麻先生と同じ心を読む仙術。
まぁ、一番精度は低いだろうが」
「その間者も心を読む仙術を使ってるかもしれない…か?」
「うん」
「いや、それは無い
わかるんだよ、心を読む仙術を使える奴は同じ能力の奴が、特質だからな
少なくともこの学校にこの能力は三人しかいない」
「……」
「麻先生は私がこの能力であると気がつかなかったのか…か?
まぁ…あの人は」
「バカ、ですからね」
アルヴェヴォが言った。
「アルヴェヴォ…」
「失礼」
「兎に角、今度は慎重に君達とやり取りをしたい。
なるべく情報が拡散しないようにな。
一応、A棟への出入りが自然なライトレイズを通じてシ団とは連絡を取るつもりだが
迅速な情報交換をするには君が持ってきたそれが丁度いいんだ」
「シ団に任せとけば安泰ですからね」
「ああ…ウチにもあんな集団があればな」
「老人会の〝首狩り族のみんな″があります」
「聞かなかった事にしてくれ。」